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猫のきみに
きみの柔らかな毛のなかに
贈られていた二つの肺
広い大気と小さな肺との間で
きみはゴロゴロしている喉
しなやかに尾をくねらし
広い空と小さな肺の間で
きみは左手を研ぐ舌
やせた背中に切り立つ背骨をさすれば
広い地球と小さな肺の間で
きみはいまにも溺れそうな心臓
きみの胸から抜かれたシリンジのなかの
日溜まりのような水をみつめるふたつの眼を浮かべた
わたしの
わたしの硬くなった皮膚のなかに
贈られていたひとつの時間
長く続くだろう時間と限られた時間の間で
わたしはゴロゴロする足
未来と今の間で
わたしは鼻をホジホジする指
光と脳髄の間で
わたしはパチパチする瞼
微動だにしない衛星の周期と
弱い拍を打ち続ける心臓の間で
出口なく溢れ続けて圧迫してくる
わたしの胸から抜き取られた
シリンジの中の色も形もないものを
読んでくれるだろうか
きみはそのビードロのような目で