“小学生向け”生成AI超入門授業 ~ChatGPT編~
「生成AIそのもの」を授業する
「AI活用授業」「ChatGPT活用授業」といった実践事例の報告が増えてきています。私も授業を取材していただいたり、実践を雑誌に載せていただいたりと その一人ではあるのですが、「生成AIそのもの」を扱った授業というものはまり見かけません。(そもそも何の時数で計上するのかという話もあるかも知れませんが…)
今年度「情報化社会」をテーマにしたプロジェクト学習を行う予定のため、その一環として「生成AIそのもの」をテーマに授業を行ってみました。対象は5年生です。
文科省からの暫定的なガイドラインの中にも、「情報活用能力の一部として生成AIの仕組みの理解や生成AIを学びに活かす力を段階的に高めていくこと」として「生成AI自体を学ぶ段階」というものが挙げられています。使う・見せるのであれば、「生成AIそのもの」についての理解は子ども達と共有すべきだろうという思いもあります。
以下、授業のダイジェストです。
授業のダイジェスト
T:「生成AIっていう言葉、ニュースなどで聞き覚えがある人?」
C:(半数くらいが手を挙げる)
T:「じゃあ、ChatGPTだと聞いたことがあるよという人?」
C:「それなら知ってる」
C:(ほぼ全員が手を挙げる)
T:「前に授業で見せたこともあったよね。覚えてる?どんなAIだったっけ?」
C:「何でも質問に答えてくれる」
C:「何でも知ってる」
T:「ちなみに、お家で使っているよという人はいますか?」
C:(1人が手を挙げる)
T:「お、1人いますね…」
T:「もう一回見てみようか」
T:「たとえば、『こんにちは』と入力すると…」
T:「あいさつも返してくれるね」
T:「みんながChatGPTを自由に使えるようになったら、どんなことに使いたい?1つ書けたら持ってきてみてください。」
T:「学習に関するものが人気だったので、おすすめの学習方法とか聞いてみようか」
C:「ポモドーロテクニックって??」
C:「めっちゃ書くなぁ」
T:「ちょっと多いね。みんなにもできそうな方法に絞ってもらおうか。」
C:「なんだか読みやすくなった!」
C:「ゲームやクイズを取り入れるってやってみたいかも」
T:「ところでさ、このChatGPTってどんな仕組みで動いていると思う?どこかでめっちゃ頭いい人が返事を書いてくれてるのかな。」
C:「そんなわけないと思う笑」
C:「なんか複雑なシステムがある」
T:「じゃあちょっと仕組みについてお話ししてみます。詳しく解説すると日が暮れてしまうので、簡単にね」
T:「ChatGPTのような生成AIはまず、世界中から集めた大量のデータをもとに、回答を作っています。例えば「昔々」の続きを書いて、とお願いすると、その次に来る言葉として特に可能性が高そうな言葉を続けます。「昔々」ときたら、次にはどんな言葉が来そう?」
C:「あるところに」
T:「…という感じで、ChatGPTも次の言葉を予測して画面に表示しているんです。だから、ChatGPTが出しているのは『答え』ではなく、『予測』なんです。」
T:「ではここで…『生成AIクイズ』です。」
T:「全部で7問あるので、頑張ってください…!」
C:「よっしゃ」
C:「難しそう…」
T:「よく考えれば十分正解できる…と思うよ。では第1問」
C:「さっき言ってたよ笑」
T:「これは当たってほしいなぁ」
(全員が⭕️に手を挙げた)
T:「素晴らしいですね。よく聞いていました。」
T:「生成AIの回答はあくまで予測なので、何でも正しい答えを持っているわけではありません。ということは、どんなことを言ってきたとしても、最終的には人間である自分が判断しなければならないというわけですね。
(全員が⭕️に手を挙げた)
T:「『予測』である以上、間違うこともあるんですね。例えば、有名人のプロフィールを聞いてみましょう」
T:「聞いてみたい芸能人いますか?」
C:「錦鯉の長谷川さん!」
T:「このバージョンのChatGPTは、2021年までの情報しかないんだって。錦鯉ってそれより前から活動してたと思うけどね…。学習してないものは答えられないし、最新のものは含まれていなかったりするんですね。」
C:「米津玄師!」
T:「米津さんね。どうでしょう」
C:「おおー!合ってるんじゃない?」
T:「一見答えられているように見えますが、結構間違いだらけです。例えば、出身地などが間違っていますね(本当は徳島県)。こんな風に自信満々で間違えることがあるので注意が必要です。」
T:「それでは次の問題です。」
(⭕️が2人、❌が18人)
T:「さあ、これはどうでしょうね。」
T:「こちらの指示次第でChatGPTの口調も変わります。ChatGPTの方から何かを言ってくるようなことはありません。生き物ではなく、人間が作った技術であることを覚えておいてください。」
C:「これはあるでしょ!」
C:「いや、誰でも使えそうだけどなぁ」
C:(答えが半々に分かれた)
T:「年齢制限、実はあるんです。利用規約というルールで決まっているんですね。」
C:「じゃあ私たち使えないんだ」
T:「そうですね…。ChatGPTについては、みんなはまだ自由に使うことができません。でも、小学生でも使える別のサービスで似たようなものが出てくる可能性はありますね。」
C:「これはダメでしょ笑」
C:「個人情報入れちゃまずいよ」
C:(全員が❌に手を挙げた)
C:「住所は入れちゃいけないと思います」
C:「個人情報をAIに教えちゃダメだと思います!」
T:「どうしてダメだと思うの?」
T:(インターネット上に個人情報をアップすることのリスクを説明しました)
C:「あーこれは…」
C:「なるほどなぁ」
T:「なにか『なるほど』なの?笑」
C:(全員が❌に手を挙げる)
T:「先生に遠慮しちゃってないですか?」
C:「してないです!」
C:「AIに書かせたら自分の力にならない」
T:「どうして❌にしたのか、みんなの考えがきになるなぁ。ノートに自分の考えを書いてみて。」
T:「なんだか危ない面もあるよね。開発を中止すべきだという意見も一部にはあるようなのですが、みんなはどう思う?」
C:「中止にするほどではないような…」
C:「でも危なそうだし…」
C:(⭕️が4人、❌が16人)
T:「じゃあまず、⭕️の立場の人の考えを聞かせてくれる?」
C:「便利だし、メリットはあるけれど、開発が進んでいけば子どもの教育や文化が180度変わってしまいそうだからです。」
C:「AIの回答が本当に合っているかはわからないし、個人情報がばれたりして身を守れないから。勉強についても、自分の学習の力が失われそうです。」
T:「❌の立場の人はどう?」
C:「便利なんだし、わざわざ中止しなくてもいいと思う」
C:「AIが人間の仕事を奪うという話もあるけれど、AI作ったのは人間自身なんだから、人間が調整できると思う」
C:「使い方やルールを守って正しく使えばいいと思う」
T:「しっかり自分の立場の考えを説明できています。」
C:「これ答えはないんですか?」
T:「答えね。実は、大人の間でもいろんな意見が出ている問題なんだ。だからはっきりとした答えのない問題です。ごめんね。」
T:「ただ、生成AIの開発はもう引き返せない段階に来てしまっていることは事実です。だからきっとみんなが大人になる頃には、使うか、使わないかという判断をする間もなく、使うことになると思います。そう考えたときに大切なのは、「どう使うか」を常に考えて利用していくことです。さっき、○○さんも言っていたけれど「正しく使う」力をみんなには身につけてほしいと思っています。」
T:「では最後に、生成AIについてぜひ覚えておいてほしいことを”7つ”お伝えしますね。クイズから学んだ内容です。」
授業後の子ども達の感想
授業を終えて
Q6〜Q7は意見が分かれるよう、問いを少し極端にして、意図的に考えを引き出すような問題にしています。
私に対して遠慮するような子達でもないのですが、Q6で全員が❌に手を挙げたのは少し意外でした。子ども達はやはり「自分の力を伸ばしたい」という気持ちが強いのかもしれません。ただ、「AIを使う力」が今後必要になってくると仮定したときに、「AIの力を借りずに自分の力だけで頑張るのが正しい」と意固地になってしまってはいけないとも感じています。「使う・使わない」という二項対立ではなく、「どのように使っていけばいいのか」を考え続けていくことが今後大切になっていくだろうと思います。
小学生相手であっても、生成AIについて最低限の知識や倫理観の一片だけでも考えてほしいと思い、今回の授業を行いました。知識の種まきみたいなものです。
大人でも意見が分かれるようなテーマも盛り込みました。大人で意見が割れているものを子どもには「見えないようにする」のではなく、「大人も悩んでるんだけど、みんなだったらどう?」と考えてもらう機会もあって良いんじゃないか思います。
生成AIを含む 情報リテラシーというものは、考え、判断する その過程で鍛えられていくのではなかろうか。。。