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花が咲かない街

アスファルトとコンクリートが地表を覆って土の匂いがしない、野花が咲かない街。
私は今日もこの街に降り立つ。
駅前は再開発ですっかり様変わりした。新しい建物が建ったかと思うと数ヶ月で空き地となり野草が芽を出す前に、そこにまた新しい建物が目まぐるしく建ち並ぶ。そして瞬時に飽きがきて使い捨てられ消費されていく 人間たちが 陣取りゲームを繰り返している。
当然のように喧騒が充満し、聞こえくるはずの足音と息づかいがわからなくなる。
ホームから地続きに広がる商業施設や複合施設のビルが視界を窮迫し目のやり場を奪う。
頭上には青空、入道雲は遥か先、見えない地平線から堂々とこちらをのぞいている。が奴らはいつも遠くにあって郷愁だけを覚えさせる。
喫煙所でタバコを吸う人達が聳え立つ建造物で歪に形成された空へ首だけを伸ばし、湖面に群がる鯉みたく煙をパクパクさせている。
立ち昇った煙たちは天灯のように日光へと消え。一枚、また一枚と青空へ煙って灰色の天幕をかける。次第に私は重くなり底が無い地表へ押しつぶされ、空は上へ上へとおしあげられていくかのようだ。
絶え間なく活気とは別な混沌とした目的を持たない浮浪者の行進で熱を蓄えていく市街地。そこから逃れるようにその音を作っている一員である私自身の足音から逃れるように歩く。
舗装され不便なく歩ける道が煩わしい。下では自然が息を殺してる。いつも通り、いつも通りだ。
道すがらまたもや以前あった建物が虫歯で抜歯された口のように悍ましくごっそり抜けていた。砕けたコンクリートからところどころのぞいている土は久しぶりの日光を浴びながらも湿ってドス黒い。
そこへひらひらと花の羽ばたきが音もなく一匹降り立った。お腹をふっくらさせてちらちら舞う姿はここでは異質で奇妙に思えた。
ここには花はない。ここでは花が咲かない。
静かに眠る重機に少し怯えながらも、這い出そうとする飢えた視線を浴びながらも軽やかにそれらを挑発し、彼は飛び散った人工物と疲労した土に幾つかのキッスをした。
わずかに見惚れてある願いを抱いた私はスーッといつもため息へと変ってしまう息を吸った。やはり匂いはない。彼の小さすぎる体では花の匂いを運ぶことはできない。
勝手な落胆の息がやはり出た。ふっと漏らした息を連れて彼は入道雲の元へ舞って去ってゆく。
鮮やかな色のランドセルを背負った彼はどこから来たのだろうか。
そしてどこへいくのだろう。

ここはじきに寒くなる。

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