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「パンケーキ症候群」

皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、アレルギー担当の竹村豊です。
 
今回は“教えて!近大先生〜アレルギー編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問です。

「パンケーキ症候群ってどういう病気ですか?」

早速ですが、結論です。

「パンケーキ症候群とは、常温長期保存したミックス粉(味つき小麦粉)に増えたダニを食べることにより起こるアレルギー症状です。」

となります。
この結論にいたった理由について3つにわけてお話しします。

1. パンケーキ症候群とは、食品に含まれるダニを食べることにより起こる全身性のアレルギー症状である。

2. 日本では主に小麦が原因となり、小麦アレルギーでないことが示され、食品中にダニが存在したら診断できる。

3. ミックス粉はダニが増えやすいので、開封したら短い期間で使い切るか、冷蔵庫内で保存することで予防する。

小麦粉に含まれるダニ

1. パンケーキ症候群とは、食品に含まれるダニを食べることにより起こる全身性のアレルギー症状である。

パンケーキ症候群は、経口ダニアナフィラキシー(Oral mite anaphylaxis, OMA)と呼ばれるアレルギー反応です[1]。皮膚が赤く腫れたり、咳がでて息が苦しくなったり、血圧が下がって意識レベルが低下したりします。この様な激しいアレルギー反応のことをアナフィラキシーといい、時に死に至ることもあります。なお、アナフィラキシーについては、我々のInstagram医療用語解説で簡潔に解説していますので、よろしければアカウントをフォローしてご覧ください。
このアレルギー反応は、ダニが含まれる食品(特に小麦粉製品)を摂取することで引き起こされます。パンケーキ症候群という名前からおわかりいただけるかと思いますが、日本人だけに起こるアレルギーではありません。古くは1963年に牛乳と小麦で作られた食品に含まれたと思われる大量のダニによって死亡して剖検された例が報告されています[2]。その後、1993年にErbenらによって、経口ダニアナフィラキシーとしてはじめて報告されました[3]。海外ではパンケーキが原因食品として多かったため、2013年にBorgesらによってパンケーキ症候群という用語が提唱され、一般に認知が進みました[1]。l

2. 日本では主に小麦が原因となり、小麦アレルギーでないことが示され、食品中にダニが存在したら診断できる。

原因食品は小麦が多いのですが、他にもチーズ、ハムなどが原因で発症する事例も世界的に報告されています。
日本ではお好み焼きやたこ焼き摂取後に発症する口腔ダニアナフィラキシーの報告が多いです[4]。このブログの筆者が所属する病院は大阪にあり、いわゆる「粉もん文化」がある地域なので、他の地域に比べるとより注意が必要かもしれません。ただし、ダニの繁殖には少なくとも数週間を要するため、原材料を仕入れてからすぐに使用する外食産業では、この症状がでることはないと言われています[5]。このブログをお読みの方で、関西ではない地域にお住まいの方が観光で来られた際には安心して「粉もん」をお召し上がりください!

粉もんの代表 たこ焼き

日本ではほとんど小麦製品摂取後に発症していますので、本症を疑う状況がおこった場合には、小麦による食物アレルギーも検討する必要があります。これは、それまでの小麦摂取歴に加え、アレルギー検査(主に血液検査)などで調べることができます。小麦のアレルギーが否定された場合、可能であれば原因として疑われた粉の中にダニがいることが証明できればパンケーキ症候群と診断されます。

3. ミックス粉はダニが増えやすいので、開封したら短い期間で使い切るか、冷蔵庫内で保存することで予防する。

パンケーキ症候群を予防するには、当然ながら食品中にダニを増やさないことが大切です。具体的には、小麦粉を開封したら長期間常温で保存しないことです。家庭では1回で使い切るか、使いきればければ冷蔵庫の中で保存すると良いでしょう。

ミックス粉で増えるダニ

日本ではパンケーキ症候群を発症する食品の多くがミックス粉(味つき小麦粉)、すなわちお好み焼きミックス、たこ焼きミックスです。ミックス粉の方が、小麦粉単独よりもダニの数やダニのアレルゲンの数が早く増加することがわかっています[6]。増加には室内の温度と湿度が関係し、高温多湿の日本はダニが増加するには好環境です。ミックス粉の方が小麦粉単独に比べてアミノ酸の量が多く、ダニの栄養素になりやすいようです[7]。ミックス粉は美味しくて便利な食品なので、ダニが増える特徴を知った上で活用したいですね!なお、パンケーキ症候群を発症する方の多くはダニアレルギーです。現代の日本では、成人の4人に1人がダニアレルギーと言われます。ということは、パンケーキ症候群は特異なアレルギー体質の方だけが発症する病気とは言えません。パンケーキ症候群は、誰にでも起こり得る可能性があることを念頭におく必要があるでしょう。

ところで「パンケーキ症候群」というキャッチーな名前は、覚えやすく認知を高めるのには有用ですが、パンケーキだけが原因となる病気と勘違いする方もいらっしゃいます。あくまでダニが原因であることを覚えておく必要があります。また「パンケーキみたいな洒落たもん、食べへんわ!」と言う(筆者のような)大阪の中年男性には「粉もんダニアレルギー」の様な病名の方が、心に響くかもしれません。笑
 
ここまでのお話で、パンケーキ症候群ってどう言う病気ですか?の回答が「パンケーキ症候群とは、常温長期保存したミックス粉(味つき小麦粉)に増えたダニを食べることにより起こるアレルギー症状です。」とお答えした理由がご理解いただけたでしょうか。
この様な話を直接聞きたい、または実際にパンケーキ症候群の疑いがある、すでに発症していて困っている、という方は近畿大学病院小児科を受診してください。また、受診の希望はないけど、ご質問やご意見などがあれば、このブログにコメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
 
近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。

竹村 豊

参考文献:
[1] Sanchez-Borges M et al. J Allergy Clin Immunol. 2013, 31-35
[2] Herranz G. Rev Med Univ Navarra 1963, 137-149
[3] Erben AM et al. J Allergy Clin Immunol. 1993, 846-849
[4] Takahashi K et al. Allergol Int. 2014, 51-56
[5] 福富友馬、アレルギー 2020、932-933
[6] 小島薫他、日本職業・環境アレルギー学会雑誌 2019、47-56
[7] 稲葉弥寿子他、日本皮膚科学会雑誌 2010、1893-1900



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