一日が経過した。
同じ日付、同じ時間。間違いなく同じ年――の、同じ廃村。
けれど、食人鬼は現れない。
「あああああああ!何で!?何でよお!?」 なんでか知んないけど携帯つながらないし、繋がらないから拷問の電話できないし、事務所なんて知らないし、そういうの公に出来ない仕事だから!!
「あぁ・・・・なんでよぉ・・・」
へなへなとその場に座り込んだ。
「・・・・ごめんね。待った?」
見覚えのある黄色いドレスの少女が、そこにはいた。
「待ったわよ。何で同じ時間に来なかったわけ?」
こっちはもう始めたくってウズウズしてるってのに!
「・・・・考えたの。色々な可能性を」
アイツはあの日のように血走った目で、獣のような声を上げたりせず、ただただ俯いて、五分の姫ーーー『五分姫』、の頃みたいな喋り方で続けた。「私の飢餓感は何処から来るのか。あなたを殺さないにはどうしたらいいのか。皆平和に、なるにはどうしたらいいのか」
「腰抜けね。アタシはもうアンタを痛めつけたくてしょうがないの!!ねぇ・・・ちょっとでも罪の意識があるんなら、アンタの体好きにしてもいいわよねぇ?」
昨日一晩で集めた器具たちが火を噴いちゃうわ!
「ダメ。解ったの」
私は手を前に出して、ポツリポツリ呟いていく。
「これは違う。戻ってるんじゃないの。制限がなくなっただけ」
私がはっきりと覚えている人たちは皆、はっきりとうつる。
リロは、服の繊維まで細かに見える程に。 でも朝食に指名された彼女は、何も見えなかった。
そして今目の前に居る拷問さんは、ハッキリとしている。あの日と違う服装なのに。
「私達は、一度死にあってる。もうそれは、変えられない」
そんな都合よく、私達を操っていた人たちはしてくれない。
「だから今は、再現されているだけ。きっと、正しい道を見つけることが、脱出へと繋がるの」
この喋り方、安心する。あの眠り姫のときみたいに、ぼうっと何にも襲われず、彼女を見られたらいいのに。
わたしの中には、ぐちゃぐちゃとした感情たちと、飢餓感と、今にも向かっていきたい衝動が押し寄せてきている。
でも、我慢だ。
「何か、あの時と変えなくちゃ行けない。わたしも、あなたも。だ、からっ、わたしはあなたを襲わないっ・・・」
時折、波のように衝動が襲ってくる。目に涙が浮かんでくる。でも、でも、駄目だ。
ここでおれてはいけない。
無理しちゃって。白けちゃったわ。
そう思いながら、善人ぶる彼女の演説を思いだした。
「・・・・まあ、一理、あるけどさあ・・・アタシは襲いたいんだよね。ずーーーーっと、アンタと違って我慢させられてきたんだからっ」
そう煽り、近づいてやる。手には短刀。
いつでも殺せる。ネグの肩は小刻みに震えている。アタシが近づいていくたびに、その震えは増していく。
「ねえっアンタはどうなのさ!」
顔を鷲掴みにして持ち上げると、彼女の目はあの時と同じ、血走った目をしていた。
唇をかみ切りそうなほど噛み、眉間にしわを寄せるその姿は、五分姫の面影もなかった。
「はぁん・・・これは使えるわね」
これは拷問になる。確信した。
音を上げさせたところを、今度こそ仕留めてやるわ。
アタシは自分の口角が上がって、気持ちよくなっていくのを感じた。
あのとき、彼女を見つけて飛び掛り、ことが終わるまで、五分ほど。
今は、あの瞬間の飢餓感が、一日続いていた。
彼女はうれしそうにわたしに近づいては遠ざかり、我慢の限界を迎えたわたしがあちこち自分の体を噛むと、うれしそうにからだをすりよらせてくる。
駄目、なのね。彼女は変わってはくれない。
でもどうしても、分かり合えないものだとは思わない。歩み寄ってくれれば、理解しあえたのかな――ううん、逃げ腰じゃ、駄目。
必ずわたしもあなたも、違う選択を取ってこの空間から出してもらう。
わたしの目には幸せそうに頬を赤らめる彼女の姿があった。
「何か・・・替えは、効か、ないの・・・?」
「じゃあアンタは替えが効くの?」
この飢餓感はどこからくるんだろう。どうしてこんな風になってしまったんだろう。
わからない・・・わからない。
「治らないんだよ。どうしようもないの。そういうもんでしょ?」
やっぱり彼女はうれしそうだ。
「あーあーもーうんっざりっ!」
突然割って入った声があった。彼女はその声に聞き覚えが合ったようで、目を見開いてそっちをみた。
「野々華・・・・・?」
彼女は思わずわたしから離れてそっちへと駆け出した。
「何で・・・!?おかしいじゃない!!確かにあの時・・・」
「そう。アナタにワタシは殺された。それで、神様に転職したのよ」
腕組みをして首を傾げるようにし、目を細めて眉をつり上げた。
「ネグ。よくがんばったわね。もう十分よ。これで安心して生まれ変わらせられる」
なんてわたしに優しく言った後、彼女へと向き直り、彼女そっくりのいやらしい笑みを浮かべて見せた。
「ねえ・・・・ネグのいってたこと、聞いてたわよねぇ?それでもその差し伸べられた手をも、拷問の餌食にしちゃうんだから相当よね。アナタって」
「じゃあ・・・何?我慢してれば、出して、もらえたの?」
「そゆこと♪ま、ワタシはアナタに恨みしかないし、ここ一人取り残されて生きていくサマを一緒生み続けるのも悪くないわよねえ」
ニヤニヤしながら彼女そっくりに笑う少女。
「ま・・・待って。彼女が出ないのなら、私も待つ。だって・・・私が、殺したんだろうし・・・相手役も、必要、でしょ?」
このままこの二人だけ残しておくのはいけない、と直感がいった。
「もう、お人よしねえ。かぁいい奴め」
その一言で、彼女が誰なのか、よく分かった。
「じゃあ飢餓感を外した上で、そこの木の柱に括りつけるわね。辛かったらいうのよ・・?で、リジェ。ああ違う、リサ!」
突然名を呼ばれ、バッと顔を上げて今にも泣きそうになる彼女。
ああ、この人がリジェ。リジェなのね。
「せいぜいがんばって、ワタシ好みの努力家になることね」
そういい残し、ノノカは姿をくらました。