Kiokavok

フクロモモンガは有袋類。ポケットの中でコトモをあたためます。百文字モモン歌ガは森のなか…

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フクロモモンガは有袋類。ポケットの中でコトモをあたためます。百文字モモン歌ガは森のなかを滑空してゆきます

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  • 百歌

    百文字くらいの自由なシーケンス 言葉のかたちです

最近の記事

バタフライ

川で遊ぶのは好きだったが 泳ぐのは苦手だった 水泳の手ほどきを受けたのは学校のプール 足のとどく水のなかで 唯一身に付いたのは平泳ぎだった カエルのように両手両足をそろえる あの泳ぎ方はむずかしくなかった というより クロールや犬かきができなかったのだ 足をバタバタさせて 器用に息継ぎしながら右手と左手を交互に漕ぐ あの身体の動作が性にあわない まねしてやろうとすればできなくはないが 強いてやろうとは思わないしできない だから背泳ぎも平泳ぎ式に手足を動かすものだ

    • 夢うつつ

      時空と言う言葉がある。 時間は1次元であり、空間は3次元だ。 物理学では対称が基本なのに、なぜか。 夢を見る。 一方向にだけ進む時間が、巻き戻され、反復され、改編される。 脳という器官の中で、時間は3次元になる。 AIが進化し、VRがリアルとの壁を乗り越えたとき、 時間と空間はエントロピーの呪縛から離れ、対称性を手に入れるのではないか。

      • 草むしり孤撃ち

        蝮も潜む草むらをゆく 果樹を覆う葛や華や藪がらし、萱にイラクサ ぎっしりと暗号のつまった広大な私有地下から 次々にあらわれる草に囲まれて その草の再生をむしるという行為は追い越すことができないという事実が 次々にからまる ひとりで草をむしれる広さはたかがしれている この土の産出をとめることは容易なことではないだろう それでも 妄念や煩悩や失意や欲望が むしってもむしっても無尽に違ってくる ひとりでは手におえない 広大な、そして愛しい この額と膝と胸を撫でてやろう ひとりでむ

        • いち

          イトトンボがひとつ 羽は小さく透明で 見えるのは端が空色の一本の線 いちという記号が 横になり縦になり 深緑のヤブガラシの群れのうえを飛ぶ 人はいつでも発見する 切実で美しいはじめての いちを

        バタフライ

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        • 百歌
          101本

        記事

          よろこび

          かたく握りしめて拳になれなくてもいい 行き止まりで膝をかかえて弾子にならなくてもいい 一本指で何事も効率よくなんて考えなくていい あなたの想いが最大の表面積をとるように 手を伸ばして 指と指の間をひろげて バンザイをして 思い切り肺を膨らまして 足をひろげて 口を大きく開いて さあ、この大きな大きな赤い林檎に いま、飛びつき抱きしめ、そして齧ろう 林檎にとってあなたが全てであるように

          よろこび

          コクゾウムシ

          静止した保存された隠された暗い蔵のなかから きこえる 極々小さな音が 時のひと粒ひと粒を齧る顎の音が いや 生のひと粒ひと粒を齧る時の音が 私は 陽にさらして逃げまどう、その黒く小さな硬いものを ひと粒ひと粒つぶすのだが 暗い蔵のなかからきこえる音がやむことはない 私が袋につめた明日が 崩れてゆく小さな音が

          コクゾウムシ

          鈴に

          ガラスに乳歯が触れなければ 川に樫の実がおちなければ 空洞に風がふかなければ 老人の指が卓をたたかなければ 音はうまれなかった だから 未来へと脱皮していった地球の抜け殻のなかで 悲劇的でも喜劇的でもない誤脱のため 残された私という滓が つまずき、ころげなければ この鈴はならない

          産婆の手のひらに上陸して以来 土のうえをころがりつづけた俺の 汚れた泥と汗は冷たい水で幾度も洗われた 水の中ではけして聞くことのなかった 乾いた鈴の音が好きになった俺は 土の上で鈴をつくろうとした 塊を空洞にする技術も 狭い切れ込みのなかに丸い玉をいれる技術もしらない俺は ひたすらむなしく丸い泥を振り続けた 泥水に流され沈み圧縮され 豆粒ほどの殻になった俺の 空洞の中に骨は黒く乾いた玉になった 発掘されたその鈴の音を俺は聞く事はなかった

          たとえ飛べなくても

          たとえ飛べなくても

          たとえ飛べなくても

          アメノ譜

          最初の雨のひと粒は田んぼにおちた その波は蛙の背をこえて早苗をゆらした ふたつめの雨粒は製材所の屋根の上におちた 滑ってゆく間に何処かへ蒸発した みっつめの雨粒は川におちた 渦にのまれた波は向こう岸にたどりつけなかった よっつめの雨粒はちいさな池におちた 波紋はこだまのように返ってくる波と交差し、波は繰り返し生まれつづけた いつつめの雨は手のひらのうえにおちた その振動でぼくの心臓は二重に拍をうちはじめた

          ソラノ譜

          ソラに描かれた形象が楽譜だとしても ぼくはそれが演奏できない もしもそれがゆるされるなら なんてすばらしいことなのか あらゆる発想を雨のように望んでも そこにあるのは見上げるだけのソラ しかし 土鳩も蟋蟀も蜩も譜面を読めないだろう 彼らはソラで歌う 知らない歌の譜面の前で 読めない歌を歌わない もしも雷鳴が歌ならば ぼくはその譜面がみたい 雲のうえにおかれていると信じる線と点 記号と数式を みつけようとすることは愚かな希望だろうか 灰青色の幕をかけ時をとめて

          エッチング

          釣り鐘でもなく 銅貨でもメダルでもなく 細い銅線でもなく たまたま銅板であった私は 洗礼の施されたカラダに 鋭利な針で罪を刻まれ 灼熱の光の酸にひたされたあと 世情の暗い塵を擦り込まれ 無垢の朝とともに幾度もプレスされて 綴じられた本になった

          エッチング

          タライ

          タライにそそがれた水は 朝をシンクのなかに反射する 火は火になることで 灰をガラスにかえる タライのなかの白いタオルを 手は水に浸かり取りだしてしぼる 水は水であることで泥をとかし流れ  湛え 浸透し 清く澄み、いずみとなって 美しいあなたの頬を拭う

          葉っぱのまんなかに鞄がひとつ なかから蝸牛がでてきて 空っぽの鞄背負って 雫を漕ぐ 道のまんなかに箱がひとつ なかからこどもが這い出て 空っぽの箱を背負って 水たまりを漕ぐ 宇宙のまんなかに星がひとつ   なかから海女が顔だして 空っぽの星背負ったまま 海を漕ぐ

          雨にのって

          雲にとどまり てらされて 薔薇色に染まることは 水の分子にとって 永遠なる世界での祝福なのだろうか ならば 地上への墜落は苦難の道行きのはじまりなのか 蒸発し昇天してゆくまでの それとも 雨となり地にしみて 山の樫の木のなかを 孟宗の輪のなかを 地を遣う獣の中を そして人のなかを 旅することこそが祝福ではないのか 谷によこたわる澄んだ川が 葉にとどまる丸いつゆが 空を映しているのは 漂う雲が永遠なるものに 母なるものに 地に 焦がれているからではないのか 雨となることを夢

          雨にのって