お前さんは猫である、名前はまだない
お前さんは猫である、名前はまだない。
そしてお前さんはその両方を知らない。
更に、それらを知らないことで困った様子もない。
それもそうである。
お前さん自身が猫であるかどうかを必要としておらず、名前も必要としていないからだ。
それらを必要としているのは私である。
というのも先程、お前さんを呼び止めようと声をかけたら他の人間が振り返って睨んできたのだ。
人間は【お前さん】で振り返るのである。
睨みをきかせている人間を華麗にかわしお前さんの後を追って辿り着いた先でお前さんはチョコレイトの空箱を叩いていた。
ふむなるほど、毛色と相まっておる。
アーモンドと名付けてみようか。
アーモンドであれば、実際のアーモンドが振り返ることはないし、人間が振り返ることもないだろう。名案である。
『アーモンド』
白いポメラニアンが振り返った。
どうしてだ、君の名はココアだ。
私は知っているぞ。
君と紐で繋がっている人間がそう呼んでいたのを幾度も耳にしているのだ。
『ほら、ココア行くわよ』
ほら、白いポメラニアンにココアと名付けるセンスの人間が呼んでいるぞ。
あっ、また睨んできた。
ココア早く行け。
華麗にやり過ごす。
そういえば、お前さんは先程から一度も鳴いていないな。
そうだ、笑い泣きするほどの面白い話でもしてやろうか。
『吾輩は作家である、ペンネームがあるにも関わらず無名作家である』
どうだ?……そうか顔が痒いか。
雨が近い。
『ほら、アーモンド行こうか』
こちらを見ている。
が、そっぽを向いて歩き出した。
ふむ、ヘントウなし。
僕の言葉が君の人生に入り込んだなら評価してくれ