地域材を使うことで、得られる“気づき”ーー大沢宏
木の家だいすきの会のメンバーの、人となりを紹介していくこの企画。第10弾は、コウ設計工房の大沢宏さん。埼玉県の地域材である「西川材」を活用し、住まいの地産地消を推進しています。地元愛と木材愛にあふれる活動は、街の未来を見据えてのものでした。
江戸時代から伝わる良材を擁して
――大沢さんは、「西川材」という木材を採用されていますね。西川材の特徴について教えてください。
大沢 埼玉県の南西部のエリアから採れる木材を西川材と言います。西川という地名は実はなくて、江戸時代に「“西”の方の“川”から来る良い“材”」といわれたことから、この名になったそうです。
――江戸時代の人たちはアバウトな捉え方だったんですね(笑)。
大沢 そうですね(笑)。でも、良材であることは間違いありません。このエリアの大部分は秩父生層からなる褐色森林土。年間気温は12~14℃、平均降水量が1700~2000㎜、積雪は年3~4回。この地質や気候がスギ・ヒノキの育成にマッチするようです。さらに、他の産地に比べてかなり密に植える。そこから間伐をして良い木を選抜するんです。その結果、西川材は年輪の間が狭く高密度で、強度が高く、たわみや変形が起きにくいんですよ。
――なぜ大沢さんは西川材に着目するようになったんですか?
大沢 私が生まれ育って、いまも事務所を構えている飯能市が西川材の産地だというのがひとつ。食事だけでなく、住まいも“地産地消”だといいなと思ったんです。西川材を使うことで、森に人の手が入り、森林環境を守ることにもつながります。
――地域の中で循環が行われるというわけですね。
大沢 そうですね。今は外国産の木が主流で、その結果日本の森林が伐採されずに荒れてしまうケースは多々あります。飯能市の面積のおよそ75%は森林です。愛する地元の環境を守る第一歩として、西川材を積極的に活用しているんです。
「木の匂いがする!」と子供が叫んだ
――飯能市はもともと木の町だったんですね。
大沢 はい。昔は一般の方でも、スギとヒノキの違いが見分けられたらしいです。木が身近にある暮らしを、少しでも取り戻していきたいですね。その一環として「NPO法人 森の市場」を立ち上げました。
――どんな活動をされてるんですか?
大沢 西川材の調達から設計、施工にいたるまで木の家づくりの相談に乗っています。もともと材木屋さんとともに、山主さんと建主さんをつなぐ運動を行っていたんですが、それが県の目に留まりNPO法人へと発展しました。
――コウ設計工房では「木の家」に特化して設計を行っています。建主さんの反応で印象に残っていることはありますか?
大沢 そうですね。「お客さんが長居をする」という言葉をもらったことがあります(笑)。木の家の居心地の良さを示すエピーソードですよね。これは我が家での出来事ですが、子供の友達が遊びに来た際に、「木の匂いがする!」と喜んでいました。その友達はマンション住まいだったようです。次の時代を担う子供たちに、早くから木の魅力が伝えていきたいですね。
木の家と伝統技術を後世に残すために
――家づくりは、まさに木の魅力が伝わる大事なイベントですね。
大沢 そうなんです!ですから、私たちが家づくりを行う場合、建主さんに森に足を運んでいただくことも多いんです。
――生の木に触れてもらうと、より愛着も変わりそうですね。
大沢 大黒柱を選んでいただき、自らチェーンソーを入れてもらうこともあります。伐採の迫力は何度経験しても格別なので、建主さんの思い出にも強く残るでしょう。また、他にも丸太を磨いたり、皮を剥いたり、加工現場で職人さんの手さばきを見学したり。家づくりを通して、木や森、環境についてなにか気づきがあると嬉しいですね。
――先程の地産地消の話に戻るのですが、ご一緒する大工さんも地域の方々になるのですか?
大沢 はい。基本的に西川材の産地周辺の工務店さんとタッグを組んでいます。木の家づくりには、高度な職人技が求められます。機械ではなく手刻みで木を加工し、仮にプレカットであっても伝統的な工法を施してもらっています。私たちがお願いしているのは、すべて信頼できる方々です。
――伝統的な技術にこだわる理由はなんですか?
大沢 日本の家づくりが変わってくる中、昔ながらの技術を伝承するのが難しくなってきています。でも、自然素材である木を扱うには、専門的な知識や技術が必要です。私たちは木の家づくりを通して、ホンモノの大工さんたちとともに技術の継承や向上に貢献していきたいと思っています。
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