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【映画批評】#48「室町無頼」 怒れ!踊れ!滾れ!君も無頼として生きるのだ!
垣根涼介の時代小説を大泉洋主演で実写映画化した戦国アクション。「22年目の告白 私が殺人犯です」の入江悠が監督・脚本を手がけ、日本の歴史において初めて武士階級として一揆を起こした室町時代の人物・蓮田兵衛の知られざる戦いをドラマチックに描いた「室町無頼」を徹底批評!
早くも今年度ベスト候補に大推薦!!!
観客のエモーションを揺さぶる入江悠監督の真骨頂にして集大成。作り手の気概と熱が大放出された至極の一作。今すぐ観に行こう!!
鑑賞メモ
タイトル
室町無頼(135分)
鑑賞日
1月12日(日)11:10
映画館
イオンシネマ四条畷(四条畷)
鑑賞料金
1,700円(会員更新クーポン1,200円+IMAX料金500円)
事前準備
特になし
体調
すこぶる良し
点数(100点満点)& X短評
100点(暫定)
【新作映画短評】#室町無頼
— 近鉄太郎 (@egoma_senbei) January 12, 2025
早くも今年ベスト候補。
どういった作風でも観客のエモーションを揺さぶる勘所を的確に押さえてくる入江悠監督の最高傑作といっていいだろう。
無頼として幕府に反逆する痛快さと、無頼として生きることの厳しさと難しさをシンプルなメッセージで突きつける誠実さが光る。 pic.twitter.com/h2rdU76SmH
あらすじ
1461年、応仁の乱前夜の京みやこ。大飢饉と疫病がこの国を襲った。
賀茂川ベリにはたった二ヶ月で八万を超える死体が積まれ、人身売買、奴隷労働が横行する。しかし、時の権力者は無能で享楽の日々を過ごすばかり。
貨幣経済が進み、富める者はより一層富み、かつてない格差社会となっていた。
蓮田兵衛は、己の腕と才覚だけで混沌の世を泳ぐ自由人。各地を放浪する彼の眼差しは、ひとり遠く、暗黒時代ダークエイジの夜明けを見つめていた。
一方、才蔵はすさまじい武術の才能を秘めた若者。天涯孤独で餓死寸前を生き延びたが、絶望の中にいた。しかし、兵衛に見出され、鍛えられ、才蔵は兵法者としての道を歩み始める。才蔵の武器となるのは、“六尺棒”。地獄の修行を終えた時、超人的な棒術を身につけた才蔵の前に敵は無い―。
時は来た―。才蔵だけでなく、抜刀術の達人、槍使い、金棒の怪力男、洋弓の朝鮮娘ら、個性たっぷりのアウトローたちを束ねる兵衛。ついに巨大な権力に向けて、京の市中を舞台に空前絶後の都市暴動を仕掛ける。行く手を阻むのは、洛中警護役を担う骨皮道賢。兵衛と道賢はかつて志を同じくした悪友ながら、道を違えた間柄。かつては道賢、いまは兵衛の想い人である高級遊女の芳王子が二人の突き進む運命を静かに見届ける中、“髑髏の刀”を手に一党を動かす道賢に立ち向かい、兵衛は命を賭けた戦いに挑む。
この戦いが、歴史を変えた!
知られざる戦国前夜の物語
ネタバレあり感想&考察
純度100%の国産エンタメ活劇!
2025ベスト候補に早くも推薦ダ!
ヤバい!今年まだ3本目なのに100点つけちゃったよ!
純度100%!混じりっけなしの国産エンタメ活劇として満点と言っていいでしょ!!! 爆裂最高に面白かった。滾る映画ってのはいいね!!こういうの観たくて映画館に行くんだ。それでいい!初めて行ったイオンシネマ四条畷、京阪萱島駅から30分弱かけて徒歩で行った甲斐がありました。本当に良かった。
世界史受験だったため、日本史の知識背景が薄い筆者でも全然ついていけるぐらい、複雑さのないシンプルな活劇なので予習しなくても全く問題ない。
ほぼ間違いなく今年ベスト3以内には入るだろうし、邦画トップはこれで決まりだと思う。最近の競馬で言うところのイクイノックス級だ。めちゃくちゃ強い。圧倒的。それぐらい好きになってしまった。個人的には最高の映画体験だった。IMAXで観る価値がある作品自体珍しいし、邦画ならなおさら珍しい。
もうケンカ売るような物言いになるけど、この映画にケチつけるやつがいるとしたら「そいつシケるわー」となって仲良くできないかもしれない。半分以上は冗談だが、そういう気持ちにさせるというのはそれだけ価値の大きなことだ。去年で言うと「フォールガイ」を観た後の興奮に近い。いや、それすら超えている。入江監督とは思想も自分と合っている感覚がある。
ありがとう。これ名作ですよマジで!
時代劇なんだけど、大飢饉×疫病流行で絶望的に荒廃した京は湿度が高い以外はマッドマックス世界そのもの。BGMも時代劇らしからぬ西部劇調?みたいな曲で展開するところがあったり、才蔵の修行シーンはまんまジャッキー・チェンだ。
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でも全然借りものっぽくない。
時代劇、脚本力、アクション表現、丁寧なCG仕事、壮大なスケールの一揆シーンなど、様々な要素が有機的に作用した画の力強さを感じられる。その中で突出しているものを一つ上げるとすれば、役者陣の面構えだ。メインからサブまで本当に抜かりなく、いい顔が揃っていた。これは後述したい。出る人出る人みんなイキイキしていて観てるこっちが嬉しくなる群像劇なんて、なかなかお目にかかれない。
歴史資料のたった一文しか残っていない蓮田兵衛という謎多き存在だからこそ、史実に忠実であることに囚われる必要のない良い題材だと思う。こういう企画と作りでちゃんと東映の全面協力も得られているわけだから、面白くないわけがない。このnoteは作り手たちの気概に満ち溢れた映画を全力で支持する。そのお手本のような映画だ。ただただ素晴らしい。
IMAX先行上映で観ることができたので、本公開初日に本記事をアップできるのも個人的に嬉しい。1月はこれと「ビーキーパー」観てりゃ、映画ファンとしては一丁前ですよ!!
四の五の言ってないで黙って行け!観ろ!滾れ!
イヤァオ!!!!!
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我々に必要なのは"無頼"としての覚悟
難しく厳しいが各々が"考え抜く"しかない
改めてフラットに考えてみて、本当にこの話スゴイよなと思う。
倒幕と徳政(債務帳消し)を狙っての土一揆により、洛中を麻痺させ、幕府の大名の中でも特に悪党であった一人を仕留める。という話の流れ自体はまあまあ普通だなと。ただ、やっとの思いでたどり着いた室町幕府の玄関の門扉に【無頼】と書いた半紙を貼り付けて意思表明してこの一揆が完遂されるってのが予想外すぎて、うおぉぉ!!!と唸った。
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ここから手負いの状態で中に入って死闘を繰り広げるも名誉の犬死に、で幕引きするものだと思っていたから本気で面食らった。あまりに頭悪すぎる反応なのは認めたうえで「カッコイイ!!!シビれるぅ!!!」と素直に思えた。正直、手前の土一揆シーンが壮大でアッパーでお祭り化し、のめり込んでしまっていたからか、無頼という言葉がすっかり頭から抜けてしまっていた。それだけ没頭していたのである。民衆が倒幕に向けて一致団結する姿を目にすると【無頼】という言葉とは一時的に縁遠い状態だった。これもうまい演出だと思った。
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入江監督は映像演出で観客の感情を揺さぶるのが本当にうまい。
どの作品でも感情を動かす勘所を確実に突いてくるイメージがある。邦画監督なら間違いなくトップだと思う。そこは「SRサイタマノラッパー」シリーズから良い意味で全く変わっていないし、「あんのこと」のようにダウナー表現もできるため、そもそも引き出しが多い。
引き出しが多いということは、最後まで観ないとどういう着地になるかわからない作家性を備えているということだ。
これだけで強い磁力があり、観に行く価値がある。
半紙に書かれた文字で映画的にエモーションを揺さぶるといえば、同じ時代劇である「十三人の刺客」の【みなごろし】が真っ先に思い浮かぶ。あれは悪逆非道の限りを尽くす吾郎ちゃん将軍に復讐することを主題にしているため、真っすぐに宣戦布告が動機だし、これはこれでわかりやすくアガる最高の演出だった。
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しかし本作の【無頼】半紙は、民衆が蓮田兵衛に託した思いを無能極める政権へ意思表明するという文脈で使われている。捻っているが、わかりやすさはしっかり押さえている。
要は「お前らにはもう頼らない!好きにさせてもらう!」といった決意表明であり、まさしく無策を極めに極めた今の日本政府に観客が抱える忸怩たる思いと見事にシンクロしている。
本作内では決意表明であるが、入江悠を船頭としたわれわれ観客には、バブル崩壊後の不景気から未だに脱せられない現政権への宣戦布告に感じられるはずだ。これが痛快すぎた。時代劇かつ史実としても詳細にわかっていない時代の創作をテコにして、現代への痛烈な風刺をビンビンに効かせている。
原作者も現代日本に似た時代だから室町時代中期を選んだらしく、その狙いをしっかり引き継ぎ映像として最大出力で表現しており、ここにも凄みを感じた。
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監督、原作者、役者陣、製作関係者、東映スタッフ等々、それぞれ無頼と呼ぶべき孤高の職人たちがそれぞれの持ち場で持てる力を発揮したうえでの統一感を本作に感じた。いわゆる横串がガッツーン!とキレイに刺さっているような感覚。自分も仲間に入れてとその横串に刺さりに行きたくなる。あまり大作でこういった感覚になったのは覚えがない。そこが好きだ。まさしく本作の土一揆よろしく一気呵成の勢いも感じつつ、統率の取れたまとまりも感じた。本当に気持ちがいい。
現代日本ももうとっくの前から社会や国が庶民を守る気などないことは明白である。個人としては税金は払ってやるからこれ以上ジャマだけはすんな!程度でしか国家というものを見ていない。それでもしっかり神経を逆撫でしてきやがるから本当に不快な連中だ。ほとんどのジジババ政治家は余生だと思ってるし、さっさと◯◯!と思っている。
入江監督は本作を通じて我々に「無頼であれ」という明確なメッセージを発している。それは「世の中に期待するな」という後ろ向きなメッセージも含むが、何より無頼という言葉を通して「国に寄りかかることなく生き抜ける強さを持て」と言われている気がしてならない。
これはものすごく厳しいメッセージだ。難しいことでもある。それでも、一人でも多く強い人間を生むきっかけにしてほしいんだ!という監督の強い気概を勝手に受け取っている。これに応えたいという気持ちを強く引き出された。
これが「自分で考えた」結論。この先まだまだ考え抜かなければいけないなと思った。そういう意味でもこの映画は最高のカンフル剤になるはず。
想像をはるかに超える入江悠監督のストロングスタイル。そのメッセージも含め、その目で確かめに行ってほしい。
うわぁ、これからの人生大変だなこれ。
前言撤回したい…。笑
入江悠ワールドの集大成
生き生きした顔がズラリ縦横無尽!
前述したとおり、本作は役者陣の面構えで勝負あり!の映画なので、できるだけ紹介していきます。
もちろん、大飢饉と疫病流行の荒廃した京都を表現するために演じられたエキストラの皆様も最高でした。絶望的な世界観を見事に表現してくれたMVPだと思います。細部まで抜かりなし。拍手!!!
それでは、メインの登場人物を振り返りましょう。
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【メインキャスト】
蓮田兵衛:大泉洋
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ギスギスした世の中だから、こういった懐の深い無頼漢はそれだけで頼もしい。大泉洋史上一番カッコイイキャラと言っていいでしょう!(「探偵はBARにいる」も捨てがたい)
骨皮道賢:堤真一
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さすがJAC出身、真田広之の元付け人。アクションはお手の物。
政府側の護衛をする荒くれ者だが、敵対するはずの兵衛との良い関係性を上品に提示。ラストのラストで無頼の精神を示すカッコよさ。
才蔵:長尾謙杜
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ジャニーズの底力を見せつけてくれました。青さと成長を2時間にギュウギュウに詰めてくれた。兵衛魂の継承とShow Must Go Onの精神継承を観た気がして、虚実入り混じる感動を覚えた。
芳王子:松本若菜
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いま一番、好きな女優さんです。出てきただけでうれしい。
動乱の時代と男性優位社会に翻弄される遊女を見事に演じ切る。実は本作で一番の無頼ともいえる。
【牢人&吉坂郷の民】
赤間誠四郎:遠藤雄弥
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どっかで観たことあるなーと思ってたら「辰巳」の主演の方!(未見申し訳ない) ほぼ初見でしたが、心掴まれました!めっちゃカッコいい!もっと映画出て!!!
七尾ノ源三:前野朋哉
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自分が観た中では「ある用務員」以来の強キャラ設定が面白かった。
馬切衛門太郎:阿見201
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「激怒」で観て以来だったが、味方につけるとこんなにも心強いのか!!
大男役は彼に集中させればいい!日本のマ・ドンソクになってほしい!!
伝助:水澤紳吾
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「SRサイタマノラッパー」からの入江組常連俳優。困窮する民が似合いすぎるが、一揆ではしっかり大活躍。散り際を用意しているあたりに監督との信頼関係がうかがえて最高だった。
【琵琶湖・今津浜】
唐崎の達人:柄本明
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平常運転、出てくるだけで良い。
超煕:武田梨奈
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久しぶりに彼女のがっつりアクションが観られてうれしかった。
本当に春日太一さんも言ってたけど「酒飲ましてる場合じゃない」!
小吉:般若
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「顔だけで只者ではない雰囲気を出せる」のトップランナー兼スターラッパー。
【悪党一味】
斬ノ助:岩永丞威
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「ベイビーわるきゅーれ2」の敵役でおなじみ。この方も面構えが好きすぎる。
お千:吉本実憂
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実は一番ビックリした。武田梨奈とアクションで張り合えていたし、顔も精悍で鑑賞中は全く気付かなかった。ホークスの球団歌を歌いにくそうに歌う彼女しか知らなかったので。
ちなみにこの芸能人リレー自体も最高なんですが、宝塚娘役キーで歌って浮きまくる黒木瞳がなにより最高です。
【室町幕府】
名和好臣:北村一輝
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最高に憎たらしい極悪非道のボンクラ大名を引き受けてくれただけで感謝。
その他、冷酷な印象のある矢島健一が将軍にまともに忠告する役回りだったり、金貸し役・三宅弘城のイキリ→狼狽演技の落差、足利義政役・中村蒼も数少ない出番ながらの浮世離れ演技も良かった。
そして一揆実行のための血判書を兵衛が最後に押して決起するシーンなど、気分が上がるポイントが要所要所にある。イキイキとした顔が大画面いっぱいに溢れる多幸感が本作の一番の魅力だと思う。
悲惨な時代の話を悲惨なだけで終わらせない作り手の熱意がここにはある。全ての「室町無頼」関係者に感謝!!!
ありがとう〜!!!
まとめ
とにかく最高の映画体験でした。
丸の内TOEIが7月に閉館するらしく、本作が当劇場でかかる最後の新作時代劇らしいです。東映時代劇の集大成的作品であることは間違いありません。そして、その触れ込みに相応しい素晴らしいエンタメ作品に仕上がっています。
春日太一さん、ミスター武士道さんの紹介動画も力が入っていて、とても参考になりました。観た者の心を掴む映画です。
ぜひぜひ観に行ってください。それだけです。
最後に
うれしいので、十三に「SRサイタマノラッパー3」を観に行った時に入江監督と撮ってもらった写真を公開します。
この日は「極悪女王」で松永貴司社長を演じた村上淳さんも観に来てて、よく覚えています。ホントにエモい!!!
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