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ネクラ採用担当者、パーティーへ行く

12月、採用閑散期のわりにはやっかいな季節だ。
パーティーシーズンの到来である。

大変遺憾なことに、今年はパーティーと呼べるような会合が3つあった。

ここで言うパーティーとは、大規模なホテルでご飯を食べながら談笑する類の行事である。ただ居酒屋で知り合いと過ごすだけの忘年会なら、ここまで嫌にはならないだろう。今年の3大パーティーは、どれも仕事がらみでサボれない。

例年、採用担当者が呼ばれるパーテイーは3種類ある。

  • 純粋に自社が行うYear-End Party                 (私の勤め先はムダにホテルで開催する)

  • 人材紹介会社が主催するクリスマスパーティー            (と言う名のネットワーキング名刺交換会)

  • 大学の同窓会が主催する年末パーティー

3つ目の大学のパーティーがなぜ仕事につながるかというと、新卒採用の糧となる人脈が山程あるからである。

出身大学はもちろん、他の大学の講師や、高校の教師になった同窓生等に繋がるチャンスがあるのである。他大学のキャリアセンターや高卒採用の担当教師との繋がりが、ここほど一気に手に入る場所もない。

12月の第一土曜日、私はこの大学パーティーを前にして、部屋のベッドで毛布をかぶり、グダクダしていた。そもそも、採用担当者という仕事をしていなければ、知らない人と話す事が本当に苦手なのだ。すでに社会人経験も宴会の経験も十分すぎるほど積んできたのに、まずはドレスの色やネイルなどの出で立ちで悩み、次にアクセサリーが貧相すぎないか悩み、誰とも名刺交換できなかったらどうしよう、会場はじっこでボッチ飯になったらどうしよう等と、ウジウジしっぱなしである。

しかし、どうあがいても、今日はパーテイーに行かなければならない。それも上司からの指示でパーテイーの実行委員会にも入っていたので、今日は大学クイズの司会を務める事になっている。

参加人数は1200人。何でこんな大舞台に、大学時代も特に目立つことになかった自分が立つ事になっているのか、よくわからない。

結局は無難なドレスを着て、名刺の束をクラッチバックに隠し持ってパーテイーが行われるホテルに向かう。

会場、でかいよ、立派だよ。

照明バシバシたかれるし、会場の正面には政治家のパーテイーみたいな立派なひな壇がドーンと用意されていた。

参加者名簿を確認しても、老若男女、社会的地位高めの出席者がたくさんいる。もはや怖い。先週の日経新聞に顔写真載っていたな、というような経営者も何人かいた。

私の母校は、同窓生同士で名乗るときに学部名と卒業年を言うしきたりがある。

私の学部は偏差値でいうと底辺の学部だったので未だにちょっと恥ずかしい。ゼミや授業で出会った同級生は皆個性的で心優しく、ネクラな私にもいつも声をかけてくれ、とても楽しい学生生活だった。それなのに、他の学部出身者に自分の学部を名乗るのに未だに少し気後れする。できればいわずに済ませたい。きっと一生、こんな気持ちでいるのだろうなと思う。それはもう、自分でも取り除けない感情であり価値観で、その根深さに我ながら驚く。モンゴル文化とか狛犬の歴史とか、マニアックなテーマをがっつり勉強できて楽しかったじゃないか!と思う気持ちとは常に裏腹だ。

そんな自分の羞恥心に今年もしっかり向き合いつつ、パーテイー会場に来場者が増えていくのを眺めていた。

時々、知り合いを見つけては、あ!久しぶり!とか、お世話になっております、と頭を下げたりとか、採用でお世話になった関係者にビールをついでまわったりとか、はたからみたらちゃんとした大人に見えるのかもなと思いながら、大学クイズのプログラムを待つ。

余談だが、私は瓶ビールをついで挨拶をするのが大嫌いだ。早く根絶されてほしい文化のひとつだと考えている。だいたい、グラスが小さすぎるからすぐ空くんだよ。もっとデカくしてくれ。

そしてパーティーは、やはり気疲れする。

高い参加費をはらっても、ビュッフェ形式のご飯をどんどん取って食べられるわけでもなく、お酒も飲み放題だけど、仕事が絡むからそんなに飲めない。

知り合いに挨拶して、人を紹介いただいては名刺交換して、ものっすごくとりとめのない話をした。採用関係者とはほぼ全員と「今年の新卒も苦労しますねぇ」と話した。このコミニュケーション、必要か?(でも、回りまわって一緒に採用イベントやったり、大学の説明会枠とってもらったりするから、結局は必要。面白くないだけ)

さて、みんなが挨拶まわりに飽きてきた頃、自分が壇上に上がる出番がやってきた。この大学に関する雑学を集めた大学クイズ。数えきれないほどの老若男女の視線を一身に受け、スポットライトを浴びて、マイクを握る

「さあ、皆様、今年もやってまいりました、大学クイズの時間です!今年もたくさんの企業様より豪華商品をご提供いただきました!本当に皆様、ありがとうございます!」

まるで、慣れているかのように、スラスラと、明るく、のびやかに、私は言葉を繋いでいく。

パーテイーがあるから今週はずっと憂鬱で、今日もベットから出たくなくてウジウジウジウジしていたのに。

ステージに立った瞬間にパチリとなにかが切り替わる。

これは、採用課スイッチ、だ。

会社説明会、就活イベント、内定パーテイー、入社式、様々な規模の会場で壇上に立ち、まるで自社のすべてを知っているような顔をして、明るく、声を張って話すこと。たとえどんな質問がきても、回答するかかわすかしながら、笑顔で終える謎の能力。

初対面の学生にも、中途採用のハイキャリアにも、誰に対しても明るく、丁寧に、でも親しみを混めて言葉を発するこの習性。

多くの人とお話する時、私はたぶん採用課スイッチONの状態でお会いしている。

それは、自分の現実とはかけ離れたキャラであり、自分以外にも、採用担当者の実態は採用関係者の70%がネクラだと私は見ている。実際、東京ビックサイトで毎年開催される就活フェアの企業控室には、死んだ魚の目をした採用担当がゴロゴロと転がっている。

みんな、自分の致死量を超えた笑顔を振りまいてしまったのだ。

私たち採用担当者は、就活ブログや就活を題材にした小説などでかなり辛辣な書かれ方をする。まぁ、いつも明るく朗らかなのに、選考結果が不合格になった瞬間に縁を切ってくるような生き物だから(こちらはそんな風には思っていないのだが)、嫌われるのも仕方がない。

でも、実は私たちも人間で、自分に対するコンプレックスも、仕事上の悩みをモリモリに持ちながら採用活動に参加している。しかし、採用担当者は人間の割に、一番近くに寄り添う割には、受験者に対して本音を伝えることは、ほとんどない。

それは、合格理由にしても、不合格理由にしても同じことだ。だから、きっと、恨まれることも、怯えられることもあるのだと思う

でも、もっと採用担当者の頭の中を知ってもらえたら、選考を受ける人にとってもストレスが軽減されるのではないだろうか。
これから貴方が面接で会う採用担当者も、実はそこまでpositiveでも明るくもないし、眼光鋭く人を値踏みするような怖い生き物でもないのかもしれない。

そう思っていただけるように、採用担当者の生態について、お伝えしてみようかなと思いついたので、書いていこうと思う。ふふ。

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