【映画批評】#23「夏目アラタの結婚」堤幸彦"らしさ"は中途半端にケイゾク…
乃木坂太郎の同名ベストセラーコミックを堤幸彦監督のメガホンで実写映画化し、死刑囚との獄中結婚から始まる危険な駆け引きの行方を描いたサスペンス映画「夏目アラタの結婚」を徹底批評!
およそ15年ぶりぐらいの堤作品鑑賞は良い意味でも悪い意味でもガッカリ…。ゼロ年代、あまりにもつまらない堤作品に迷惑をかけられてきた筆者独自の堤幸彦に対するスタンスを中心とした批評を展開。そして、彼の弟子である大根仁との決定的な差とは?
鑑賞メモ
タイトル
夏目アラタの結婚(120分)
鑑賞日
9月11日(水)21:00
映画館
あべのアポロシネマ(天王寺)
鑑賞料金
1,300円(平日会員価格)
事前準備
予告視聴
体調
立飲み後、やや悪
点数(100点満点)& X短評
45点
あらすじ
ネタバレあり感想
相変わらずの雑さと中途半端な堤幸彦節
主演2人のおかげでつまんなくはないけど…
イマイチでした。さもありなんといった感じ。
原作の問題もあるのだろうけど、演出や脚本の基本的な部分がお察しというべきか。柳楽優弥と黒島結菜はめちゃくちゃ良かったです。ただ演出がね。決して本人たちの問題ではない。
そこは堤幸彦が常に抱えている問題と言っていいだろう。
「金田一少年の事件簿」と「TRICK」に激ハマりガキだった自分でも、今となってはもうどうでもいい作家になってしまった。まだ映画撮ってたんだと思ったぐらい。「20世紀少年」3作と「BECK」で目まいがした大学時代、物事をちゃんとみないといけないなと気づかせてくれた恩人でもある。(皮肉やで!)
そこらへんの時代の作品と比べると本作は余裕でマシである。
ある意味ブチギレさせるような鼻持ちならなさは薄まった。(消えてはないけどね!)
とはいえ心の声ダダ漏れ、ト書き含めたセリフ全部言わせるような本と演出はやっぱり堤幸彦だなと思わせる。
やっぱり悪い意味で変わらない男ではある。
テレビドラマ演出の引き出ししかなく、意味ありげで雰囲気だけのぱっと見だけ恰好をつけた映像演出が続く、特に後世語られることのない、味もしゃしゃりもない作品を量産する。こと映画になると堤作品はあらかたこういった感想になる。それでもゼロ年代あたりの最悪に近かった当時の作家性は薄まっている。そこは進歩と呼んでいいのかもしれない。
ここまでひっくるめると本作では堤幸彦節は中途半端になったな、というのが素直な感想。やるならそのどうしようもない部分を尖らせて、堤幸彦でござい!って開き直られた方が気持ちよかった気がする。どうせならブチギレさせるぐらいのものを求めてたのだが、そうならなかったのはちと寂しい。
我ながらジャマくさい付き合い方を求めているのは自覚している。とはいえせっかく映画観るならどちらでもいいから激烈な感情を引き出してほしいと思ってしまう。だから悪い意味で観る前に持っていた期待値とは少し離れた映画になっていて、デキも含めてなんかどうでもいいといった感想になってしまった。
表面的な描写に終始する堤作品特有の問題
弟子、大根仁との実力差は歴然となった
12巻のマンガが原作なので時間の都合もあるだろうけど、周辺キャラの話も全くと言っていいほど掘り下げられない。これは致命的だ。
真珠ちゃんが"救った"3人の男たちもなぜそうなったかは何となくはわかるが、ほぼ触れられることはない。一見社会的成功を収めている人も人知れず病んでるんやでぇ程度しか読み取れない。結構重大なコトを起こしているのに、悲しい出自と昨年公開の「市子」的な制度問題を雑にまとめて投げかけておしまいってどういう態度なんだと思わざるをえない。
時代考証や登場人物の行動原理描写も相変わらず甘い。ここは「20世紀少年」のころと全く変わっていない。(ショットガン描写や爆破スイッチのくだり等)
2003年のガラケーで撮った写真がそんなクリアに映るわけないだろうとか、生存していた事実を隠すべき児童の遺体遺棄をそんな見つかりやすい方法でするわけがないだろうなど、低レベルなツッコミを未だにさせるあたりは安定の堤幸彦クオリティ、もはやこの程度では何も思わない。真珠の父も表面的にしか描かれないから真珠が凶行に至る切迫感を感じ取りにくい。
父については百歩譲っても、殺されに来る3人は本当に取ってつけたような話にされてて、これ表現として大丈夫かと思ってしまった。(個人的にこの3人は真珠ちゃんのメンエス施術を受けに来たんかみたいなノリで殺されに来たように映った)
立川志らくと丸山礼も同じくで、いかにもクセがありそうな配役なのに、いてもいなくてもどっちでもいい扱いなのも解せない。セリフではアラタと決して薄い繋がりではないことを強調しておきながら、その背景や内実は特に触れられない。だったら意味ありげにするなという話。
堤幸彦の悪いところはまさしくこれ。特に意味ないなら触るなってのが多すぎる。その分、映画も冗長になって締まりがなくなる。ダレる。
原作に忖度していろいろ目配せしないといけないとマジメに考えている面もあるだろうけど、映画として圧縮する場合は大胆な省略が必要な部分は必ず出てくる。そのための交通整理がものすごくヘタなイメージ。「20世紀少年」「BECK」の失敗から学んでほしかったが、本作でも改善されていなかった。おそらくこれは直らない。(おそらく興収的には成功なので、作品的な失敗には無頓着なのだろう)
佐藤二朗の起用と演技のつけ方についても疑問が残る。佐藤二朗が佐藤二朗するのはいいが、映画のテンションと合っていない。佐藤二朗は「さがす」「あんのこと」のように監督が演技に制御をかけないといけない役者だ。本作はエンタメとはいえトーンは明るくないし、残虐な殺戮が取り扱われている。それをTRICK出演時のやる気建設の佐藤二朗テンション一歩手前のノリで来られるとやっぱり緊張感が削がれる。彼を起用するなら、監督としてセンシティブになってほしい。
作品の話に戻そう。
全体を通しての感想だが、題材自体は面白そうな要素が多分にちりばめられている。しかし、「死刑にいたる病」「市子」「22年目の告白-私が殺人犯です-」「さがす」「JOKER」あたりの表面的な一部の要素をパッチワークで繋いだような映画に映った。なんかみたことあるなぁの連続。夏目アラタと品川真珠のキャラで強引に持っていった部分はあるにしても、それは役者の功績であって監督は彼らに助けられているだけだ。
ハッキリ言って鼻で笑って済ませてもいい映画ではある。ただ、メイン2人以外でつまんなくはない程度に留めているのは原作の力か、堤幸彦の力だろうか、そこだけ知りたい気持ちが多少ある。こういった気持ちになるのはメインの2人以外の魅力があると感じていることの証左でもある。だから一概に悪いとも思っていない。
最後に堤幸彦監督作品に対して「つまんなくはない」はかなりの誉め言葉である。失礼を承知で言うが、彼への期待はこんなものである。
基本的にこの人は映画をつまんなくするし、なんならこっちの神経を逆なでさせる作家だ。そういった意味では本作は十分成功と言っていい。
ただ本作を観て、弟子にあたる大根仁との実力差は歴然になったと思うほかない。もちろん弟子の方が圧倒的に上だ。大根仁は自身の考えや意見を作品に含ませることに照れがないし、本人がそれを目的としているように映る。当たりはずれはあってもそこが魅力といっていい。
堤幸彦はそこから逃げているように映る。本人がそうでないとは思っていても、こちらにはそう映る。
これは非常に対照的だ。師匠と弟子の現在地におけるコントラストを楽しめたのだから、結局よしとするか程度に収まった。
そこは本当に面白く観れたポイントであった。
最後に柳楽優弥も黒島結菜もそれぞれ違った実在感のないキャラを成立させる好演でよくやったと思う。
特に柳楽優弥は平成初期の織田裕二っぽさというか、カッコよさとダサさが同居する二枚目という今となっては珍しいキャラで逆に新鮮だった。
やっぱ柳楽優弥っていいね!!
「ディストラクション・ベイビーズ」また観よっと!!!
※前はPrimeで配信してたのに!!泣
まとめ
とやかく言ってますが、堤作品の中ではおそらく最上位かもしれません。
決して褒められた映画ではないけど、見どころはある映画だと思うので、本記事は気にせず観て判断いただいてもいいと思います。
あと全然関係ないんですが、夏目アラタが真珠にのめり込んでいく様子はプロレスファンの精神性そのものだと思いました。だから本作をキライになれないのかもしれないと思いました。
ただ日テレ製作の本作ですが、今年のテレビ局製作映画の代表格といっていい「ラストマイル」と比べると完敗と言わざるを得ないです。
本当に大根仁がこの映画を撮っていたら結構うまく撮ったんじゃないかと思ってしまいます。今となっては意味のない妄想ですけどね…。
以上です。
最後に
ここのところ、プライベートがてんやわんやしてまして、映画どころではない状況が続いていますが、週1本ペースは最低でも死守したいと思います。
いずれできることが広がるのは確実なので、そうなったときは速やかに対応したいと思っています。よろしくお願いします。