○○に△△を抜かし、△△に○○を足す 2
女が二人いる。女の子といった方が相応しいかもしれない。
「どうなの?いいんでしょ?」黒髪で短い髪の女の子が冷えた目つきで言う。その表情には喜びが含まれていた。
「いや~えぇっと……まぁ」真っ直ぐな長髪を茶色に染めた女の子は答えに窮する。断ることが苦手なのかもしれない。もしくは相手の女の子が苦手なのかもしれない。
「でも」と長髪の子が続けようとしたが、頬を触れられ黙ってしまった。
「ユキのことを困らせたいんじゃないのよ。あなたが好きだから……ねぇわかるでしょ?それを伝える為なのよ」ユキに体をググッと寄せながら言った。
「マキ先輩ちょっ、こんな所で!」上半身を引くようにし顔を背ける。先輩ということは二人はおそらく大学生だろう。
「そんな風にされると傷付くんだけどな。もっと相応しい場所があるっていうの?」マキは胸の前で腕を組み困ったというようなポーズをとる。
ユキは俯き黙っている。
その様子を見てマキは口の端に三日月を引っ掛ける。
「私のこと嫌いなの?嫌いになったの?」
ユキはスッと顔を上げる。
「そうじゃないんです。ただ……こういうのは……違うと思うんです」
「きっかけはユキが作ったのに間違いだったって言うのね」マキはユキの瞳を見つめたあとに視線を落とす。
「わたし、あの時は……気がどうかしてたというか、今考えてみるとちょっと……女同士だし」ユキも視線を落とす。もしかしたら蟻がストロベリイキャンディを運んでいるのかもしれないと僕は思う。僕の位置からは確認できないけど。
「くっ……くふぅ……んっふう」マキが嗚咽を漏らし始めた。ユキはキャンディの行く末を諦め顔を上げた。
「マキ先輩?」
マキは反応しない。
ユキがマキの左肩に右手を置く。マキはそれをグウイッとはねのける。
ユキはもう一度挑戦する。グウイッ。
ユキは再度挑戦する。グウイッ。
ユキは立ち尽くし何かを考えているようだ。一、二、三、四、五秒。
諦めたかと思われたユキの左手がマキの右肩に置かれる。
マキは左肩をグウイッと動かす。空を切る。もう一度グウイッと動かす。空を切る。グウイッグウイッグウイッついに肩が回りだした。グウルングウルングウルン。
「マキ先輩、わたし、マキ先輩の気持ちに応えたいと思います!」
マキがローリングさせながらニヤリと音が聞こえそうなほど口角を上げた。何かを達成させたかのような不敵な笑み。キャンディが巣の入り口まで到達したのかもしれない。
マキはようやく顔を上げ二人は見つめ合い抱き合う。
「んふっ」「ふふっ」どちらの含み笑いがどちらのものかは判断つかなかった。
二人はくちづけをした。チュルムチュルムッチュルチュという音がやけに大きく響く。
「ふふっ美味しい!」マキが言った。まさか蟻さん達はキャンディをユキの口へ運んでいたのだろうか。
マキが腰くらいの高さの台にユキを座らせる。マキは両手の先でスカートの裾を摘み、捲る。僕はその仕草を見てウェディングドレスのヴェールを想像した。濃いグリーンのランジェリーが露わになりユキの頬に赤みが差す。
「持ってて」マキが言うとユキはスカートの裾をそのままの位置でクシュッと掴む。
「とても素敵な下着」そう言って太股に両手を這わす。ユキが緊張したのがこちらにも伝わってくる。
マキは両手をスウゥツウスウゥツウと太股の上を往復させながらユキの唇を吸う。ムチュルキュウゥゥゥと音が鳴る。
二人は目を閉じ、相手の口の中に理想の恋人がいるかのように唇を吸いつけ合い押しつけ合う。あの重なり合った空間は誰のものなんだろうか。
盛り上がってきたところでマキの右手が軌道を外れる。遂にグリーンにナイスオンしたのだ。
「んんっ!」とユキが反応する。マキはその反応を確かめる。
脚の付け根の線とランジェリーの縁の間を触れるか触れないかの微妙な力加減でスッスットゥトゥスッとなぞる。
「くふんっ!」ユキにとっては絶妙な力加減だったようだ。
マキはその反応を楽しんだ後にランジェリーと体の隙間に指を滑り込ます。あの中がどうなっているのか、もう僕にはわからない。
ランジェリーの向こう側で指が動くと表面が盛りあがってランジェリーが窮屈そうに見える。僕がランジェリーの心配をしている間も二人は役割に忠実だ。
マキは攻め役を演じ、ユキは受け役として……。最初からシナリオがあり、それに沿っていたのかもしれない。
ランジェリーと体の隙間からスッと抜かれた指は濡れていてキラリと光った。
マキがランジェリーを脱がそうと両脇に指をかけるとユキが片手をついて腰を浮かした。
「あら、協力的ね」マキが言う。
「えっ!」ユキは我に返ったかのような表情を見せる。予期していなかった言葉だったのかもしれない。
「こんな場所で……ほとんど野外だっていうような場所でパンティーを脱がされようとして嫌がるどころか脱がせ易くしちゃうなんて、早くして欲しいのかしら?」マキの責めながらの演技指導だ。
見せ場でユキの痛恨のミス。
腰を浮かさず嫌がる方がベターなのか。だからといってやり直すわけにはいかない。
「えっいや、あ~」しどろもどろ。
マキは優しくスッツルゥシュとランジェリーを脱がした。
「何してるの?」
「だっ……て、恥ずかしい」ユキはスカートで股間を隠している。さき程のミスからこの行動では辻褄が合わない。ここはむしろマキの出方を待った方が良かったのか。ユキはまだまだ甘いのだろう。
マキは脱がせたランジェリーを愛おしそうに台に置いた。
「ねぇ、いつまでそうやってるつもり?」マキはユキの両膝の間に体を入れてグッと股を広げさせた。
「ねぇ、い・つ・ま・で、そうしてるの?」ユキは何も言わない。
マキはランジェリーを手に取りユキの何かを煽るようにヒラリヒラリと揺らす。
「穿きたいの?」
するとユキは命乞いをするかのようにマキを見つめ首を小さく横に振る。
「だったら……」その先は瞳が語ったようだ。
ユキはスカートを少しずつたくしあげていく。次第に白い太股が露わになっていき、股間に落ちていた影が移動していく。
「綺麗よ」
ユキの性器はピンクだった。正確には彼女の股間はハムでできていた。スーパーマーケットに売っている四角だったり丸だったりする縁が赤いハム。そういう風に見えるということではない。あのハムが性器のようになっているのだ。
マキがハムの縁に触れる。
「んっ」ユキの声が漏れ、何かを堪えるように下唇を噛む。マキの表情が緩む。
「ちゃんとスカート持っててね」
マキはハムの縁を辿るように刺激していく。楕円を描くような手の動きが次第にその面積を縮めていく。中心に辿り着いたその指は上下に走る窪みに沿って動く。
それから縁を指先でつまむ。
「このくらいの薄さがいいんでしょう?」マキが薄くハムを剥がしていく。
「んんんんっ!」
ユキの反応を窺いながらゆっくりゆっくり時間をかけ、剥がしていく。マキの手が動く度にユキの体はビクッビクビクッと震える。「んんっ!……っふぅ……ふぅ、あ~っふ、ふあ~はぁはぁ、んんっ!あああああっ!」薄切りハム完成。
マキはそれをユキに見せつけてから口に含む。ゆっくりわざと音を鳴らしながら咀嚼しゴキュルと飲み込み、んっと息を漏らす。僕の唾を飲み込む音がゴキュルと響く。まずいと思ったが、反応はない。二人には聞こえなかったようだ。例え見られていたとしても二人にとってはそういう要素が加わるだけなのかもしれない。
「あなたのって本当に素敵よ」ユキは何も言わない。
「続きはまた今夜ね」マキは屋台を出て行く。
残されたユキはランジェリーを穿きスカートの皺を伸ばす。その行動は日常に戻るために必要だからやったように見えた。
台に体重をかけ、物憂げにうなだれている。余韻と期待外れと期待が入り混じっているのかもしれない。その狭間。
次の瞬間、顔を上げ笑顔になりこちらを向いた。
「いらっしゃいませ~!」
僕は驚きのあまり体がドクッンと反応する。
気付くと周りはたくさんの人が行き来している。屋台の青ビニールはなくなっており、辺りには祭りの賑やかさが満ちていた。
僕は腕時計を確認する。
午後一時二十二分。馬鹿な!そんなに時間は経っていないはず。頭が収縮するように締めつけられる。混乱という隕石が僕の頭に落ちたのかもしれない。
「美味しいですよ~!焼きそばどうですか~」ユキが僕に向かって言う。
目の前の鉄板から熱気が立ち上っている。
「うんあぁ、一パックください」僕はなんとか不自然にならぬように振る舞えたと思う。
「あ~りがとうごさいます!少しお時間いただきます!出来上がるまでちょっと待ってくださいねっ!」明るい女の子。先程の出来事はまるでなかったかのようだ。それとも僕が本当にどうにかなってしまったのだろうか。
ユキは鉄板からの熱を受け汗をかいている。両手のコテがカチキンカチキンチャカチャッカと鳴る。
ユキの手首には先程まではなかったはずの糸が巻きつけられていて、その先は風船に繋がれている。何故作業の邪魔になるようなことをしているのだろうか。
僕は通りを行く人達に振り返る。風船を持っている人は何人もいる。全て青い風船だが祭り会場のどこかで配られている物だろう。
ユキの方へ向き直ろうとしたときに赤い風船が目に留まる。
その風船の先はお婆さんの手首に巻きつけられている。お婆さんの側で少年と少女が様々な屋台に目を輝かせている。
孫を連れて祭りに来たというありふれた光景だ。
ただ子供は風船を自分で持ちたがると思うのだが、少年はお婆さんに持ってもらっているのだろうか。
僕はユキの方を見る。ユキの風船も赤い。
「その風船ってどこかでもらったの?」
「えっ、風船がどうしました?」ユキは調理精度を損なわぬ程度の反応をみせた。
「風船ってどこかで配ってるの?」
「ん~わからないんですけど配ってるかもしれませんね~駅の辺りとか」後半の言葉と共にコテである方向をシュピンと示した。その先に駅があるのだろう。
「へぇ」
「風船が欲しいんですか?子供みたいですねっ!」
「その言葉は自分にも向けているのかい?」
ユキの動きが止まり、こちらを窺うような表情をした。
「まぁそうかもしれませんね~もう出来上がりま~す!」そう言ってパックに焼きそばを詰めていく。輪ゴムで留めて箸を挟む。
「お待たせしました~三百円で~す!」
僕は百円玉を三枚渡し、焼きそばを受け取る。「ありがとう」
そして僕は駅の方へ歩く。
駅は歩いて二、三分のところにあった。小さな駅だ。祭りでもなければ賑やかになることはないだろう。
風船を持つ人とはすれ違ったし今も視界の中に何人かはいたが風船を配っている人はいなかった。ここではないのかもしれない。
僕は適当に腰をかけて人の流れを見ながら焼きそばを食べた。
あのハムは入っていなかった。
どこかで聞いた話を自らの体験談のようにして語る。それを聞いて自らの体験談のようにして語る。それを聞いて自らの体験談のようにして語る。
そんな風にして広まったコピーのコピーのようにありふれた焼きそばを食べ終えた僕は箸とパックをごみ箱に捨て、歩き出す。
スーパーマーケットに客の流れがあるように祭りにもそれがあると先程気付いた。
僕はそれに逆らい進む。
その方が風船を配っている場所へ早く辿り着くような気がした。あとに予定を控えていて時間に制限があるわけではない。人の多い場所に長時間いるのは嫌だし、他人からすれば僕がそこにいることで人が多いことの一因になるし一員にもなるし、我慢できないわけじゃないけど、本当は我慢とかそういうことでもないのかもしれないけど、なんとなく理由が見つかったから結果を作り出しちゃったのかもしれないし、結果があってそれらしい理由を足しちゃってるのかもしれない。
つまりは行動に何かを含ませたいということで単なる行動が嫌いなのかもしれない。この思考も何かを含ませようと必死なのだ。思考ってたぶんそういうものだ。
僕は歩く。向かい合いながら歩いてくる高校生カップルの直進を軽やかにかわし、浴衣を凛と着こなすお姉さんに心の底で素敵だと言いながらすれ違い、大きなぬいぐるみを抱える父親らしき人を見て自分を重ねてみたがうまくいかず、男子中学生が八人程でワーワー言いながら正面に迫ってきたけど彼らは僕の手前で二手に分かれて両脇を過ぎてあっまたモーゼみたいだな、なんて思ったところにショートカットの女性が脇道から出てきてそれは今朝というかさっき見た女性でマキという女の子だった。
僕は後を追う、というより僕の前を歩いていく。マキの歩き方はしなやかで上体がブレない。スッスッスッ、スッスッスッと小気味良いリズムとうるさくない音。冷静沈着と書かれた棒を背中に差しているかのようだ。
マキも風船の先を手首に巻き付けている。青の風船。
風船を配っている場所はないけれど風船はたくさん浮いている。みんな自宅からつけてきているのだろうか?何か特典があるのだろうか?
マキは左右を窺うことなくただ歩き、人の合間をすり抜けていく。スッスンスン、スッスンスン、スッスンスン、スッスンスン。僕はその跡を追う。リッジッジッ、リッジッジッ、リッジッジッ、リッジッジッ。三連のリズムが跳ねる。
マキが足を止めたのはユキがいる焼きそば屋だった。僕はその一つ手前の焼鳥屋で足を止める。
「マキ先輩!」ユキの跳ねる声が聞こえる。
「いらっしゃい!」焼鳥屋の親父の地を這うような低い声が僕に向けられる。
僕は豚バラか鳥のもも肉で悩んでいるふりをしながら隣の店の様子に集中する。
「お客さんは多い?」
「お客さん何にするかい?」
「そうですね!忙しくて暑くて、でも楽しいです!」
「つくねをひとつと……」
「そう。よかったわ。私にもひとつちょうだい」
「兄さん軟骨とか今出来上がったばかりだよ!」
「は~い!少し待ってくださいね~」
「あと……」
「マキ先輩はこれから何かあるんですか?」
「豚バラをください」
「夕方からバーベキューをする予定よ。あなたも来ればいいわ」
「あいよ!ちょいと待ってな」
「わ~ありがとうございます!店が終わったら電話します!」
マキの方をチラッと見るとマキもこちらを見ており目が合う形になった。
何を考えているのかわからない。わからないということは想像できないということで想像できないということは情報が少ないということで情報が少ないということは知らないということ。僕はマキのこと知らないからわからないのだ。でも多くの情報を持っていてうまく想像できたとしても心情を確認する術がない。マキが感情や心情を口に出し、その言葉を僕が理解したところで言葉に含ませる想いが違えばやはりわからないということになるのかもしれない。そこに辿り着けるのは本人だけなんだろう。でも言葉と行動が一致する瞬間があればそれは限りなく重なりに近い。重なるということは触れているということで触れているということは繋がっているということで繋がっているということはそこからやりとりができるしそこからのやりとりは濃い。って僕はマキを知りたいのか?そもそも僕を見ていない気もする。僕を見ていると思い込んでいるんじゃないか?僕ではなく焼鳥にジーッと焼けるような熱視線を浴びせ焦がしてしまい穴を開けようとしてるんじゃないか?僕は僕の焼鳥に何をするんだってことより僕を見てなかったの?って勘違いを恥ずかしく思う。もしかしたら焼
鳥の先にいる親父が気になるのかもしれない、なんて他の男に対象を移したら悔しくなっちゃって僕ではないものを見ていたからがっかりするってどうなの?世界には僕ではないもののほうが圧倒的に多いけど、マキの視線の先にいたいって心の底かどこかで思ってんのか?いやいやマキの考えていることがわからないだけでそれが考えることのきっかけになったってだけで、って自分の思考に言い訳してるし、いや言い訳じゃなくて最初は確かにそうだった、あれ?最初は?今は?いやいやそういうんじゃないよ、なんで必死?認めたくないってことはもうここに恋心が芽生えたの?って誰が恋心だなんて言った?そんなこと聞かれもしないのに恋心ってキーワードが浮かんでくるってどうなの?そんなことないはず、はず?今まで幾度も間違ってきて自分をそこまで信頼できるのか?でも間違いだとか信頼だとか関係なくて人を好きになるって悪いことではないよね、なんてポジティブな極論で擁護し始めちゃったらもう認めたようなもんだって!えっそうなの?認めたらどうなるの?大して知らないのに?誰かを好きになりたいって気持ちを当てはめちゃった?好きな人が欲しいとかそんな役割で人を好きになるのって嫌だったはずなんだけど、ってもう好きってキーワードに抵抗もしてないしすんなり出てきちゃって思考を続ける限り決定的になりそうな予感、これもまた理由があるから結果を作り出そうとしてるのか、結果に理由を足してんのか、目が合っただけなのにそれに何かを含ませようとしてる思考のせい?親父まだかよ!?ほらほら焼鳥も恋も焦がれそうだよ!
「出来上がりましたっ!」そっちかよ!ユキの声でマキの視線が僕か焼鳥か焼鳥屋の親父から外れる。僕は焼きそばのパックを注意深く見るがやっぱりハムは入っていないようだった。
「じゃあまたあとで」マキは歩き出す。
「あ~い、お待ちどうさん!」
僕も代金と焼鳥を交換し歩き出すが、マキはもう見えなくなっていた。
僕はまた駅へ向かい、先程と同じ場所に腰を下ろす。
結局、風船を配っている人は見つからなかった。もう終わったのだろうか。
僕はつくねを食べ、豚バラを一口食べたところでビールが飲みたくなったが我慢することにした。酔って多くの人の中を歩くのは嫌な気がした。だけどもうすでに思考に酔っているかもしれない。うい~!
僕は食べ終えた焼鳥の串を少し離れた場所からごみ箱に向かいダーツの持ち方で投げる。
串は弧を描き縦向きに近い形でヒュストンッとごみ箱の中に消える。
槍投げの選手になった気分だ。でも考えてみると槍投げの選手はなるべく遠くに飛ばそうとするわけで狙った場所にコントロールするわけじゃない。この気分はバスケット選手のそれに近いのかもしれない。よくわからない。
それから思考の自由にさせる。
もし空から雨のように串が降ってくれば僕達は鉄の傘を差すようになるのだろうか?地表に届くまでに串はどれほどの速度になるだろう?途中で飛んでいる鳥を貫いてきたならばあとは焼くだけなんだけど小鳥の丸焼きを食べようと思うかはわからない。たぶん思わない。激しく串が降った翌日には地面に敷き詰められた串を利用して移動できるかもしれない。勢いをつけて串の上に飛び乗りトルルルル~と滑っていくのだ。串の方向を見極め、止まらないように移動できるルートを選び続ける能力があればきっと楽しいだろう。
僕はそんな想像をし、少し楽しくなって空を見上げたけれど空は今にもブルーって鳴きそうなくらい青くて串が降ってくる気配はない。こんなに青くては串は降らないんだろう。空はなぜ青いのか。そもそも空は青いのか?橙に見える時もあるし、灰色や紫、桃色や群青、黒く見えるときもある。今この瞬間だけを切り取り、空は青いと言ってしまっていいのか。いや少なくとも今は青い。青く見える。少なくとも僕には青く見える。少なくとも、少なくともって僕は最低のラインを追いかけている。何のために?何かのために。何かってわかんないけど。空は本当は透明であの青さは何かの青が映っているのかもしれない。その何かって何だろう?わからない。考え続けてるといつもわからないに辿り着く。わからないの先にはきっと答えがあるんだろうけど僕にはそこにいくまでの能力がまだないんだろう。
僕は立ち上がり歩き出す。目的はない。家に帰ろうにもここからは帰れない気がするし、帰ってやるべきことがあるわけじゃないし、ここに僕の役割があるような気がする。あるいは役割を作り出したいのかもしれない。
続く