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百歌

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百文字くらいの自由なシーケンス 言葉のかたちです
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記事一覧

草むしり孤撃ち

蝮も潜む草むらをゆく 果樹を覆う葛や華や藪がらし、萱にイラクサ ぎっしりと暗号のつまった広…

Kiokavok
5日前
1

いち

イトトンボがひとつ 羽は小さく透明で 見えるのは端が空色の一本の線 いちという記号が 横…

Kiokavok
8日前
3

よろこび

かたく握りしめて拳になれなくてもいい 行き止まりで膝をかかえて弾子にならなくてもいい 一本…

Kiokavok
11日前
2

コクゾウムシ

静止した保存された隠された暗い蔵のなかから きこえる 極々小さな音が 時のひと粒ひと粒を齧…

Kiokavok
12日前

鈴に

ガラスに乳歯が触れなければ 川に樫の実がおちなければ 空洞に風がふかなければ 老人の指が…

Kiokavok
2週間前
2

アメノ譜

最初の雨のひと粒は田んぼにおちた その波は蛙の背をこえて早苗をゆらした ふたつめの雨粒は製…

Kiokavok
1か月前

ソラノ譜

ソラに描かれた形象が楽譜だとしても ぼくはそれが演奏できない もしもそれがゆるされるなら なんてすばらしいことなのか あらゆる発想を雨のように望んでも そこにあるのは見上げるだけのソラ しかし 土鳩も蟋蟀も蜩も譜面を読めないだろう 彼らはソラで歌う 知らない歌の譜面の前で 読めない歌を歌わない もしも雷鳴が歌ならば ぼくはその譜面がみたい 雲のうえにおかれていると信じる線と点 記号と数式を みつけようとすることは愚かな希望だろうか 灰青色の幕をかけ時をとめて

エッチング

釣り鐘でもなく 銅貨でもメダルでもなく 細い銅線でもなく たまたま銅板であった私は 洗礼の…

Kiokavok
1か月前
3

タライ

タライにそそがれた水は 朝をシンクのなかに反射する 火は火になることで 灰をガラスにかえ…

Kiokavok
1か月前
2

葉っぱのまんなかに鞄がひとつ なかから蝸牛がでてきて 空っぽの鞄背負って 雫を漕ぐ 道の…

Kiokavok
2か月前
2

雨にのって

雲にとどまり てらされて 薔薇色に染まることは 水の分子にとって 永遠なる世界での祝福なのだ…

Kiokavok
2か月前
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再会

人生の経験や厚みや罪なんてものが すべて削がれて骨格があらわになった時 ひとは祖先の誰か…

Kiokavok
2か月前
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にんじん

道のまんなかに人参 ふさふさの葉っぱの噴水で 進行禁止の夕方 その人参を アスファルトから引…

Kiokavok
3か月前
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懐胎

地球の中の こどものなかの 子宮の中の こどものなかの 地球の中の ことものなかにある 算術は 未だこぬものを はじめに前提する わたしが割った 殻の外の 母が割った 殻の外の 見知らぬ男が割った 窓の外にある 算術は はじめにあったものを 最後にあきらかにする