『HAPPYEND』を観た。
雨だし、人間関係はままならないし、台湾への飛行機を取ろうとしたらパスポートの期限が切れていて、再発行のために証明写真を撮ったら思いのほか手こずって受付時間に間に合わず、何やってんだかと川崎を彷徨い、さすがに何かして帰りたいと思い映画館に寄った。
『HAPPYEND』はずっと観たいと思っていたけど、前情報は全く入れていなかった。「青春映画」と括られているのも、監督が坂本龍一の息子であることさえも知らなかった。
今年1良かった。いや、人生ベスト10に入るレベルで良かった。
こんなに誰かとぶつかったりバックグラウンドを話したり思い合ったりする高校生活なんてないっすよ
私は「青春映画」と呼ばれる映画があまり好きではありません。好きな作品は2,3個だと思う。でも、この映画が映し出す高校生活は心の底から羨ましかったし、戦う彼らに大きな拍手を送りたい。
彼らは自身のバックグラウンドについて語ったり、励まし合ったり、考えの違いでぶつかったり、一緒に戦ったり、恋したり、どつき合ったりしている。彼らのように素直に行動できたらどれだけ楽しかったんだろうとまぶしく眺めた。
私の高校生活は、怯えと恥と怠惰とイライラで埋め尽くされていた。
所謂「青春時代」というのはとうに過ぎてしまったし、戻ってくることはないんだけど、今、素直に生きて最善を尽くそうと本気で思った。
映画鑑賞後、あまりにも良すぎてすぐに誰かと共有したくて、後ろにいる女性に「めっちゃ良かったですね」と声をかけた。怪しい挙動にも関わらず笑顔で受け答えしてくれた。
彼女は美容師をしていて、職場の人間関係に悩まされていたのだが、この作品をみて「辞めよう」と思ったらしい。この作品は観た人に、自分の気持ちに素直に行動したいと思わせる力がある。今のところサンプル数は2だけど。
これって邦画なのかな?という質感
意識をせざるを得ない質感。冒頭、もしかしてここって台湾なのかな?と思った。
シナちゃんが中国語を話しているのも理由の一つだけど、真っ先に浮かんだのはエドワード・ヤンである。私の頭の中で錯覚を起こした。やっぱこういうの大好き。
もう一つの特徴として挙げられるのが、引きの画が多いことだ。そういう映画大好き。引きで見せることで、色んなバックグラウンドの子たちが共に学校で過ごしているのを当たり前の風景にしたかったと監督は言っていた。かっこいいよね。
https://ashita.biglobe.co.jp/entry/interview/soraneo
人はみんな変わっていくけど、皮1枚でつながるのも悪くないよね
幼稚園の頃から友達で、共通の趣味を持ち、将来はDJユニットを組む約束までしていたコウとユウタ。でも大切なものや考え方に相違が生まれ始める。いつか迎える分岐点に戸惑う二人の姿がしびれる。
何も考えずに楽しく生きることが第一優先のユウタに苛立ちを覚えるコウ、そのコウの気持ちに共感する子もいて、「でも、もう一緒にいられる時間も短いから」と大人な対応をする子もいて。
私は高校の親友と絶縁した。高校時代、彼女は勉強も部活も一生懸命で、転入してきた私を気にかけてくれ、初めて友達になった子だ。
「受験頑張って一緒に上京しようね!」と笑顔で言われた瞬間も覚えている。
二人とも東京の大学に入学し、別の大学ではあったが定期に会っていた。
やがて彼女はサークルクラッシャーになった。酒、酒、サークルクラッシュ、先輩、後輩、同級生の男をひっかきまわし、会うたびにこの男がどうだ、ああだ、と一方的にベラベラと話すようになった。
私は色々な人の惨憺たる姿を見て表のコミュニティで恋愛はしないようにしようと決めていたので、彼女の言動が全く理解できなかった。それ以上に、私の話はまったく聞かず自分の話ばかりする思いやりの欠如に苛立ちを感じていた。
高校時代の彼女はどこに行ってしまったのだろう?と思っていたけど、人は豹変する訳ではない。元々持っていた素質が放出したのかもしれないし、環境の変化によって徐々に変わったのかもしれない。もしくは何も変わっていないのかもしれない。
コウとユウタの姿を観て、ぼーっと彼女のことを思い出していた。
人が時を経て色んな考えに触れ変わっていくことは自然なことだ。でもそれによって別れやすれ違いは生じる。しっかりと決別する場合もあるし、たとえ接地面が少なくても、前とは関係性が違っても、また会うことができる。人と人の関係性の形が変わっていくこと、その様が本当に美しく描かれている。はやくもう1回観たい。
理不尽に絶望して死んでいく人たちとフミちゃん
3つ上の従妹は大学1年生の5月に大学を辞めた。高校生のときそのニュースを聞いてとても驚いた。せっかく受験勉強を頑張って入ったのになんで???と全くが理解できなかった。
いざ私が大学に入った時、ほぼ全てを理解した。こんな孤独なんかい。こんな不安なんかい。1年生の夏まで友達ができなかった。私は辞めようとは思わなかったけど、真っ暗闇を手探りで歩んでる気持ちだった。家に引きこもって授業を飛ばしまくっていた。
従妹は大学のシステム自体に疑問を持ったのと、学部にいる周りの人がくだらなすぎてこいつらと一緒にいたら腐ると思って辞めたと言っていた。わかりますよ。
従妹は大学を辞めた後、働き始め、高卒への風当たりの強さを体感した。やりたいことがあってもなかなかやらせてもらえない。
彼女は働きながら通信で大学に行き始めた。そしてその後自殺した。
なんか文字にすると軽く見えるから嫌だけど。いっぱい考えて行動して戦った結果だと思う。
フミにはそういう危うさを感じた。生き方はそれぞれだし、何も考えずに差別や戦争なんてないフリして自分のことだけ考えて生きている人が「生きてるだけで偉い」なんて言われて、そんなの賛同できない。そう思う気持ちは理解できる。フミもかっこよく戦っていた。
「何も考えてない人」や「楽して生活することしか考えてない人」って本当にそうなのかな?
コウはユウタにしきりに「自分の頭で考えろ」と言う。スピーカーで大きな音を出しながらクラブに運ぶ道中、警察に補導される。
ユウタはすぐに解放されて、永住ビザを携帯していなかったコウは家まで同行される。音を出したのは俺ですよとユウタは言い張る。警察は聞き入れない。
これが一度や二度じゃない。コウは日常的にこのような差別的な扱いを受ける。こんな光景を傍から見てたユウタも少しずつ変化していく。ユウタは本当に何も考えてなかったのか?
コウは母親に「楽して生きることしか考えてないくせに」と当たり散らす。楽して生きることの難しさ、大切さをまだコウは分からない。私も両親に同じようなことを言ったことがあるので、本当に自分を見ているようで居たたまれない。
天才的なラスト
多くは語りません。私は作中も要所要所で「良すぎる……」と頭を抱えてしまったのですが、極めつけはラストです。
「ああ、終わっちゃう、終わっちゃう、終わらないで……」と思っていたら天才的な終わり方をした。観てください。観たらわかります。
バナー画像引用元:https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/
おわり