ChatGPT×理科〜AIの文章を「書き直す」〜
「災害」の授業で感じていた課題
小学校高学年の理科の単元には「災害」に関する内容があります。
5年生であれば「台風による災害」「流水による災害」
6年生であれば「火山による災害」「環境の変化による災害」
といった具合です。
その学習の中で「〇〇による災害から身を守るにはどうしたらいい?」という問いが立てられ、話し合いながら考えていく…というのはよくあるパターンです。
子ども達が「避難する!」と言えば、「うんうん、どこへ避難するといいかな?」と問い返し、「川に近づかない!」と言えば、「それはどうして?」と問い返し…。
災害に関する動画を見せると、その派手さに子ども達の反応は大きくなります。そして授業者である私は「どんな対策が必要かなぁ」と問います。子ども達の反応も良く、一見授業が盛り上がっている風ですが、自分から災害に向き合って考えている子は一部だけ…。
観察や実験があるわけでもない(やりようによってはできますが時間もなかなか取れない)この「災害」に関する学習活動は上記のように私の中でマンネリ化してしまい、まぁ言ってしまえば「つまらん授業」をしてしまっていたわけです。
画像、動画、地図、その他資料を扱うことが多くなる「災害」の学習では、いかにそれらの情報に対して受け身にならず自ら関わっていくかが重要です。この課題を解決する一ツールとして、ChatGPTが有効に働くのではないかと考えました。
今回は5年理科「台風」の単元にて実践を行いました。
ChatGPTの文章を叩き台として「書き直す」学習活動
「ChatGPTが作成した災害対策をより具体的なものに書き直す」という学習活動を取り入れました。「うまく書き直す」ために、1時間1時間災害について(今回は台風)学んでいくというイメージです。
まずはChatGPTに叩き台となる災害対策の文書を作成させます。
GPT-4を利用して台風に関する災害対策を作成するとこんな感じ。
かなりスッキリまとめてくれましたが、今回欲しいのは「叩き台」なのでここまで具体的である必要はありません。となると、GPT-3.5(無料)の方で作成した方が都合が良いです。
まずは「台風による災害から身を守るために大切なことを教えてください。」と入力します。
続いて、「小学5年生でもわかりやすい文章に書き換えてください。」と入力します。
この時点でかなり内容の抽象度が上がりました。最後に項目を絞ります。
「5つに絞ってください。」と入力します。
叩き台となる文章が完成しました。
これをWordにコピペして印刷し、子ども達に配ります。
このような生成AIによる叩き台さえあれば、以下のように考えを広げていけるのではないかと予想しました。
テレビやラジオでチェックする→テレビでどんな情報を見ればいいんだろう?→「風速」や「猛烈」などの言葉の意味を授業で知る
避難の計画を考える→どうやって?→「ハザードマップ」の見方なをを授業で知る
食べ物と水を備えよう→どんな非常食がいいんだろう?→実際にどんなものを用意すべきか授業で知る
窓やドアを守ろう→どんな風に補強するといいの?→テープでとか、止め方のコツとかを知る
避難指示に従おう→どうやって知れるの?→自分たちの町の防災無線の存在や、消防団の活動などを知る
「授業者が言っても同じでしょ」
いや、たぶん同じじゃないです。授業者が言ってしまうと、やはり「わざとらしさ」が出てしまう…というかわざとなんですよね。それがChatGPTだと、わざとではないんですね(伝わって)。「なんか有能そうなAIが意見言ってるぞ」的な感覚になります。そのAIの意見を補填していくという活動は、「大人が求める答えを考えよう」ではなく、「自分たちで考えてもっと良くしていこう」という活動になり、主体性が生まれると思うんです。
ということで、「ゼロから考えるよりも、生成AIの叩き台をもとに考えることで具体的な災害対策を子ども達は主体的に考えていくのではないか」という仮説のもと授業実践を行っていきました。
授業の実際
「ChatGPTが災害対策考えてくれたぞ!どう!?」と叩き台を提示して反応を見てみました。するとクラスの子達は「ん?」と警戒しました。「ChatGPTの回答は『予測』である」ということを学習しているからだと思われます。
(ChatGPTそのものを扱った授業についてはこちらの記事をご覧ください)
先のChatGPTの文章を印刷して子ども達に配布すると、こんな反応が返ってきました。
「すごいけど、なんかあっさりしてるな…」
「もっと具体的に書けるんじゃないかな…」
こんな反応が返ってきます。
「じゃあさ、このChatGPTが作ってくれた文章に点数をつけるとしたら…100点満点で何点をつける?」
と投げかけました。「100点満点です!」と言う子はやはり0人。
「減点したのなら、付け足したり、修正したりして満点に近づけたいね。どんなことを付け足したい?もしかしたら間違ってる部分もあるかもね。」
そんな話をしていると、子ども達の「調べたい欲」が高まってきます。単元の性質上、授業者から資料を提示することも多くなるのですがこの欲がある状態とない状態とでは子ども達の反応が全然違います。
「これから授業が進んでいくけれど、自分だったらどんな風にこの文章に付け足したり修正したりするか、考えながら学習していきましょう。」
と言って1時間目の授業を終えました。
2時間目以降は以下のように進めました。
2時間目…台風の仕組み、台風による災害
→実際の台風・災害について知る
3時間目…台風の風と雨はどのくらい強いのか
→「風速」「雨量」などの知識から、台風情報の見方を学ぶ
4時間目…台風はどこで生まれ、どのように動くのだろうか?
→台風の動きはある程度予測できることを学ぶ
5時間目…台風による災害対策について調べる
6時間目…ChatGPTの文書をアップデートしよう
7時間目…お互いの文章を読み合う(相互評価)
子ども達が作成した文章
さて、子ども達の加筆・修正した文章はというと、次のようなパターンが多くみられました。
・とにかく具体例を上げまくる(引用先を示しながら)
・イラストなど視覚的な情報で補完する
・ハザードマップなど自分たちが住む地域の災害対策に書き換える
以下はある子の成果物です。叩き台よりも見出しの数が増え、内容がかなり具体化されていることがわかります。(内容は伝わるようにしつつ、一部配慮して書き換えています)
狙い通り、叩き台によって視点が明確化されている分、より具体的な災害対策を書き上げる子が多くみられました。さらに「書き直そう」というゴールの設定は、考えをまとめることが苦手な子達にとっても助かる手立てになっていたようです。
苦手な子も考えて形にしやすい、得意な子はどんどん付け足していける。これまでの授業よりも全員参加のハードルが下がった授業になったと感じています。
実践を終えて
今回の実践を終えて次のようなことを感じています。
①活動としての取り組みやすさ
先に述べたように、叩き台があることによって学習活動として全員が参加しやすいというメリットがありました。得意な子は叩き台をもとにどんどん自分の考えを広げ、深めていくことができます。
現実的な話でいくと、理科の授業において「災害」の内容にかけることができる時間は正直少ないです。その状況の中で、子ども達により具体的な内容に突っ込んで欲しい時は「叩き台」があることによるメリットが大きいと感じます。
②授業者の追加負担はほぼない
ChatGPTがなくとも、今回のような授業展開は可能です。可能ですが、先の「叩き台」の作成を自分一人の力で行うと考えたら大体どれくらい時間がかかるでしょうか。ChatGPTなしで、平日の勤務時間内にこの授業の準備をしろと言われたら正直やりたくありません。ChatGPTの力を借りることによって、忙しい時間の中(私の場合は運動会期間中で結構忙しかった)でも実現できる授業だったと感じています。
③理科以外でもAIの叩き台を「書き直す」学習活動は可能である
今回は理科の授業で行いましたが、この学習活動はどんな教科でも実施可能だと感じています。今回のように叩き台となる文章の抽象度を「あえて」上げることもできますし、「あえて」誤字脱字だらけにしたり、「あえて」間違えた情報を混ぜさせたり、「あえて」世間の常識と正反対な内容の文を書かせたり…色々なパターンがあると思います。
他教科での実施可能性についても考えていきたいと思っています。
さいごに
個人的に収穫の多い実践でした。ただしこの「書き直す」活動一辺倒ではもちろんいけません。最終的には自分で書けるようになる。そのための一ツールとしての位置付けが良いのではないかと思っています。
読んでいただき、ありがとうございました。