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ピクサーの舞台裏|アニメ業界の資金繰りと収益戦略

「PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」は、ピクサー・アニメーション・スタジオの元最高財務責任者(CFO)ローレンス・レビーが綴った、類を見ない内部者の視点からのビジネス回顧録です。

本書は、世界中で愛されるアニメーション映画の誕生秘話と、それを支えた経営戦略を詳細に描き出し、読者をピクサーの興味深い内部世界へと誘います。

こんな人におすすめ:
・アニメーション業界や映画ビジネスに興味がある人
・スタートアップの経営や財務戦略に関心のある人
・ピクサーやスティーブ・ジョブズのファン
・クリエイティブ産業とビジネスの融合に興味がある人
・革新的な企業の成長プロセスを学びたい人

ピクサーアニメーション誕生の舞台裏

本書の最大の魅力は、ピクサーの代表作『トイ・ストーリー』誕生の舞台裏を、財務の視点から詳細に描いている点です。著者は、世界初の長編コンピューターアニメーション映画制作に挑んだピクサーの苦労と挑戦を生々しく伝えています。

「『トイ・ストーリー』の封切り予定日は1995年11月22日。ここから逆算する形で、音楽や歌の完成日、マーケティングキャンペーンの準備など、公開に必要なさまざまなことの締め切り日が決まる。しかも、前例がない。コンピューターアニメーション映画の制作は世界初でだれも経験がないし、いろいろと難しい課題が次から次へと襲ってくる。」

この一節からは、ピクサーが直面した未知の課題と、それを乗り越えようとする情熱が伝わってきます。さらに、著者は技術的な課題にも触れています。

「課題のひとつが、文字どおり観客が目にするものすべて、細かな点まで作り込まなければならない点だ。空について考えなくても実写の映画は作れる。屋外で撮影すれば、そのときの空が映るからだ。背景のビルや樹木も、あるがままでいい。樹木には葉もついているだろう。その葉っぱを揺らす風も吹いていたりするだろう。だから、実写なら、背景に映り込む木の葉っぱについてあれこれ考える必要はない。だがアニメーションの世界には、空も樹木も葉も、もちろん、葉っぱを揺らすそよ風もない。なにも描かれていないコンピューターのスクリーンがあるだけだ。」

この記述は、コンピューターアニメーション制作の複雑さと、ピクサーが直面した創造的な課題を鮮明に描き出しています。

スティーブジョブズとの交渉術

本書のもう一つの見どころは、著者とスティーブ・ジョブズとのやり取りです。ジョブズの情熱的な経営スタイルと、それを冷静にサポートする著者の姿勢が浮き彫りになっています:

「スティーブとは、いつもだいたいこんな感じのやりとりだった。大きな問題でも小さな問題でも、スティーブは激しい議論を展開する。議論は同意できる場合もあれば同意できない場合もある。同意できない場合、私は、彼が激しいから譲歩するのではなく、あくまで事態の打開に資するから譲歩という姿勢で臨む。スティーブも、自分の考えを押しつけるより、議論で互いに納得できる結論を出し、ともに歩むほうを好んだ。」

この描写は、ジョブズの一般的なイメージとは異なる側面を示しており、彼の経営スタイルの奥深さを感じさせます。

ハリウッド映画ビジネスの内幕

本書は、ハリウッドの映画ビジネスの複雑さも明らかにしています。ディズニーとの契約交渉や、映画の収益構造の解明など、普段は表に出ない話題が多く取り上げられています:

「映画はどこから収益を得るもので、その収益はだれの懐に入るのか、だ。言い換えれば、映画館で売られたチケットとポップコーンの代金はだれの収入なのか、だ。映画館か? 配給会社か? 制作会社か? こんな基本的なこともわからないのでは、最高財務責任者を名乗る資格などない。」

著者のこの素直な疑問と、それを解決しようとする姿勢は、読者を映画ビジネスの奥深い世界へと誘います。さらに、ディズニーとの契約についての記述も興味深いものです:

「契約書は12ページ半とごく短かった。これほどややこしくない事案でも契約書は70ページを数えたりするというのに。ただ、短いからわかりやすいとはかぎらない。実際、意味不明なハリウッドの業界用語が並んでいてわけがわからなかった。」

この一節は、ハリウッドのビジネス慣行の複雑さと、新参者であるピクサーが直面した課題を鮮明に描き出しています。

財務戦略とクリエイティブの融合

本書の最大の魅力は、クリエイティブな側面と財務的な側面の両方から、ピクサーの成功を描いている点です。著者は、芸術的な創造性と健全な財務管理のバランスをどのように取ったかを詳細に説明しています:

「ピクサーにおける事業や戦略は、彼が選んだものでも私が選んだものでもなく、こういうやり方で得た結果だと思うと、何年もあとにスティーブからも言われている。」

この記述は、ピクサーの成功が単なる運や個人の才能だけでなく、慎重な戦略と協力的なチームワークの結果であることを示しています。

結論:アニメーション革命の舞台裏

「PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」は、世界的に成功したアニメーション企業の内側を、財務の視点から描いた貴重な一冊です。

本書を通じて、ピクサーの成功の裏には、クリエイティブな才能だけでなく、緻密な経営戦略と財務管理があったことがよくわかります。

著者の誠実な語り口と、複雑な問題に対する率直なアプローチは、読者を惹きつけ、ピクサーの成功の裏にある真の要因を理解する手助けとなります。アニメーション好きはもちろん、ビジネスに関心のある方、起業を目指す方、そして創造的な仕事と経営の両立に悩む方にとって、本書は貴重な洞察と教訓を提供してくれるでしょう。

ピクサーの誕生から成功までの軌跡を、財務の視点から描いたこの本は、エンターテインメント業界の内幕を知りたい人、革新的な企業の成長プロセスを学びたい人にとって、必読の一冊と言えるでしょう。


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