記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【映画批評】#8「蛇の道」シュッとしてるけどヘンテコさは変わらず(褒め)

黒沢清監督最新作「蛇の道」を徹底批評!
蛇の目をした柴咲コウが神々しくも笑える。
杜撰さと深淵さが同居するのんきで不思議な復讐劇。


鑑賞メモ

タイトル
 蛇の道(113分)

鑑賞日
 6月16日(日)10:05
映画館
 MOVIX堺(堺浜)
鑑賞料金
 1,100円(SMT会員誕生日月クーポン)
事前準備
 予告もオリジナル版も観ず
体調
 チャリ移動後、すこぶる良し


点数(100点満点)& X短評

70点

期待値は高すぎたが、それでも十分楽しめた。
ルックはシュッとしていても、黒沢清みは炸裂。結構笑える。


あらすじ

8歳の愛娘を何者かに惨殺された父親アルベール・バシュレは、偶然知り合った精神科医・新島小夜子の助けを借りながら、犯人を突き止めて復讐を果たすべく殺意を燃やしていた。やがて2人はとある財団の関係者たちを拉致し、次第に真相が明らかになっていくが……。

映画.com本作紹介ページより引用

ネタバレあり感想&考察

狂気と呑気が混在する
なんとも不思議な復讐譚

あまりにもずさんな拉致監禁がこの映画のキモです。
冗談ではなく、本当です。

柴咲コウ演じる小夜子の狂気の復讐劇。娘を殺した組織を一網打尽にする、ただその目的のために一直線。同じ娘を殺された立場であり協業するもののバディ感は序盤から薄い。組織に関わっていたアルベールはあくまで復讐のための手がかり、駒であり、復讐すべき対象の一部でしかない。
何せ真実がどうかは関係なく、組織に関わる人間全てに復讐するために身代わりでも何でも用意せぇ、ウソでも何でもいいから吐け、私の言うことを聞け、という小夜子のバーリトゥード(なんでもあり)っぷりをただただ楽しむ。それがこの映画の主眼である。

絡みついて離れない蛇というよりは、猪突猛進イノシシガールが妥当か。目は完全に蛇だけれども。この映画の楽しみ方は小夜子の復讐劇を「突き進め柏」に乗せてただただ応援する。
それだけでいいのである。(そんなことはない)

突き進め小夜子
止まらない小夜子
おれらは叫ぶ
行け小夜子

ただそのずさんすぎる拉致実行や監禁シーンの呑気さが何とも言えない魅力を持っている。正直笑えるんだけど、本人たちはいたって真剣だからなおのこと笑える。これは黒沢清にしか出せない魅力だと思う。「私は娘を殺された」の映像をフランス語で何べんも復唱するのもシュールすぎて爆笑した。

深刻な話なのに笑えるポイントがところどころにある。

一見、洒落てアップグレードしたかのようなセルフリメイクでも、黒沢清みはしっかり残っている。

ラストの蛇の目もハッキリ言って早とちりすぎだろと思ってしまう。
(夫役が青木崇高というのもどっちとも取れそうな良いバランス)
しかし、復讐に囚われている小夜子にはもうそうとしかみない。
ラストの狂気は本作の方がソリッドな気がする。

ルックがシュッとしたことで
魅力が落ちた面もある

「シュッとしてる」って関西表現は伝わるよね?
「知らんけど」よりよく使う表現だし、大丈夫だろう。

どうでもよすぎるので本題に戻る。

昨夜、哀川翔、香川照之主演のオリジナル版(98年公開)も観てみた。
日本を舞台にしている、主人公の性別、以外はほぼ同じストーリーテリングでちょっとビックリした。

ずさんな拉致監禁方法や組織犯罪の内容等もほぼほぼ同じだった。
オリジナル版の敵組織は単に反社だったが。
拉致監禁方法のずさんさは男二人でやってるからそこまで違和感はないけど、哀川翔の職業は違和感ありまくりで爆笑した。単純に比較すれば、キャラ立ちと暗く粗い映像でしか出ない表現という意味ではオリジナル版の方が圧倒的に魅力的だと思った。
これは現在の鮮明に映ってしまう映像では再現できない手触りだと思う。
監督本人も自覚しているようだ。

なので、アプローチを変えて別物にしてしまおうという狙いはすごく理解できる。ただ話自体は全然変えてないから、本人が言うほど完全に別物とは思わない。どうしても比較してしまう人の気持ちも当然理解できる。
そして、オリジナル版の方が良いという人の気持ちはさらにわかる。この味は再現性がない。オリジナル版のみの魅力だ。
そういう意味で全くの別物である。リメイク版の本作も十分面白いが、脚本が良いことが一番の理由だろう。オリジナル版はそこに独特の映像と演者のキャラ立ちによるアンサンブルが異彩を放ちすぎている。Vシネとは思えない神々しさすら感じた。

あとはコメットさん。
こういうリアリティラインをあっさり超越する荒唐無稽なキャラはどうにも替えが効かない。ここがオリジナル版とリメイク版の大きな違いであり、魅力を削いだ部分と感じる。オリジナル版は哀川翔やコメットさん含め、かなりファンタジー世界なのである。(あと柳ユーレイがカッコいい)

観たタイミングが良くなかったかも

この財団の組織犯罪は最悪だし、復讐されてしょうがない気もするが、動機目的は金儲け+αという明確な理由がある。そういう意味ではこのnote初の映画批評作品、記念すべき#1「胸騒ぎ」を観た後だと対面側が正直弱い。
どうしてもスケールダウンしてしまった。
あまり敵組織側にフォーカスが当たっている映画ではないものの、そことも比較してしまった。「胸騒ぎ」を観た人が本作をどう思うかも気になる。特に「胸騒ぎ」好きな人は同じような感想になるのではないかと。


まとめ

本作をきっかけに、完成度とはまた違った独特の魅力をオリジナル版に見いだせました。変であることに躊躇がない映画が観客の心をつかむのだと思います。黒沢清印満載でした。
セルフリメイク版の本作も十分変な映画ですが、みやすくまとまってはいるのでオリジナル版を観なくても全然大丈夫です。西島秀俊の役が小夜子の内面を引き出す役割をしており、わかりやすくするという意味で良い設定でした。オリジナル版の哀川翔は本当に何を考えているかわからないので。
完成度はこちらの方が高いので観て損はない仕上がりだと思います。

新たな一面をみせた柴咲コウを大画面で浴びてください。


最後に

2カ月ぶりのMOVIX堺でした。約40分かけて自転車で通っています。
夏になり汗出しにはベストの距離ですし、大和川のサイクリングロードで風を感じるのが大好きです。なぜこんな電車代はケチるのに、馬券代は糸目をつけずに簡単にスってしまうのか、自分が恥ずかしいです。目を覚ませ!

とにかくMOVIX堺は良い映画館です、はい。
えげつないデカさの無料駐車場がありますから、車ある人は是非!

殺風景な工業地帯に突如現る謎のレジャー施設、それがMOVIX堺だ

この記事がよかったと思った方は、スキ!、フォロー、よろしくお願いします。
ご拝読、ありがとうございました。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集