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「COVID-19が日本の病院診療に及ぼした影響」

TONOZUKAです。


COVID-19が日本の病院診療に及ぼした影響

以下引用

東京大学の山口聡子氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックが日本の医療に与えた影響を検討するために、日本国内26病院の入院および外来受診のデータを利用して、2020年の状況をパンデミック前と比較するコホート研究を行い、入院患者も外来受診も2020年5月の第1波の時期に最も大きな抑制が見られ、影響の大きさは患者の疾患により違いが見られたことを報告した。結果は2022年4月22日のBMJ Open誌電子版に掲載された。。

 COVID-19パンデミックの影響で、COVID-19以外の疾患患者の入院、救急受診、外来受診動向に劇的な減少が見られたことが、海外諸国から報告されている。日本では海外と違いいわゆる「ロックダウン」は実施されなかったが、喘息患者などで受診患者数減少が確認されている。しかし、COVID-19が様々な診療分野の入院や外来受診に与えた影響を幅広く調べた研究は、まだなかった。

 そこで著者らは、日本におけるCOVID-19の感染拡大の第1波(ピークは2020年5月)と第2波(2020年8月)が、医療サービスの利用に及ぼした影響を明らかにするために、Medical Deta Vision社(MDV社)から得た匿名の診療記録情報を利用して、後ろ向きコホート研究を実施した。

 分析対象は2017年1月から2020年11月までに、国内の26病院を受診・入院した患者78万5495人の保険請求データ。患者の年齢、性別、診断名、処置、処方に関するデータに加えて、入院患者については、入退院日、入院理由、待機的な入院か緊急入院か、院内死亡の有無、疾患の重症度などの情報も得た。入院中に受けた医療の情報は、退院時にまとめてデータ登録されるため、退院数を入院患者数に利用した。その上で、2020年の月別の入院患者数、診断名別入院患者数、外来受診者数、内視鏡検査受検者数、リハビリ実施患者数、外来で化学療法を受けた患者の数、維持透析患者数、外来での処方件数をパンデミック前の2019年同月(または2017~19年の平均値)と比較した。
 2017年1月から2020年11月までに、60万9101人の患者が入院しており、このうちCOVID-19の診断が確定した患者や疑い患者838人を除いて、60万8263人をCOVID-19以外の入院患者と判定した。入院患者全体では、2019年の各月との比較で、パンデミックの入院への影響が最も強く表れていたのは2020年5月で、患者数は27%減少していた。その後は前年同月と比較した減少幅が縮小し、2020年10月には7%の減少となっていた。

 診療科別に影響が最も大きかったのは小児科で、入院患者数は2020年5月には65%低下しており、11月の時点でも、入院患者数は2019年同月の半数に満たなかった。2020年5月の内科の入院患者数は前年同月から21%減少、外科は19%減少、整形外科は25%減少、耳鼻咽喉科は38%減少だった。

 入院の目的別に比較すると、診断目的の入院は、5月には50%減少しており、8月には36%低下していたが、あらかじめ予定されていた化学療法、放射線治療その他のための再入院の低下率は、5月が6%、6月は12%と小さかった。疾患領域別に検討すると、前年に対する5月の減少率は、呼吸器疾患が55%、循環器疾患が32%、消化器疾患が26%、外傷や中毒が22%だった。これに対して、悪性新生物は5月が6%減少で、最も少なかった9月でも10%減少にとどまった。

 呼吸器疾患による内科病棟への入院の2020年5月の減少率は43%で、小児科病棟への入院の減少率は86%だった。小児科に入院していた患者の45%は呼吸器疾患だった。さらに詳しく見ると、2020年5月のCOVID-19以外の肺炎による16歳未満の患者の入院は、前年同月に比べ93%減少し、16歳以上の患者の入院は43%減少していた。COVID-19以外の肺炎による入院は、どの年齢群においても減少していたが、特に6歳未満で顕著だった。2020年5月の喘息による入院は前年同月に比べ80%減少し、急性気管支炎による入院は88%減少していた。同様に、誤嚥性肺炎による入院が27%、慢性閉塞性肺疾患による入院は50%減少していた。

 2020年5月の循環器疾患による入院の減少率は、急性心筋梗塞が29%、心不全が17%、脳梗塞が17%、頭蓋内出血が11%、アテローム性動脈硬化症は46%となっていた。狭心症患者の予定されていた入院は、2020年5月には47%減少していたが、予定されていなかった狭心症による入院の減少率は12%にとどまった。

 悪性新生物による入院数の減少率が大きかったのは、大腸癌は9月で16%、胃癌は7月で37%、肺癌は8月で25%、前立腺癌は6月で33%だった。

 消化器疾患による入院の2020年5月の減少率は、大腸ポリープが53%、鼠径ヘルニアが43%、急性虫垂炎が14%、麻痺性イレウスや腸閉塞が11%、憩室疾患が26%となっていた。胆石症による予定されていた入院は、前年同月に比べ2020年5月には45%減少していたが、予定されていなかった胆石症による入院の減少率は5%にとどまった。

 外来受診は、77万3797人の1093万2126件記録されていた。外来受診件数は、2020年5月には22%低下しており、最も低下率が高かったのは小児科受診者の51%だった。

 エアロゾル産生手技である内視鏡検査の実施件数も減少していた。前年同月と比べると、2020年5月には、上部消化管内視鏡検査は40%、下部消化管内視鏡検査は46%、気管支鏡検査は41%減少していた。診断目的の前立腺生検も2020年5月には44%減少していた。

 身体的な接触を要するリハビリの実施件数は、外来リハビリについては減少が顕著で、2020年5月は39%低下していた。一方で、入院患者のリハビリの減少率は11%にとどまっていた。

 また、外来で化学療法を受けた患者と、維持透析を受けた患者数の減少は小さく、2020年5月の減少率はそれぞれ9%と5%だった。

 外来での処方の減少は2020年5月に最大となり、20%の減少を示した。5月時点で減少が小さかったのは、癌治療薬(8%)と免疫抑制薬(7%)で、減少が大きかったのは、抗菌薬(30%)、閉塞性気道疾患治療薬(40%)、感冒治療薬(53%)の処方だった。

これらの結果から著者らは、COVID-19以外の患者に対する医療において、パンデミックの影響が最も大きかったのは、2020年5月の第1波の期間中で、呼吸器疾患、特にCOVID-19以外の肺炎と喘息による入院が大きく減少していた。また、小児科に対する影響が最も顕著で、特に呼吸器疾患による入院患者の減少率が大きかったと結論している。一方で、悪性新生物による入院や外来での化学療法、あるいは維持透析への影響は小さかった。なお、感染拡大の第2波での感染者数は第1波より多かったが、診療業務に対する影響は第1波の方が大きかった。パンデミックが日本の医療に及ぼした影響をさらに継続して明らかにする必要があると指摘している。この研究は厚生労働省の支援を受けている。

 原題は「Impact of COVID-19 pandemic on health care service use for non-COVID-19 patients in Japan: retrospective cohort study」、全文がBMJ Open誌のウェブサイトで閲覧できる。

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