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真夜中のハンター

黒く光る窓の向こう、ぼんやりと浮かぶ婆がいる。うっかり雨戸を閉め忘れた日は、ひぃと喉から声が出る。

懐中電灯を掲げた母が、しきりに何かを探している。探して、箸でつまんでいる…てらてら光るナメクジを。


プランターに種を蒔き、芽吹いたばかりのみどりの若葉が、何者かに食われる事件が、我が家では頻発していた。現場に残るは、きらめくかすかな這いずり跡。…犯人は貴方ですね?(断定)

バジルの葉の一枚一枚に名前を書く訳にもいかないが、書いたところで読まれない。きゃつら時間無制限のバイキングとでも思っているのに違いない。ここのお客は、皿まで食らう勢いがある。

以前、双葉のうちにモグモグされて茎だけになったひまわり。新しい葉を出してくれないかと無茶ぶりして祈ったが、そのまま枯れていってしまった…。

根こそぎ採らずに少し残して育てると言うことを知らんのか。やはりナメクジとは相容れぬ。斯くして母は立ち上がった。最新兵器『バナナの皮』を携えて。


昨年までは『飲み残しのビール』だった。ヤマタノオロチの神話になぞらえて(?)お酒を入れた皿を置いておき、飲みに来たナメクジを一網打尽に捕まえる。

効果は絶大だが、これは始末が面倒臭い。何よりうちは下戸揃い。そうそう宴は開かれず、この為だけに酒を仕入れてくるのも釈然としないものがあった。

そこで今年はバナナなのだと言う。しかも皮で構わない。なんと経済的なのか。皮になっても芳しいバナナの匂いに集まったモノ達には、そのまま皮ごと彼方に旅立ってもらう。ただし、朝まで置いておくと食い逃げされるので、ビールと同じく夜の回収が必須である。

TVの園芸番組情報らしい。…古典ギャグ以外での、バナナの皮の使い道を初めて知った。

会場に向かう途中のお客さんも多いので、割り箸はやはり必要だったのだが。ナメクジ捕獲は格段に楽になったという。嬉しそうに「今日は大きいのが何匹、小さいのが何匹」と逐一報告してくる母。こちらまで少し嬉しくなってくるが、それいらない。

今日も食卓にバナナはのぼる。

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