手から手へ 作り届けるということ。ミシマ社編集者、星野さんと本と仲間たち。
司会:高橋久美子(作家・作詞家)✕ 文部健司(音楽家・詩人)
ゲスト:星野友里(編集者)
師走の金夜は、高橋久美子の10年ぶりの詩画集「今夜 凶暴だから わたし」の出版記念イベントの前日。そしてゲストは、この本の担当編集者として高橋と共に伴走してきたミシマ社の編集者星野友里さんでした。偶然にして82年生まれの女性同士ということもあり、高橋の詩の世界観に同じような価値観で向き合うことができたという星野さん。編集者って憧れの職業でもありますが、具体的にはどんな毎日だろう。本という身近な存在を作り育てる星野さんの思いをお聞きしました。
●1982年生まれ ゲスト:星野友里
高橋:今日はみんなパラパラと来ますねえ。師走感ありますね。では、ゲストをお呼びしましょう。親戚の飲み会だと思って気楽にお話してください。82年生まれ、ミシマ社編集者の星野友里さんです!よろしくお願いします。
星野:よろしくお願いします。
高橋:なんとなんと私達三人、ほぼ一ヶ月以内に生まれているんですよ。私が82年の4月10日で、このあとお生まれになったのが星野さん。
星野:5月15日です。
綾部:僕が5月19日!
高橋:すごいよねえ。僕ら宇宙の三つ子だよ!笑
星野:あははは!確かに宇宙から見たらねえ。
綾部:キャッチコピーとしてはちょっとダサいですけどねえ。 爆笑
高橋:そうそう、この私の新しい詩画集「今夜 凶暴だから わたし」の編集を担当してくれたのが、星野さんなんですね。
高橋:編集者の仕事ってどういうことしてるんだろうって興味ある方も多いと思うんです。今日出版社率高いですけどね(他にもちらほら来てくださっていた)。
編集っていうお仕事は、影のお仕事だと思うんですが、私達作家と二人三脚で伴走してくれる本当になくてはならない存在で。そうそう、綾部くんがさっそくミシマ社さんの本を買ってましたね。
綾部:「クモのイト」ね!僕の大尊敬する福岡伸一先生がコメントを書かれていたので興味を持ちました。僕は蜘蛛は大の苦手なんですけど、ちょっとでも仲良くなれたらいいなあと。まだ三分の一くらいしか読めてないんですけど。
高橋:手術するときに蜘蛛の糸で縫ったとか聞いたことがあるんですけど?
星野:そうなんですよ。私もこの本を編集したことでにわかに蜘蛛に詳しくなっているんですけどね。人類は昔から蜘蛛の糸で何とか服を作りたいという野望に燃えていて。
高橋:昔からなんや!やっぱあの蜘蛛の巣見てたら使ってみたいって思うよねえ。実家で庭木にかかってたら綺麗で壊すの申し訳ないもん。でも壊しても3日で全部復活してるんよ!
星野:そう!彼ら実は毎日張り替えているんですよ。で、そういう風に、この本を担当するまで、私は蜘蛛に対して好きとか嫌いとか特に意識すらしていなかったんですが、本づくりの過程では、3か月くらいは蜘蛛漬けになるのが編集の面白いところだなと思っていて。これまででも、将棋のノンフィクションを担当したことがあったんですけど、急に棋士に詳しくなって、普段何気なく見てた新聞の将棋の欄にすごく目がいくようになったり。その時々に作っているもので、どんどん自分の中身が変わっていくというか、そういうところが面白いかな。
高橋:やっぱりのめり込んで好きになるって事が編集者として重要なんですかね?
星野:そうですね。この本のときはあまりに蜘蛛を画像検索しすぎて社内で蜘蛛が出てきてもわかるんですよ「これ○○蜘蛛」って。笑 著者の先生よりは素人なんですけど、その世界を垣間見ることができるのは面白いことですよね。
綾部:いい詩がかけそうですよね。物事を掘り下げるってことですもんね。
星野:それが、今朝高橋さんから「星野さんも良かったら詩を書いてきてください」ってメールをいただいて、少し試みたんですけど、全く言葉が自分の中に出てこなくなってしまって。詩を作るって何だろうって根本的なことを考えてしまって。
高橋:言葉の分野にいるからこそ考えすぎちゃうんですね、きっと。
星野:そうかもしれないです。あまり意識的ではなかったのですが、編集の仕事って論理構造で文を捉えてしまっているんですね。今日、自分で少しだけトライしてみて、お二人の詩が本当にすごいとわかりました。同じように言葉に携わっているけれども、言葉を見ている角度が違うんだなと。
お二人のお話を伺っていると、二人の中には言葉のストックがあるんですか?
高橋:ストックと言うよりは、何を見て生活するかということ。書いてない時間の方が私は、大きいかなと思いますね。
綾部:僕はプロの方の詩の模倣というのをずっとやってきて、「俺だったらこういう目線で書くな」とか。だから今は自転車を漕げるようになったことに似ているというか。感覚で乗る(書く)。いや、そんなに簡単じゃ全然ないんですけど(笑)。僕が詩に求めているのは、アンビエントを聴いて気持ちが安らいでいる状況を、詩を眺めて心が落ち着く状況と同じにしたいだけなんです。演奏してて、カオスになることと、同じ気分になれるような言葉を選んで行くだけなんです。
(ガチャ)お客さんが入ってくる
高橋:いいとこに来たよー。今カオスに突入しようとしていたわ。爆笑
高橋:それでは、星野さんの一日の仕事の流れといいますか教えてもらいたいね。
星野:日によるんですが、例えば今日ですと。小さい会社なので、完成した本を新聞社さんとかメディアに紹介する仕事や、イベントの企画なども編集担当がやったりするので、朝出社して、11月に出た本についてメディアとの方とやりとりをしたり。
高橋:プロモーションですね。
星野:はい。著者さんのスケジューリングとかしつつ、この「今夜 凶暴だから わたし」の本屋さんからの注文を電話で受けたり。
高橋:こないだ、サイン本を作ってくださいということでミシマ社に書きに行ったりしていましたけど。サイン本作っちゃうと本屋さんが完全買取になってしまうので、サイン本はいいですと言う本屋さんもいますけど
綾部:でもミシマ社は買取で卸をはじ…
高橋:お!いいところに!その話あとでしてもらおうと思ってた。まずは一日の流れを。笑
星野:あははは。で、今は1月に出る本が佳境なので著者さんに、ここは言葉を足したらどうですか?とか原稿に鉛筆を入れたり。
高橋:そこよねえ。だからちゃんと漢字とか文法的なことも知っておかないといけないよねえ。語彙力というか。
星野:あと、たとえば具体的な出来事について「何年何月に」などと書いてある場合には、合っているかどうか調べたり。2月に出る本の原稿が来るはずのタイミングだから、ちょっと催促したりとか。並行して大体5〜6冊の企画が何となく動いているので、その本にとっての、そのタイミングで必要ないろんなことをしているという感じです。
高橋:ひやー。すごいなあ。何時くらいに帰れるんですか?
星野:出版社って遅くまでやってるイメージがあると思うんですけど
高橋:雑誌持ってるとこなんかは徹夜とかすごそうですよね。
星野:そうですね。うちは社長のミシマが健康的な生活重視なので、夜遅くまで残ってるなら、帰って明日早く来ようみたいな感じですね。
高橋:素晴らしい。
星野:出版社にしては朝が早くて9時始業で大体夜は8時くらいに帰ります。最後の印刷所に入れる間際などは、どうしても遅くなることも多いですけどね。
高橋:こないだ、浅生鴨さんを中心に作家さん10名くらいで同人誌を作って、文学フリマにも出して、その場でも200冊とか出て、ネットでも鴨さんが販売してくれて1000冊売れて重版もかかってってなっていて。正直自分たちでも本を作れる時代になっていますよね。でも、じゃあ出版社を通すことで何がいいかとなると、優秀な編集者さんがいてくれることで第三者の目線で客観的に作品を見てくれるっていうのは重要だと思うんですね。あと本屋さんへ繋いでくれてプロモーションも頑張ってくださる営業さんがいてくれたら、私達は書くことだけに集中できる。心がより健やかでいられるなと思いますよね。
星野:やっぱり一冊の本を作るのってすごく大変で、この本も高橋さんと濱さんが3年越しで書かれていて、それだけのエネルギーが注がれています。それはすごくいいことである反面、作品に対してある種、思い入れが強くなりすぎて、デザインのイメージやタイトルの可能性の幅が狭まってしまうこともある。編集者や出版社の役割は、その著者の方の思いと、読者の方がそれを受け取るときの感触のギャップを、ちょっと引いたところから見てつなぐ感じかなと思います。
この作品も、最後、帯をつけるかどうかというので迷って……
高橋:そうなんですよねえ。ちょっと帯(本を持って)あるとなしで見てほしいんですが、帯って私は実はあまり付けたくないんですよね。ない方が美しいじゃないですか?濱さんの絵も切れるしね。でも、それは私達の目線で。中身を全く知らないお客さんにとっては帯があることで親切になりますよね。
綾部:でも、表紙にまで口出しをできるというのは編集者に余程の力がないと難しいんじゃないですか?
高橋:それが、本の世界ではスタンダードで。CDで言ったらジャケットじゃない。自分たちがこれがいいってなったらそれでいくやろ音楽の世界だったら。私、音楽から出版の世界に飛び込んでそのあたりが一番びっくりした。ちょっと待って!ジャケットを全部編集者が決めるってどういうこと?って思った。初めて本作ったとき、「帯文こんな感じでどうっすか?」ってメール来たから「ダメですダメです」って。「もう私が考えます」って。何でも首突っ込んでたらしまいに「高橋さん、あなたもうでしゃばりすぎです」って。爆笑
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