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【映画批評】#15「あのコはだぁれ?」ニューヒロインとニューアイコンの邂逅

Jホラー界のヒットメーカー清水崇監督作、「あのコはだぁれ?」を徹底批評!
映画を面白くするための作り手のサービス精神がてんこ盛りの本作。客層の悪さすら味方につける清水監督は本物のエンターテイナーだ!!


鑑賞メモ

タイトル
 あのコはだぁれ?(107分)

鑑賞日
 7月28日(日)9:10
映画館
 あべのアポロシネマ(天王寺)
鑑賞料金
 1,600円(会員休日価格)
事前準備
 予告視聴、昨年ミンナのウタ鑑賞
体調
 すこぶる良し


点数(100点満点)& X短評

85点


あらすじ

ある夏休み。補習授業を受ける男女5人。
この教室には、“いないはずの生徒” がいる──。


とある夏休み、臨時教師として補習クラスを担当することになった君島ほのか(渋谷凪咲)の目の前で、ある女子生徒が 突如屋上から飛び降り、不可解な死を遂げてしまう。
“いないはずの生徒”の謎に気がついたほのかと、補習を受ける生徒・三浦瞳(早瀬憩)、前川タケル(山時聡真)らは、“あのコ”にまつわるある衝撃の事実にたどり着く……。
彼らを待ち受ける、予想もつかない恐怖とは……?

「あのコはだぁれ?」公式HPより引用

ネタバレあり感想&考察

最悪の客層すら味方につけた!?
サービス満点のエンタメホラー

思いつきで勢いでやっちゃった感含め、サービス満点。ホラー表現の手数をできるだけ多く打ちこむ狙いがバシバシ決まっている。映画から楽しくて楽しくてしょうがないという雰囲気をビンビンに感じた。監督は本当に楽しかっただろうなとしか思えない。そういう映画だ。

日曜朝9時の回、大きめのスクリーンだったが、8割以上埋まっていた。口コミの効果か最近のアポロシネマでは珍しい、多めの客入りであった。そのほとんどが中高生という観客構成。予告の段階からペチャクチャしゃべり倒していて正直やかましかった。

いざ本編開始となり、「松竹」のロゴが出ると

「まつたけ!!」

と結構なボリュームで叫んじゃうバカがいるような最悪な環境。

もちろん、怖がるリアクションも含めてとはいえ、上映中もわりかし普通に声を出したり、喋っている。当初、応援上映的な声出しOK興行だと思ったが、スタッフが注意に来ていたので、そういうことでもなさそうだった。
これだけ切り取ると映画の出来に関係なく、悪い映画体験だったとなるのが普通だ。しかし、この映画は違った。

映画自体がサービス精神に溢れているので、気にならないのである。引きでみると映画が観客を手玉に取っているように映る。観客の反応が映画の良さを増幅させるような関係性に思えた。

自分自身は普通の人より映画を数多く観てきた。すれっからしの映画ファンとして反応が鈍くなるのはしょうがない。本作も怖いところももちろんあるが、表現が過剰なので逆に笑ってしまうぐらいであった。ホラーを通り越してギャグに映る部分も多々ある。ジェームズ・ワンの「マリグナント」(超傑作)の楽しみ方とかなり似ている。おそらく影響は受けていると思う。

慣れっこになって【ズブい】反応を示す中年観客を尻目に、見たものに素直に反応する【ジュブい】中高生観客のコントラストが面白く感じてしまった。横の女子高生が友達同士で抱き合い、ビビり散らかしながら観ているのを横目に、手を叩いて爆笑する36歳ぼっち鑑賞男が並ぶという特異な空間。

こんな二律背反の感情をわかりやすい形で表出させている時点で製作側の大勝利である。夏休み映画としてターゲットとなる学生を中心に朝の9時からしっかり動員させている。これは簡単にできることじゃない。シンプルにスゴイ。

加えて前作にあたる「ミンナのウタ」はGENERATIONSというわかりやすく具体的な動員力を持ったスターをキャストに配しているが、それに比べるとテレビスターとはいえ渋谷凪咲主演は疑問だった。しかし、NMB卒業後の動員力と演技力が未知数の元アイドルをメインに据えての動員結果だけに価値は大きい。
今回の清水組は興行主として最高のイベンターだといっていいだろう。

ちなみに前作の「ミンナのウタ」との連関を説明すると、下記すべて対応可で作られている。
①本作単体だけ観る
②前作→本作の順で観る
③本作→前作の順で観る

もし前作「ミンナのウタ」を観て、本作を観ていない人は今すぐ映画館に行こう。今後拡大の余地がある高谷さなユニバースの広がりを感じましょう。(↓は昨年の「ミンナのウタ」X短評)

超積極的な嫌ごとしい
Jホラー界のニューアイコンさなちゃん

前作からの連投となった高谷さなは本当に目新しいホラーアイコンだと思う。お化けとして怖いというよりは、めちゃくちゃジャマくさい厄介者という印象が強い。(「MEN同じ顔の男たち」の最後に出てくるアイツみたいなヤダ味を感じた)

これはあまりなかった発想だ。
もともとの自身の死ですら他者の手を汚すためだけに自ら積極的に仕掛けている。生きている時からそういう気質であったことも前作より鮮明になった。死してなお、他者を不快にさせることに執念を燃やす、いらんことしいといった生半可な表現では全然足りない【究極の嫌ごとしい】であることが本作で確定した。

今作においては、前作と比べると動機がわかりやすいので、そういう意味では観やすい。ただ、さなちゃんが仕掛ける嫌ごとは質も量もグレードアップしており、ホラーとして強度が上がっている。(その嫌ごとも割と物理的なのが面白い)

高谷家家庭訪問、さなの両親(特に母)、祖母新規投入、自販機の踏襲、ゲーセン、校内、高谷家クライマックス…
ありとあらゆる嫌ごとを、あらゆるシチュエーションで全方位に仕掛け、不快の渦潮に引きずり込むニュータイプさなちゃん。引き金となった茂美の転落事故までの話など、まだまだ掘り下げる余地を残しており、続編の可能性も感じさせる。

Jホラーファンであれば、いま押さえておくべき重要キャラなのは間違いない。(↑はさなの母役のインタビューです)

とりあえず、さなの母も同じぐらいパワーを持ったホラーアイコンなので、92年に何があったかの前日譚をいずれ製作していただきたい。選択肢として残しているのは間違いないと思うので、期待して待つことにする。

イヤな目に会うたびに輝きを増す
渋谷凪咲という人選のシンデレラフィット

前述したが、渋谷凪咲で客入るけ?というのが観る前の正直な心情であった。ただ公開2週目の朝であの動員だったので、それは杞憂だったのだろう。初主演映画で出来の良い映画に当たってしまう引きの良さにスター性を感じる。実際演技に違和感はなかったし、上手にこなしていたと思う。

ただ本作ヒロインとしての渋谷凪咲の魅力はそこがメインではない。役者として手垢のついていない可愛い女性が徹底的にイヤな目に会っていること、それ自体が魅力なのである。

なぜそれが魅力なのか。決して性格が悪いからこういう楽しみ方をしているわけではない。
ホラー映画の実質的主役はホラーアイコン(本作だとさな)だからだ。ヒロインの最重要課題はその映画のホラーアイコンを引き立たせること、それだけである。映画初主演作品でその役割を見事に全うした渋谷凪咲はやっぱり【持っている】と言わざるを得ない。

この人選に決めた采配もお見事。
AKBの隆盛からブーム化し、SKE、NMB等が派生してユニットが誕生。渋谷凪咲はそのNMBでも山本彩、渡辺美優紀などの初期メンが築いてきたレールを継いで、アイドルとしてキャリアを築いてきた。実際そうではないことは重々理解してるが、世間からは運よく苦労少なく芸能界を渡り歩き、うまく時流に乗って早売れしたタイプにみられやすいと思う。

雑な言い方に聞こえるかもしれないが、そういうタイプであればあるほど、やられっぷりが映える。渋谷凪咲がイヤな目に会うたび、映画が輝いた。

中学校教師を演じて違和感のない年代となると、少なくとも25歳以上。やられっぷりを映えさせるには、役者として経験の少ない女性、あまり色のない存在なら尚良し、となるとたしかに渋谷凪咲が最適解な気がする。
グラビアアイドルだと映画の嗜好が変わってくるし、有名女優を当てると予算の関係上、お金をかけたいところにかけられなくなる可能性がある。ここにパチッとハマった渋谷凪咲とこの人選を決断した製作陣のシンデレラフィットもこの映画の魅力を引き上げた。

ニューヒロイン渋谷凪咲とホラー界のニューアイコン高谷さなの邂逅は思わぬ化学反応を生んだ。本当に面白いと思えるポイントがそこかしこにある映画だった。

ぜひ観てください。


まとめ

鑑賞前の期待値を考えると相当面白かったと思います。
早瀬憩と穂紫朋子を中心とした生徒たちの演技もしっかり見どころを用意していますし、前作から連投となったマキタさんもコメディリリーフ兼狂言回しとしての活躍があり、シリーズとしても単体としても楽しめる作りになっています。本当によくできています。感心しました。

染谷将太は昨年公開の「ほつれる」に続き、映画序盤に車に轢かれる役でちょっと不憫に思えました。笑

あと、これは映画の問題ではないんですが、クワバタオハラの小原さんが早瀬憩の母役で出てきた瞬間に「クワバタオハラがおったらそこは大阪や!」を思い出してしまい、若干ノイズになりました。笑

永野、許さん!!!


最後に

ベビーフェースがヒールにやられる構造といえば、ダンプ松本にひたすらやられる天咲光由ですね。本作はこの構造がバチバチに効いていたということです。
これを観れば本作「あのコはだぁれ?」を観たのと実質同じです。(そんなわけない)

お疲れ様でした!!

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ご拝読、ありがとうございました。


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