【映画批評】#29「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」自らフォーマットを崩す挑戦は大成功!
殺し屋女子2人組のモラトリアムな日常とハードなアクションのギャップで人気を集める、阪元裕吾監督による青春アクションエンタテインメント「ベイビーわるきゅーれ」の第3弾「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」を徹底批評!!
プログラムピクチャー化するんだろうなという筆者の平凡な予想を覆す、挑戦的な一作は本シリーズの格上げに大成功。ちさととまひろが成長した!!
鑑賞メモ
タイトル
ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ(112分)
鑑賞日
9月29日(日)9:25
映画館
MOVIX堺(堺浜)
鑑賞料金
実質0円(ムビチケエポスポイント購入)
事前準備
予告、過去シリーズ2作、テレ東ドラマ視聴
体調
すこぶる良し
点数(100点満点)& X短評
85点
あらすじ
ネタバレあり感想&考察
シリーズ初!ちさととまひろの成長を描いた
掟破りの挑戦は大成功!!
短評でも書いた通り、シリーズ最高傑作だと思う。
ただ厳密には筆者の個人的目線という意味での最高傑作であり、本当の最高傑作は1作目のベビわるしかありえない。
10代のカワイイ女の子が実はやり手の殺し屋コンビ、しかも超本格派アクションが繰り広げられる、を初見で観た衝撃を上回るのは阪元監督では今後、別作品に頼るしかない。だからベビわるにおいて、1作目の最大瞬間風速を超えるというのは構造的に難しい。
その制約の中で、2作目は敵側の背景の深掘りを丹念に行うことで、良くも悪くも成長がなさそうなちさまひの日常と魅力的な敵側の物語を並行することで構築した。個人的には2作目は面白かったけど、結構置きに行った作りだなという気持ちも同時に持っていた。
それこそ前回の#28で触れた「犯罪都市」シリーズのように、対角の殺し屋が現れて最後そいつらと対峙してやっつける、というフォーマットに即したプログラムピクチャー路線で続編が量産されるのだろうと予想していた。
しかし、本作でその予想を早速裏切られた。
というより、裏切ってくれた!(嬉)が正解か。
出し惜しみすることなく、ちさまひ(特にまひろ)をあっさり上回る最強の敵とのマッチメイクを早々にカードとして切るとは思わなかった。
序盤も序盤の池松壮亮とのフルスロットルアクションマッチin宮崎県庁は、それこそ長州のハイスパートレスリングの考えそのままに、ハナからギアを最大限に持って行き、ロケーションも相まって、その贅沢さを強調できた。
もうこの時点で映画としては勝ちと言っていい状態。
完全にマンネリと化した「犯罪都市」とは明らかに違う創作意欲だ。池松壮亮演じる冬村かえでも今までとは違うのっぴきならない相手であることを最初の最初に印象付けることで緊張感を持たせた。
おっ!前2作とは違った空気だぞと観客に思わせ、さらにちさまひ以外のゲストとのチーム仕事が課題として降りかかることで、敵との対峙以外の新たなギミックの投入も比較的滑らかに差し込んだ。新鮮さのアピールとしてはほぼ満点に近い。
本作の大きなポイントは、前述した新たなギミックである【挫折と巻き返し】、【他者との邂逅と結束】という、本シリーズとは一番縁遠いと思われていた成長物語というカードを切ったことにある。筆者は前述したプログラムピクチャー路線に反する、この掟破りに歓喜した。2作目の構造である敵側の背景掘り下げもしっかり本作に活かされており、それまでの要素が有機的に相互作用してできあがったものが本作に感じられた。さらに原点であるアクション描写にこだわり抜いた作品でもある。実際、元からポテンシャルが高い伊澤彩織は当然として、専業俳優である髙石あかりのアクション演技の成長は著しい。監督も演者も一緒に成長していっている感じが観てて気持ちがいい。やはり好きにならずにはいられない。
阪元監督はイイね!!最高だと思う。
仲間は大事だというシンプルな解
2人だけの世界から広がりをみせた
ちさまひの成長として、社会性の獲得を課題として設定したのも良かった。
それまでは、2人と敵側以外の存在の軽視が物語の強度を弱めていた印象があったからだ。特に2作目でそれが露呈した感があり、そこを解消しないとと思っていた矢先の前田敦子、大谷主水が仲間になる設定で事前に安心できた部分もある。
もちろん最初からうまくいくはずもなく、徐々に相互理解を深めながら、といったこれ以上ないほどの真っ当でありきたりなチーム結束描写も本シリーズはそれが意外性になった。もともと変則的な作品性という特徴を逆手に取って、よくある話をやることで意外性を生むというのは面白い結論だ。やっぱり作品自体がものすごい希少性を持っているのだと解釈した。
冬村かえでの方もまた、仲間を欲しているという設定も面白かった。
仲間が仲間となる過程も、ちさまひチームと冬村では内容が相反しており、ここでも対立構造に要素の重なりを持たせ、より重層的にしているのも良かった。(次章で詳しく説明します)
ここの脚本というか設定はめちゃくちゃうまいと思う。知恵も借りながらだとは思うが、阪元監督の脚本力もめきめき成長している気がする。
脚本にひとつ注文をつけるなら、セリフ回しやギャグが観る者のセンスに委ねられすぎるところ。ただこれがベビわるらしさでもあり、改善の仕方は難しい。
前田敦子演じる入鹿が灰原哀に憧れて、一見つっけんどんに思われる人格になってしまったなどのあるある?的なギャグは結構ギリギリの線を行っていると思うし、鼻白む人がいるのも理解できる。
こういうクセのようなものはこういう風に変えろとも言いにくい。ここはかなりギリギリのバランスなので、作品のデキが悪いときに一気につつかれる可能性がある。そこだけちょっと心配かな。
テレ東で放映されているドラマ版の「エブリデイ」も映画公開後から、2人だけの世界からの広がりを感じさせる作りだし、本作も今後の展開に活かせる作りになっている。ギャグの実験場としても使える場だとは思うので、そこでいろいろ試してほしい。
やっぱり、ドラマ版も押さえておいた方がよさそうだな。ちゃんと観よう。
前田敦子という孤高の存在
同じ孤高の池松壮亮との対比で魅せる
本作のMVPは前田敦子だ。これは強調して言いたい。
最強の敵、そして孤高としての池松壮亮に対抗しうる見事なキャスティングだった。
ご存じのとおり、AKB全盛時代のセンターの重責を長年担ってきた前田敦子はリアルな孤高の存在であり、作品内の入鹿みなみも当初は孤高に感じられる存在だ。その孤高の存在である入鹿が抗争でのミスを認め、ちさととまひろに素直に謝罪と感謝を示し、仲間となっていく過程はAKB時代のセンターというトップの姿勢を示し続けたリアルな彼女を思わせ、グッとくる。
さらに同じく孤高の冬村も仲間を得ていくが、それは圧倒的な実力と恐怖による支配であって、実質的な仲間ではないという構図だ。
仲間ができた冬村は決戦に向かう社内で拳銃の話をテンション高く楽しく話す。一方で仲間にさせられたファームの殺し屋連中は話を合わせるも、あからさまに苦笑いしている。
この入鹿と冬村の仲間を得ていく描写の対比が素晴らしかった。
ちさまひの成長ドライバーとして、冬村との対立構図の強調材料として、もちろんアクション含めたアクターとして、前田敦子は縦横無尽の活躍だ。
今後はラストに援護してくれる存在として友情出演してくれるとかがありそう。出てくれるだけでうれしくなる存在が増えるのはシリーズものとして良いことだ。
あと付け加えておきたいのが、田坂さんと宮内さんの存在感を増せたのも良かった。もっと人気が出れば、処理班のスピンオフドラマもできそうだ。これも期待したい。
公開前はちょっと不安な面もあったけど、全然そんなことはなくて安心した。まだまだ期待できるシリーズである。また会いましょう!
まとめ
大満足!エンタメ映画として万人に勧められる良い映画です。
過去作ファンなら当然、初めてがこの映画でも問題なし、と言うことないです。黙って観に行ってください。楽しいですよ!
次は国岡作品やってほしいです!どうぞよろしく!
最後に
書いてる途中にジャパンダートクラシック三連単的中、大阪ダービーセレッソ勝利と縁起が良いですね、この映画。さらに好きになりました!