マルメ🇸🇪〜ヘルシンキ🇫🇮映画祭日記2024

2024年10月5日 20:49

たぶんもう6-7回は参加しているヘルシンキ映画祭の関連イベント「Finnish Film Affair」。コロナ明けの去年、5年ぶりに参加したときに「こっちも行けばいいのに」とイギリス人ジャーナリストに教えてもらったのが、スウェーデンのマルメで開催されている「NORDISK PANORAMA」。北欧の短編とドキュメンタリーに特化した映画祭だ。いつも日程がFFAとかぶっているらしいが、今年はちょうどずれているので、申し込んでみることに。スウェーデンはフィンランドに近いストックホルムにしか行ったことがなかったので、反対側のデンマークに近い方は初めて。コペンハーゲンも初めてだったが、コペンハーゲンから橋を渡って20分ちょっとという近さに先ず驚いた。

マルメってこんなとこ。シティバイク自慢がほほえましい、カナルがあってのんびり美しい街

全面ガラス張りで明るく過ごしやすい、この辺りのランドマーク的なメイン会場ホテルのロビー

今年で35回目の開催、さすがにかなりオーガナイズされている印象。SNSでの告知もしっかり、マルメの街にもポスターが溢れている。メイン会場はショッピングモール隣の巨大なScandic Triangeln。ここと上映のある映画館２館（この２つが結構離れているのが肝）をぐるぐる回る。初日から最終日までみっちり上映予定が組まれているが、観たい映画どうしやインダストリーのイベントと被りがちで、スケジュールを立てるのが難しい。初日は街ぶらして位置関係を把握し、ゲストデスクで受付を済ませ（オーブニングイベントには入れず）、2日目はコペン郊外への遠征から16時過ぎに帰ってきて、立て続けに3本観た。レイキャビクのストリートアート（グラフィティ）とブラジル・ファベーラのバルーンアートというアート系2本に、リアリティTVに人生を狂わされたフィンランド女子の話。ほとんどの上映にQ&Aがあり、中盤記憶がなかった3本目はとても盛り上がっていた。

2本目はレストラン・バーのあるSpegelnにて。サイドテーブルがあってゆったり。

3本目のBalomaniaは遅い時間からの上映で異常に盛り上がっていると思ったら、観客賞を受賞🏆

3日目の午前中は短編のピッチ。北欧から10本とスコットランドから2本。1本終わるごとに指名制で数人がコメントを求められる。知り合いに当てているのだろうと思っていたら、隣りで喋っていた短編映画祭運営とニューヨークタイムズ・オンラインで隔週で短編を紹介しているという初参加のお姉さんも突然指名された。結構キツめの質問もあって、答える方もなかなかハード。LGBTQや性暴力ハラスメント、思春期やミドルエイジの葛藤のテーマが多い。短編は初めての作品化、監督やプロデューサーの個人的な経験からつくられることが多いようで、長編より生々しさがある。

メイン映画館PANORAのロビーには、コーヒーやエネルギー系ドリンク、つまめるお菓子やクロワッサンなどがしっかり準備されているので、上映と上映の間に小腹が空いた時にありがたい。この日も夜に2本観た。フィンランドと合作ではあるものの、初ブルガリア映画は児童施設で育った女子の成長もの。もう1本は、女子４人のハイブリット・ドキュメンタリーと謳われていたが、一体何を観させられているんだか。。。

「ビーガンのチョコレートケーキ、美味しいから食べてみて！」とみんな感じが良い。スタッフとも段々顔馴染みに。

4日目はBreakfast screeningという朝食つき短編6本上映から。その様子は備忘録noteにも書いた。空想女子と3歳児男子のロードムービー「IRIS」監督が上映後Q&A。男子は自分の子どもで、現場では演出・撮影をしながら、ケアするお父さんも含めて3役をやっていたというエピソードが微笑ましい。

その後、長編のWORK IN PROGRESSヘ。AIより一歩進んだAIGもの、ウクライナの楽団ツアー、バイセクシャルの男性とその家族、障がい者のシリア難民と出会った介助者の友情もの、など、こちらも多様性に富んでいる。短編の時より参加者が少ないが、プレゼンとクリップを少し見せてからの指名コメント制は同じ。「全く救いのなさそうな内容だけど、観客は何を持ち帰れるの？」とか、今回もわりとキツめなやりとりが展開。まさか指名されたりしないよね、と多少ドキドキしながら過ごす。前のnoteにも書いたが、偶然にも『365日のシンプルライフ』のセールスエージェントがコメントをしていたので、終わってから声をかけてみた。自分を知っている人に会えると思っていなかったから、なんか嬉しい。しかし、コーヒー飲みながらの短い時間でも、しっかり新作の売り込みを欠かさず、さすが〜！この日はその後2本観たから、短編とプレゼン分を合わせると何本分？頭が混乱してきた。

5日目は午前中いっぱい、クローズドの短編集上映。終わってからメッセージの返信があることに気づき、慌てて場外に出ただけなのに、さっきまで場内で見ていたカタログがない。席まわりを探してもない。どういうこと？？しかし、サイトにも載っていないマーケット用の大事な資料なので、ないと困る。一緒に探してくれた映画祭スタッフに余りがないか聞いてみると「確かあと3部しかなかったはず。とりあえずインフォメーションデスクで聞いてみて」と言われる。釈然としないまま10分弱歩き、デスクで「マーケットのカタログ、余ってる？」と聞くと「はい、これ君の分。聞いてるよ」と言われてびっくり。あのスタッフさん、すぐに連絡してくれたんだ！すごいオーガナイズされている！日本でもなかなかないわ〜と感動。

図書館やギャラリーでも短編上映がやっていて、そのひとつの図書館Garagotに行ってみた。前のnoteにも載せたここは、土曜に行ったkonsthallのミュージアムショップにあったスウェーデンの美しい図書館を紹介していた本でマルメ市立図書館と共に紹介されていて、これは行かねばと思っていた。上映以外のイベントも色々あって観てまわりたかったが、意外と場所が散らばっていてまわれず。この機にホストにおすすめされた電動スクーター・Voiのデビューを果たせばよかったが、右側通行・自転車が通れない道があるというハードルの高さに、アプリをダウンロードしただけでひよってしまった。自転車だけでなく、電動スクーターの駐車スペースが確保されているのもwell organized。とりあえず日本でデビューしてからかな。

フィンランドだと電動スクーターはどこにでも置きっぱなしになっているから見かけない光景

「明日は何してるの？」とセールスエージェントに詰められながらも、ルイジアナ遠征のために、早くも5日目で終了させてしまった今回のNORDISK PANORAMA。全般的にはよくオーガナイズされていて、いっぱい上映も観られて楽しかったけれど、ネットワーキングの機会がアレンジされていなかったのが（ランチが恐らく製作者と映画祭・メディア・北欧のディストリビューターに限られていた）残念だった。もちろんフィードバックにはその旨を記載。また行くことがあったら、そこは改善されていると嬉しい。

ヘルシンキ🇫🇮へ移動。SAS機の前の席に座っている、ロカルノ映画祭のバッグを持ったフィンランド人二人組もどうやら同じように移動しているようだった。これまでは、一番大きな劇場のBio REXで映画祭のオープニングガラがあり、前後にウェルカムパーティーという流れだったので、基本は夕方以降からと決めつけていた。しかし今年からは大幅にスケジュールが変わって、初日の朝から試写やワークショップ、「Finnish Weird」という新企画のプレゼンが詰め込まれていた。早い時間の飛行機が空いておらず、変更できないタイミングでのスケジュール発表だったので、致し方なし。FFA受付でもらったのは名札と冊子1冊のみ。これまであったトートバックや眠気覚ましのフリスクとかはない。ま、全然良いのだけど、これも予算削減か。備忘録noteにも書いたが、今回初めてヘルシンキ市庁舎でのウェルカム・パーティ。久しぶりに来た市庁舎は、かなりリノベされていて驚く。早い段階からの男女共用トイレがウリだったと思っていたが、別になっていた。なぜ？

前日に『スオミの話をしよう（ALL ABOUT SUOMI）』のワールドプレミアで三谷幸喜監督が舞台挨拶に来ていたのは、日本のネットニュースやらフィンランド在住日本人のSNSで知っていた。パーディーでモデレーターをしたフィンランド人に会うと「彼はもう帰ったよ」と言われる。だろうね。帰国後、朝日新聞の連載記事を読んだら、映画祭関係者から連絡があって上映＆舞台挨拶をすることになったとか。この映画祭のキュレーターは日本映画好きなので、昔からジブリや細谷守といったアニメはもちろん、三池作品とかマニアックな任侠ものなどをやっているのは知っていたけれど、三谷作品はこれまで上映していなかった気がする。なので、フィンランド人の日本映画ファンには知られていなかったと思うから、舞台挨拶はミニシアター規模のMAXIMでちょうどよかったのかも（もちろん数時間で瞬殺したらしい）。しかし、日本でヘルシンキ国際映画祭が話題になるなんて初めてに違いないから快挙か！笑。好評だと映画祭終盤に再上映がされることになっていて、今度はBio REXでだったそう。良かった！

今年は映画祭が始まると同時にマルメへ移動してしまったので、映画祭上映で観たのは最終日の1本のみ。FFAパスを見せれば見放題→希望のチケットを取ってくれる→フィンランド映画だけチケットをくれる→マーケット試写のみ→自腹購入のみ（早期割あり）と、この点においては13年の間に徐々にグレードダウンしていったのが本当に残念。なので、今回は、SHOWCASEとネットワーキングランチ、1 on 1ミーティング、サウナパーティーがある1日にほぼ集中。前日の移動時に雨に降られて風邪を引く一歩手前だったので、とりあえずこの日は早く寝た。

SHOWCASEの前半、午前中はテレビシリーズのプレゼンから。アニメとスリラーが多い。「北欧ノワール」ならぬ「北欧ブルー」というウリがあることを知る。その後はフィクション。複雑な家庭環境の家族ドラマ、戦時のフィンランド・ユダヤ人移民、紛争地難民キャンプ、ミドルエイジクライシス、ティーンのひと夏の体験、気候変動エコファシスト、女医の医療ドラマ、と一括りにすると酷いが、当然ながらイマドキなテーマが多い。NORDISK PANORAMAとも被りを感じる。プレゼンをした監督やプロデューサーの男女比が、昨年に比べると男性が多い気がした。いつもながら、日本のマーケットにフィットするフィクションって難しいよな〜と思ってしまう。

日本でも数本の公開作があるクラウス・ハロの新作。前回の初英語作品は公開されなかったけど

前半終了後のネットワーキング・ランチを待つ間に起こった素敵な話は備忘録noteにて。ランチで同じテーブルだったのは、スイスから来たコンサルタント。SHOWCASEと同じ時間にやっていたAIに関するパネルの登壇者だったらしい。映画の企画の初期から完成後までのどの段階でも、AIとリアルのオーディエンス・リサーチを駆使して製作者にアドバイスをするとか。日本でもアニメではそんな話があるらしく「だって、日本の映画市場はアニメが主流でしょ？」とバッサリ。ま、そうなんだけどさ。今回のFFAはこういったAIの活用やゲーム業界との協働、トランスメディアに関するパネルやワークショップがたくさん組まれている。「実際、何ができるのかね〜」とドキュメンタリーの監督とコンサルタントの話を聞いていたら、「ちょっと〜、探したよ！」と知らんおじさん二人組が急に登場。どうしても聞いてほしいプロジェクトがあって、紹介したい人がいると言われ、コーヒーを持ってロビーへ移動する。待っていたのは監督とプロデューサーの女性コンビ。笑顔が素敵で柔らかな2人から聞いたプロジェクトは、去年のSHOWCASEでプレゼンを聞いたものだった。有名な舞台俳優が、教育者としての自分と批評家に怯える自分というふたつの悪魔と戦っていたが、あるきっかけで本当の自分を探すことにする物語。これはもちろん、身動きがとれなかったコロナ禍を乗り越えた後に、誰もが自分を取り戻そうと目覚めたということが背景にある。監督が物語を最終的にどう展開させるかを考えていたときに、映画が大きな力を得て動いていった「奇跡」の話も聞く。それによって、完成までの時間が延びてしまったようだけど、とても満足げで、こっちまで完成が楽しみに。ほっこり良い時間を過ごしていたら、とっくに後半のSHOWCASEが始まっていて、会場へダッシュ！

後半は、ドキュメンタリーの完成が近いものと開発中のフィクションに分かれていた。ドキュメンタリーの1本目のインフルエンサーものに興味があったが、遅刻して見逃してしまったので、2本目から。70年代のクイアアーティスト、厳格な漁村コミュニティ、サナトリウム文化、三世代家族、女性ボディビルダーと、わりと重めなものばかり。でも引っかかるものはあった。あとでミーティングを申し込もう。開発中フィクションのプレゼンでは、ランチの時に突然現れたおじさんの1人を発見。プロデューサーだったのか！スリラーやファンタジーはあまり興味が持てなかったが、ノルウェーにいたナチの従軍慰安婦だった５人の女性たちの逃亡劇は面白そう。監督の前作を観たことがあって期待できるが、再来年観られるかな、というスケジュール。

コーヒーブレイクも挟みつつ（ここで『マイヤ・イソラ〜』のプロデューサーMerja、前回までミーティングのマッチメーカーだったMartaと再会）、長い長いSHOWCASEが終わると、1 on 1 ミーティングへ移動。完全にホテルの場所を勘違いして、また遅刻した。今回は事前にミーティング予約をされなかったので、自分が興味があるものだけでよく、気が楽。しかし人気があるプロジェクトは時間がとれず、メール対応。最後の枠をとってもらったのに、行ってみたらもういなくなっていたということも。ミーティングをセッティングしたスタッフにはものすごく謝られたが、プレゼン見てなかったし縁がなかったのかも、と諦める（その後、受賞していたのでちょっと悔しさも）。帰国後、ミーティングをした人たちからフォローアップの連絡があったり、ミーティングしなかった人から残念だったけど完成したら観てくれるかしら？と連絡があったり。どれもセールスエージェントではなく、監督やプロデューサーからなので、こういうつながりができるのが、ここに来る理由だなと改めて感じる。

そして、夜はおしゃれサウナ・ロウリュでの恒例のサウナ・パーティー。これも備忘録noteに書いたが、素晴らしかったプレゼンに対して、スポンサーやFFAから賞が贈られる。確か賞金2000〜3000ユーロだったと思うので、約30〜50万円くらい？プレゼンひとつでそれだけ貰えるのは悪くないのでは。プレゼンしたうちの1人の中国系フィンランド人と授賞式の直前まで話していたが、式が始まると緊張した様子だった。受賞したプロジェクトが私の興味と合わないものばかりだったのは、NORDISK PANORAMAの受賞結果も同じく。そんなものかと納得していいものやら。授賞式が終わると、みんな一斉にサウナへ移動。今回は二次会が会場が決まっていて、そちらにバスで移動する人たちも。私はホテルのサウナに入りたかったので、バスに乗ってからホテルまで歩いた。翌日、朝食をとりながら話したデンマーク人は「え〜、サウナなんて入らなかったよ」と一言。確かに北欧の人がみんなサウナ好きなわけじゃないもんね。3日目のその後については、備忘録noteに詳しい。

パーティーにもサウナ飯にもさびしい、サーモンスープとアップルケーキのディナー。
これにさえありつけなかった人もいたので、よしとせねばか

今回ふたつの映画祭に参加して、コロナ禍から生まれたものやマインドセットの変化、コミュニティ回帰を映すプロジェクトが多いことが一番印象的だった。あとは北欧ならではの気候変動といった地球環境問題、世界的トレンドでもある多様性に対する社会課題へのアプローチの多さも目についた。グローバルに起きていることゆえに、共有できる視点や意識は当然あるものの、それをどうやって日本のオーディエンスにお金を払って観て貰えるか、面白さを感じて貰えるかは、簡単なことではない。しかし、円安にもひるまず、それなりに長い時間をこのふたつの映画祭に費やしたことは、少なくとも自分を「揺らす」ものではあった。

マルメ🇸🇪〜ヘルシンキ🇫🇮映画祭日記2024

いいなと思ったら応援しよう！