東京カウボーイ総括
井浦新さん主演『東京カウボーイ』の日本公開日から早3ヶ月。
怒涛の舞台挨拶期間も終盤となり落ち着いてきたのでいまさらだが感じたことや考えたことを書きのこしておこう、と思った。
ラストマイルで井浦さんにハマった方々も、まだ間に合うので是非映画館に観にいってほしい。
観に行く動機に高尚な理由なんて必要なく、とにかく一度観てそこで感想を持てればいいというのが私の持論。その第一歩が、舞台挨拶で生の井浦新を拝めるからだっていいと思うし、話題になっていたからだっていい。監督が好きだからその監督の作品を全部観る人も俳優が好きだから観る人も、好きなジャンルだから観る人も、友達に勧められて観る人も、たまたま時間潰しに映画館に入って観た人だって、みんな違ってみんないい。肝心なのはその一歩を踏み出すか否かだ、と思う。だからまずは観てほしい。
ヒデキめっっっちゃかわいいよ!!!!井浦さんファンなら観ないと損!!!!!!!あしがながい!!!!!爆イケカウボーイ姿拝めるよ!!!!!!!!!!!!!
ここから先はネタバレを含む感想なので、まだ観ていない方は回れ右していただき、そのまま映画館へどうぞ!
↓↓↓↓↓↓ 以下舞台挨拶などの内容も含むネタバレあり個人の感想です↓↓↓↓↓↓
前情報をみたときヒデキは本当に数字にしか興味のない冷たい男なんだと思った。でも蓋を開けてみたらそうではなく、人間味が溢れていた。1人の男がアメリカに行って変わる物語だけど日本にいるときもただの冷たいだけの男ではないと私は感じていた。買収したチョコレート工場で会長に「本当にチョコレートづくりがお好きなんですね」と問いかけたヒデキ。会長が「そりゃそうですよ、あなたもそうでしょう?」と返すんだけどその後のヒデキのなんともいえない表情がいい。わたしにはその表情がただの冷徹な男のものには見えなかった。
すいか畑の父との写真は生産者側の気持ちもわかるんですよ、と伝えるのにうってつけのものだ。実際チョコレート工場でもモンタナでのプレゼンでもこの写真を使うヒデキ。利用しているように見える一方で常に胸ポケットに現物を持ち歩いており、時折出して眺める。その表情の変化がとても好きで、これについてティーチインで質問したとき井浦さんは「ヒデキは勝ち続けることにしか興味がなかったけれど、お父さんへの想いがないわけではないと思った。アメリカに行って、ずっと近くにあった写真がこんなに大切なものだったと再確認できた。」というようなことをおっしゃっていて、すとんと胸におちた。0が100になったわけではない。井浦さんがそう考えて演じていたから、日本時代のヒデキもただの冷徹な男ではなく全て地続きでしっかり人間味が出ているんだな、と。なんならかわいいもん。人間味があるから憎めなくてかわいい。
みんな大好きキエンセニェーラのシーン。陽気な音楽とお酒にダンスとハッピーな空間。バタンガのベロベロヒデキのかわいさたるや!そこからのあの字幕なしの涙のシーン。感情ジェットコースター!!!様々なティーチインで感想を聞いていると作中で一番このシーンを印象的に感じている人が多いように思った。ここを字幕なしにしたの本当にすごい。最高。ヒデキと同じきもちで観ることができる。言葉はわからないけれど、木とともに成長したであろう少女をみてケイコと内見した家を思い出したかもしれない、はたまた父のことを思い出したのかもしれない。異国でうまくいかない状態で、日本が恋しい気持ちもあっただろう。お酒で感情の起伏が大きくなったヒデキはあのときぐるぐると色んな感情が蠢き涙が溢れてとまらなくなったはず。酔って涙とまらなくなるときの自分でもわけがわからない状態めっっちゃわかるんだよな〜。本当に大好きなシーンの一つ。
私はヒデキとハビエルの関係性の転換のシーンとしてこのキエンセニェーラの序盤のシーンをあげたい。直前にキヌアのことでヒデキに対して声を荒げたハビエル。"牧場の数字のことしか考えていないヒデキ"に"生活がかかっている自分(ハビエル)"なんて見えていないと思っただろう。自分の存在はヒデキにとって"牧場の一部のちっぽけなもの"と感じてもおかしくない。だが、ハビエルがキエンセニェーラの会場で彼女を紹介しようとした時「ベロニカ?」とヒデキが尋ねる。そこでハビエルはちょっと嬉しそうに「覚えてたの?」と返すのだ。小さいことかもしれないけれど、自分が以前話したことをちゃんと覚えていてくれたという、自分のこともちゃんと見えていたんだと気づいたシーンだと思う。2人の関係性において実は大きいシーンな気がした。これに対する終盤の「ケイコだね?」ってハビエルから話しかけるところも対比?アンサー?のようで大好き。脚本が良すぎる。
この映画は他にもこういう対になるものが結構散りばめられているな、と思う。日本の家の木とキエンセニェーラの木、祖父が牧場を売ったけど牧場自体は残り牧場主をしているペグと、父が農場を売りサラリーマンをしているヒデキ、ケイコとヒデキの日本での温泉旅行の話とモンタナの温泉、妊娠している彼女のためにロデオをやめ稼ぐためにがんばるハビエルと彼女のことをどうしたいのか5年もずるずる婚約しているヒデキ。中でもわたしの好きな対比のシーンがあって、それは"ヒデキが伝わらない相手に日本語を話すシーン"だ。最初はヒデキがハビエルに牧場案内をされているときに発される日本語。はやく仕事に取り掛かりたいヒデキはイライラしたように「コーヒーなんかいらないから僕の時間を無駄にしないでくれ!」と日本語でぼやく。これはどうせハビエルには日本語は伝わらないからと発されたものだろう。言語の壁を悪い意味でつかっている様に感じた。もう一つの日本語のシーンはヒデキが牛の大移動などをおえてホテルに戻ってきたシーン。フロントのシンディがカウボーイ姿でブリーフケースをもつヒデキをおもしろそうに揶揄い出迎えたところ、ヒデキは思い立ったようにケースからチョコレートを取り出す。キエンセニェーラで子供に吐き出された、買収で利益を優先したせいで変わってしまったあの松山チョコレートだ。シンディに日本語で「これ食べてみてくれる?どう思ったか教えてほしい。」「本当のことを言って。」と伝える。伝わらないはずの日本語だけど伝わるような演技なのだ。ヒデキがシンディに伝えようとする真摯なきもちが目や雰囲気から滲み出ている。伝わらない日本語を逆手に取って毒を吐いていたヒデキが、相手に伝えようと日本語を使っている。この変化が私は大好き。そしてアメリカにこの映画を観に行って感動したのが、アメリカ版でこのシーンに字幕がないのだ。キエンセニェーラのスペイン語で私たちが味わったことを、アメリカの人たちがこのシーンの日本語で味わう。字幕がなくてもきっと伝わっていたと思う。ここの井浦さんの演技が本当に好き……!
井浦さんは演技をする時に演技を意識的にする時とカメラの前で素のときがあるというようなお話をよくされる。それはデビュー作のワンダフルライフでの是枝監督の現場で得たものらしいのだが、東京カウボーイでも随所にそれを感じられる。ヒデキは自分とは全然違うと井浦さんはおっしゃっていたが、素にもみえるせいで近しく感じてしまうのだと思う。わたしが特に素を感じたのは大移動のあとに馬のラヴィットちゃんをいたわるシーンだ。「よくがんばったね、おつかれさま。」となでる姿はいい意味で演技をしているように見えない。これはあくまでわたしが感じたものなのでめちゃくちゃ演技していたらごめんなさい(笑)
『東京カウボーイ』はマーク・マリオット監督が山田洋次監督のもとで助監督をしていた経験もあるせいか、アメリカ映画なのに邦画の良さもでている作品だ。脚本も藤谷文子さんとデイヴボイルさんの共作で、日本とアメリカのいいとこ取りだな〜と感じる。繊細でエモーショナルな部分と、クスッと笑える軽快なジョーク。キャラクターも嫌な人がいなくて良い。憎めないヒデキと強いだけじゃなく愛が深いケイコ、相棒となり大事なことを教えてくれるハビエル、最後にわかりあえるペグ、やんちゃなカウボーイたち、そしてみんな大好きワダさん。アメリカでもどっかんどっかん笑いをとっていたワダさん。ワダさんの面白さは世界共通なんだな〜。國村隼さん流暢な英語であの感じなのずるい(褒め言葉)。國村さんの撮影での魚釣りのエピソードも面白かったし一度だけでも舞台挨拶で拝見したかった…!飲んで入院して食べて寝て食べて寝て食べてハーディーズ運ばせて冷めてるって文句言ってお金もらえるの最高!アメリカでの入院費莫大だろうな…なんて思ったり。そして私のお気に入りのフロントガールのシンディちゃん。異国で一人心細いヒデキにとって彼女の存在って地味に大きかったんじゃないかな。アニメ好きでカタコトながらも日本語で話そうとしてくれる彼女に救われたはず。日米の架け橋的な存在だった。シンディのシーンは1日で撮影しきったというのも凄い。そしてテーマソングも日本語の歌で郷愁を感じられてとても良い。歌っているのはナウシカのらん♪らんらららんらんらん♪を歌っていた方だそう。たしかマーク監督が前夜祭にて韓国映画の『ミナリ』のように印象にのこるテーマソングにしたかったとおっしゃっていたはず。
この映画には大どんでん返しやトリックがあるわけではない。大きな爆発も他殺体もない。実は親友が黒幕で裏切ったりなんてこともない。そんな大きいことはおこらないけれどじわっと心に沁み渡るものがある。スクリーンいっぱいに映し出されるモンタナの広大な自然に包まれる。観おわったあと心なしかちょっと観る前より足取りが軽くなってるとか口角あがってるって感じ。それがわたしはすごく好き。
あっという間でとてもたのしい3ヶ月間だった。映画はつくるまでじゃなく届けるまでが仕事、と忙しい中毎週のように地方の映画館へ舞台挨拶に駆け回っていた井浦さん。今回は監督も藤谷さんも他のキャストさんもアメリカ在住なので責任もって僕が届けます、とほとんどお一人で回られていた。本当にお疲れ様でした!時には次の映画の上映時間となってマイクが切れたり、5時間におよぶ白熱のQ&Aになったり、帰るのを諦めた長野ロキシー、ドラマの撮影などの合間をぬって24時間しか滞在しない弾丸LAなど数々の伝説を残しながら常人には真似できない頭のおかしいスケジュール(ごめんなさい褒めてます)で動き回る井浦さん。追っかけ回す方も正直めっっっちゃ大変だったけどその大変さを超えてまで行きたいきもちが勝るくらいほんっっっとうにたのしかった!!!!!!!その場限りのお話も聞かせていただけるからやめられないとまらない。毎回本当に楽しませていただいて感謝しかない。ありがとうございました!
東京カウボーイ最高!!!!!!!!!!