はさみ
蟹 クワガタ 野良猫のミコ 薊
そして・・・
指がはさまれる、傷つくという不安で
その生に手をふれ、つかむ技術の身につかなかった私に
世界は火ばさみを用意してくれた
雨の季節にあふれるように現れて
小さな指をもったこどもの私に
無慈悲にも火ばさみで盥に連れ去られた蟹は
それでも
たくさんの脱皮した殻をのこしてくれた
なにものかに奪われるまえに
引き上げ天日に干した殻は
蟹の生そのものに肉薄するが
風が吹けばとんでゆきそうなくらい軽くて
握れば粉々になるその脱ぎ捨てた殻の
魅惑的な曲線のハサミや
ちいさな透明な目にそっとふれて
誰にもみつからないように箱のなかにしまいこんだ
私は
火ばさみをおいた場所をわすれることはないのに
地中の穴深く隠れていったその蟹を
どこにいってしまったのか
もうみつけることができない