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黒いマントを着たかぼちゃ頭が日本刀を振り下ろす。白い浮遊体は見事に両断され、 「ぎぃやああっ」 断末魔を上げると、蒸発するように宙へと消えていった。 かぼちゃ頭は刀を鞘に納めると、休む間もなく走り出す。刳り貫かれた内部に灯る炎が揺らめき、両目がきらりと光る。 日本はまさにハロウィンの真っ只中。さりとてジャックオランタンを置いているのは何軒だろうか(日本に限った話ではない。多くの家はただただハロウィンを楽しんでいるのだ)。 今夜は年に一度、霊が家々を尋ね、同時に
※見開き1ページ相当の小説です 「今日も今日とて嫌なことばっかりだ! シラフでやってられるか! 飲むぞ!」 飲み過ぎないように気をつけるのは大前提で。ビールを開けて、キンキンなシュワシュワをグビグビっと流し込む。 「ああ、ウマい!」 たまんねぇな! 疲れた身体が生き返るような感覚がする。 「枝豆、唐揚げ、餃子! そしてビール! やっぱ最高だな!」 誰もいない部屋に独り言が響く――それがなんぼのもんじゃい。 一人酒最高! スマホを取り出してSNSを見ながら。
第三章 デジタル革命 00 自由洗脳競争社会(評価経済社会) 「さて、本題である未来予測の前に、まずは現代について軽くまとめてみようか」 友達は次へ進める。 多くの人々が線で繋がった画像だ。 「今の状況ってのはマスメディアに対してマルチメディアと言うべきだ。つまり誰もが発信でき、誰もが繋がれる状態。となれば、誰もが個人の悩みを受け止めることができる訳で、だからつまり洗脳による顧客争奪戦が起こっている」 「そう言われたら確かにそうだな……」 「逆に言えば、溢れる
第二章 産業革命 00 自由経済競争社会 工場が乱立された絵。工場勤めらしき女の立ち絵が登場。 「資源は大量だ、しかし時間がない。ああ、なんて忙しい毎日なんだ!」 同様の姿の女が登場。 「食べ物も日用品も労働も、全てはお金と交換可能なものだ。つまり働けば稼げる」 同様の姿の男が登場。 「もうあんな貧しい生活なんかに戻ってたまるか! 自分たちの身分を受け入れて細々と生きていくなんてまっぴらだね! 我々は自由を手に入れた! 今や誰もが豊かになる権利を与えられたのだ
序章 「近未来を予測する方法? このゲームをやったらそれが分かるって言うのか?」 ヴァンは懐疑的な顔を向けるが、友達はニヤニヤと楽しそうな笑みを崩さない。絶対に何かある。 「ま、騙されたと思ってやってみろって」 「嫌なんだけど」 「騙されろって」 「…………はぁ」 強情なまでに表情が崩れない。こういうときは諦めるしかないことをヴァンは知っていた。 「でもさ、USBに入れてきたソフトってのが怖いんだけど」 「そりゃ俺の自作だからな」 「……は?」 「さあさあ、インス
※『彼某』という単語を「かのがし」と読んで、彼・彼女以外も含めた全てに通用する三人称として使用しています。ご了承ください。 「じゃあ、部活行くよ。またあとで」 「うん。頑張って」 「そっちも勉強がんばれー」 掃除が終わった教室で二人は淡白な距離感でそう言い合った。友達は振り返ることなく教室から出て行って、そんな背を彼某は微かに寂しげな目をして見送った。 最後に手を振るぐらいしてくれてもいいのに。 そんなぼやきを心でする。 分かってる。そんなことをする訳がない。
「神様がね、たくさんの甘い果実を売ってるのよ。それを求めてみんな行っちゃった」 二本足でぞろぞろと歩いていく猿たちの姿を思い出して、栗毛の猿が悩ましげに言った。腰かける枝が僅かに軋む。 隣の木に座る黒毛の猿は、ゆっくりと目を細めて彼女をじっと見ると、瞬きを数回、何かに気づいたような顔をした。 「君も行きたいの?」 「え?」 「そんな顔してる」 栗毛の猿は驚いていた。黒毛の猿は続ける。 「この森には君しかいなかったし、それだけ魅力的な果実があるんでしょう?」 数秒、彼
いつか終わる。 あの日、空港で君の答えを待っていたとき、僕は悟っていたと思う。それでも見ないフリをして、告白を受け入れてくれたことに舞い上がった。誤魔化して、なんとかなると期待して、頑張って。不安になる自分を否定して。 それでも僕は今こうして一人きりの人生を歩んでいる。 一人になって半年、僕に出張の仕事が与えられた。都合上あの日の空港を使わざるを得ない感じで、すぐさま代わってもらうことが頭を過ったが、こんな理由でなんて未練がましい気がして諦めた。当日はできる限りギリ
「行くぞ、みんなぁ!」 少年は拳を振り上げて叫び、直後、帆が力強く何かを受けて、彼だけを乗せた小さな帆船が動き出す。無風の中で力強く張っている帆は、まるで胸を張るようだった。 彼の白いシャツが太陽を浴びて燦々と輝く。海原の中にぽつねんと浮かぶその背中が、徐々に小さくなっていった。 翌日は大時化だった。狂喜乱舞に殴りつける雨と風は帆船を破壊しそうなほどで、束縛的な怒涛が立ち上がることを許さない。痛くて、寒くて、それでも少年は懸命に堪えていた。 天気は更に荒々しくなる