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【映画批評】#50「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」 ある男がアメリカなるものに取り込まれるまでの物語
「ボーダー 二つの世界」のアリ・アッバシ監督が「キャプテン・アメリカ」シリーズのセバスチャン・スタンを主演に迎え、実業家で第45代アメリカ合衆国大統領として知られるドナルド・トランプの若き日を描いたドラマ「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」を徹底批評!
話題作だと思ったら公開関数が少ない!トランプもアメリカという魔性に憑りつかれた哀れなる者であるという一つの解を豪華な映像で提示した一作。
鑑賞メモ
タイトル
アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方(108分)
鑑賞日
1月18日(土)9:15
映画館
キノシネマ心斎橋(心斎橋)
鑑賞料金
1,000円(アプリ会員クーポン)
事前準備
特になし
体調
すこぶる良し
点数(100点満点)& X短評
70点
【新作映画短評】#アプレンティスドナルドトランプの創り方
— 近鉄太郎 (@egoma_senbei) January 19, 2025
怪物ドナルド・トランプ誕生前日譚。
本作の鋭い所はトランプをトランプたらしめるものはアメリカなるものそのものである、と提示したことにある。
勇気のいる自己否定をリッチでノスタルジックなエンタメ作品に仕上げるカッコよさが◎。 pic.twitter.com/qwBMBZZnHY
あらすじ
20代のドナルド・トランプは危機に瀕していた。不動産業を営む父の会社が政府に訴えられ、破産寸前まで追い込まれていたのだ。そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、悪名高き辣腕弁護士ロイ・コーンと出会う。大統領を含む大物顧客を抱え、勝つためには人の道に外れた手段を平気で選ぶ冷酷な男だ。そんなコーンが“ナイーブなお坊ちゃん”だったトランプを気に入り、〈勝つための3つのルール〉を伝授し洗練された人物へと仕立てあげる。やがてトランプは数々の大事業を成功させ、コーンさえ思いもよらない怪物へと変貌していく……。
ネタバレあり感想&考察
ドナルド・トランプたらしめたのは
アメリカなるもの、そのものだ
想像と全然違ったが、面白かった。
大統領選どころかWWEに出る時期より全然前までだったのは意外だった。本作は80年代のみで完結する。ところが現在のトランプに通ずるもののベースを見事に反映させている。その背景には一人の弁護士の教えがあったと。
この弁護士ロイ・コーンのジェレミー・ストロングが怖カッコいい存在だ。
まだケツの青かったトランプ青年は政府に訴えられ窮地に追い込まれていた父の会社の裁判を切り抜けるため、ロイ・コーンを頼り、教えを請うことになる。この頃のトランプの業務内容がなかなかに泥臭いのが新鮮だった。ボロマンションの未払い家賃を一軒一軒回収して回る。中には熱湯をかけてくる滞納者も出る始末。父の力を借りることなく、自分の力で何かを成し遂げたという意欲はあるものの、当初は気弱さと真っ当な目線を持っていたのだ。結構意外な演出だった。
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酒も大して飲めないのに会員制の高級クラブでコーンに自分の弁護士になって知恵を貸してもらうため、必死に取り入る姿を気に入り、コーンは顧問弁護士となる。勝つためなら手段を選ばない激ヤバ弁護士コーンの教えをトランプは生涯徹底することになる。それは今もなお続いており、現在の姿が本作の信憑性を高める面白い作りだ。
そのコーンの教えは以下のとおりである。
①攻撃、攻撃、攻撃、ひたすら攻撃
②非を認めるな、全否定しろ
③どんな劣勢でも勝利を主張しろ、絶対に負けを認めるな
これらをコーンの言うとおり愚直に守ったせいで、コーンの想像をはるかに超える怪物が生まれてしまう。ただ、このコーンとの関係性や彼からの影響をトランプがどの程度受けたかは定かではないところが本作の難しいところ。
あくまで監督のアリ・アッバシ史観と考えた方がよさそうだ。そもそも40年近く前の話だし、コーンは死んでいるし、トランプは製作協力していない。
伝記映画というよりはアリ・アッバシの思うトランプ像を主人公にしたエンタメフィクションというのが正しい観方だと思う。
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監督の意図は計りかねるが、このコーンの教え自体が"アメリカなるもの"そのものに思える。筆者には世界のトップ国としてのアメリカの精神そのものに映った。民主党政権だってクリントン時代は日本製品のネガキャンをガンガンしていたし、特にバイデンはUSスチール買収の件で最悪な介入をしている。さらには犯罪を犯した血縁者のために恩赦をするなど、権力の私的利用としかいいようのないやりたい放題の態度を当たり前に取る。
こういった精神は共和党に顕著ではあるものの、民主党のアメリカにも通じるものだ。よってトランプ特有のものではないことも考慮に入れて観てほしい。
話は映画に戻って、このひたすら攻撃的で不遜な態度が彼を怪物に変えてしまったのは事実ではある。しかし、程度問題としてかなり過剰に演出しているので、まるっと乗る気はない。特に家族や最終的には師匠であるはずのコーンに対しても、そういった尊大な態度が向きすぎる演出はやりすぎと捉えることもでき、ギリギリのラインに感じた。
とは言っても、まあトランプだしこのぐらい過剰にしちゃっても成立するリアルな存在というのもなかなかに珍しく、面白くもゾッとする。相反する感情が分裂するような体験ができるかもしれない。ただ現在のトランプでその体験ができてしまうのが悩みどころではある。プロレス的なところが魅力に映る。
80年代独特の空気感や、当時荒廃していたNYの街並みの雰囲気などはかなり再現度が高い。衣装や持ち物、バブリー感溢れるいで立ちなど、ルックのこだわりも相当強い。画の力強さは確実にある。妻イヴァナ・トランプ役のマリア・バカローバの派手な顔の造形と終盤になるにつれて、対照的になっていく引きの演技も素晴らしい。
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めちゃくちゃ面白い!とか、傑作だ!とまではならなかったが、かなり力の入った見どころの多い作品なので普通におススメ。
公開館数が少ないのは勿体なく感じる。
トランプ、ビンス、石丸、元彦、港、中嶋…
エラくなるのも考えものだ
それにしてもこの話どっかで観た気がするなと思ったら、昨年NETFLIXで公開された「Mr.マクマホン:悪のオーナー」とよく似た話だった。
「Mr.マクマホン~」は世界最大のプロレス団体WWEのオーナー、ビンス・マクマホンについてのドキュメンタリー作品。実話というか実在するその人を追う映画なので、フィクション性は本人の言動に依る。撮影中にとんでもない事態が起こるのだが、期せずしてこの作品の強度を上げる結果になる。
ぜひ観てほしい。単純にドキュメンタリー作品としてスゴイ。ちなみに息子のシェーン・マクマホンの話絡みの部分は泣いてしまった。
ビンス・マクマホン自身とプロレスというジャンルの虚像が見事にマッシュアップされており、本作との共通性も見いだせるはずだ。
WWEとトランプは切っても切り離せないぐらいの関係性。(ジャマくさいので調べてください) そのオーナーであるビンスとトランプが本当に似たような道程をたどっている。トランプの演説手法も明らかにビンスの影響を感じる。WWE関係者を大臣に任命までしている。
権力そのものが人を狂わせる、というのが近年より顕著になっている気がする。それによって不利を受けた側がその不当性を訴えかけられる土壌ができているのだろう。良いことだ。
個人的にはそういう環境になった時点でもう、エラくなること自体がリスクだな、と思うようになってきた。昔は漠然とそういう気持ちがあったけど、今は自分がそうなることに一切興味がなくなっている。入った会社がどうなろうと知ったこっちゃない、というスタンスは新卒時から変わっていないし、より強固になっている。正直言っちゃうと、エラいから何なんだよって思うタイプなのもあるが、それにしてもここのところ鼻持ちならないやつが多いのは気になる。
最近の日本で言うとまっちゃん、中居、石丸、元彦、港、中嶋…
まあロクなのがいない。とはいえ、根っからの悪人であるわけがないのは、#2「悪は存在しない」で学んだ。となると、エラくなるから身勝手な振る舞いをするようになるというのは、因果関係として本質的に成立するのだろうと思った。
多少ビンボーでも気楽に生きよう。ゴキゲン主義。
大阪歩いてるだけで楽しいと思える人間で良かった。
まとめ
普通に面白かったです。
シネマート心斎橋からキノシネマ心斎橋にリニューアルして初めての鑑賞でしたが、良くも悪くも大きくは変わってなかったです。シネマートから通ってた方は新しいといった感想にはならないと思いますが、思い出があるので雰囲気変わらずそのまま残ってくれてることは嬉しいかぎりです。
ただ結構ハデな画作りの映画なんで、大きい映画館でもかけるべき作品だと思いますね。そこだけちょっと残念かな。
最後に
立飲み庶民のだしオムレツ紅しょうがプラス(300円)がやめられないねぇ。
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