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皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は竹村豊です。
今回は“教えて!近大先生〜日常生活編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。
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今回のご質問です。
「テレビで夏は食中毒に注意!と注意喚起をするニュースを見ました。何に注意したら良いのでしょうか?」
早速ですが、回答です。
「夏は高温多湿な環境が細菌の繁殖を助長し、食中毒が多発します。適切な温度での食材の管理、調理時の加熱、手洗いなどに注意しましょう。」
となります。
この回答にいたった理由について3つにわけてお話しします。
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1. 食中毒は1年に1万人くらい発症し、家庭よりも飲食店での発生が多い
2. 食材に存在するバイ菌が体にはいりおなかの症状を引き起こす
3. 適切な温度での食材の管理、調理時の加熱、手洗いなどの対策で予防できる
1. 食中毒は1年に1万人くらい発症し、家庭よりも飲食店での発生が多い
食中毒は、バイ菌などが食品を通じて体内に入ることで引き起こされる病気です。主におなかの症状(嘔吐、下痢、腹痛)を引き起こします。発熱することも多いです。
以下は、厚生労働省が発表した最新の食中毒発生状況です。
発生状況(2022年):
⚫️ 件数: 962件
⚫️ 患者数: 6,856人
⚫️ 死亡者数: 5人
過去20年間の推移は以下の通りです。
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全体の発生数は20年間かけて減少している様に見えますね。しかし、令和2年くらいからの減少は、コロナ禍の影響かもしれません。なぜなら、発生場所の4割は飲食店だからです。
発生場所:
⚫️ 飲食店: 全体の39.5%
⚫️ 家庭: 約13.5%
こども達の風邪ひきもコロナ禍には減っていましたが、今年は概ね以前と同じくらいに戻っています。こども達の活動も以前と概ね同じになったので、食中毒も増えてくるかもしれませんね。
2.食材に存在するバイ菌が体にはいりおなかの症状を引き起こす
はじめにもお話しましたが、食中毒はいわゆる「バイ菌」などが食材を通じて体に入ることで引き起こされます。バイ菌は、細菌やウイルスに分かれます。その他、寄生虫や自然毒などが原因となることもあります。
主な原因物質:
⚫️細菌: カンピロバクター(最も多い)、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、
腸管出血性大腸菌(O157)、セレウス菌、ウェルシュ菌、
⚫️ウイルス: ノロウイルス(冬季に多い)、ロタウイルス
⚫️自然毒: 植物性自然毒、動物性自然毒
⚫️その他: 化学物質、寄生虫
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食中毒は季節によって原因が異なります。特に夏場は高温多湿な環境が細菌の繁殖を助長し、食中毒が多発します。また夏は外食やバーベキューなどで屋外での調理や食事をすることが増えます。こういった環境では衛生管理が難しく、食中毒のリスクが高まります。夏に増える食中毒の主な原因には、カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌(O157)などがあります。以下がそれぞれの特徴です。
⚫️ カンピロバクター:食後1~7日で、おなかの症状や、筋肉痛などが出はじめます。下痢に血が混じることもあります。生や加熱不足の肉(特に鶏肉)が原因になります。また、この菌に感染した数週間後に、手足や顔面のまひなどを起こす「ギランバレー症候群」という病気を発症することもあります。
⚫️ サルモネラ:食後6~48時間で、おなかの症状や発熱などが出はじめます。加熱不足の卵・肉・魚料理などが原因になります。
⚫️ 腸管出血性大腸菌(O157):食後3~8日で、激しい腹痛、下痢、下血などをおこします。加熱不足の肉、殺菌されてない井戸水、生野菜が原因になります。この食中毒では、溶血性尿毒症症候群(HUS)という死に至る可能性のある重篤な状態になることがあります。HUSは、貧血、腎臓の動きが悪くなる、出血を止める血小板という成分が減る、けいれんするなどの症状を引き起こします。
いずれの食中毒も、子どもは、症状が重くなることがあるため、注意したいですね。夏場の注意点は以下の通りです。
夏は楽しいイベントが多数あり、楽しい思い出がたくさんできる季節です。食中毒でいやな思い出にならない様にしたいですね。
3.適切な温度での食材の管理、調理時の加熱、手洗いなどの対策で予防できる
ここまで、食中毒の発生状況や原因についてお話しました。食事に関わるイベントがいやな思い出にならない様にするためにはどうしたら良いのでしょうか。食中毒は適切な予防策を講じることで防ぐことができます。以下に予防の基本と具体的な対策をまとめました。
基本の予防策:
⚫️ 手洗いの徹底:調理前、食事前、トイレの後には必ず手を洗いましょう。石けんを使い、指の間や爪の間までしっかり洗うことが大切です。
⚫️ 生食を避ける:生肉、生魚、生卵は食中毒の原因となりやすいので、特に小さな子どもには生食を避け、しっかり加熱して食べさせましょう。
⚫️ 食材の管理: 生肉や生魚は他の食材と分けて保存し、調理の際も専用のまな板や包丁を使用しましょう。食材は新鮮なうちに使い切ることが重要です。
具体的な対策:
1. 食材の管理を徹底する
食材は冷蔵庫で適切に保存し、特に生鮮食品はすぐに調理するようにしましょう。持ち運びの際はクーラーボックスを利用し、保冷剤を十分に使用して温度管理を行います。
2. 調理前の準備を入念に行う
調理器具や手をしっかりと洗い、清潔な状態で調理を開始します。特に生肉や生魚を扱った後は、器具や手を徹底的に洗浄・消毒することが大切です。
3. 十分な加熱を行う
肉や魚は中心部までしっかりと加熱します。生焼けの部分がないように確認しましょう。
4. すぐに冷却する
調理後の食品は室温で放置せず、すぐに冷蔵庫に入れて冷やします。特に余った料理は、再加熱しても十分に温まるようにします。
5. 飲料水の管理
夏場は水分補給が大切ですが、飲料水も清潔に保つことが必要です。特に屋外では、衛生状態の良い水を使用し、飲み残しを長時間放置しないようにしましょう。
6. 食事前の手洗い
食事前には必ず手を洗いましょう。特に外出先や屋外での食事では、手洗い用のウェットティッシュやアルコール消毒液を持参すると便利です。
食中毒は、ちょっとした注意で予防できる病気です。特に夏場は食材の取り扱いに細心の注意を払い、清潔を保つことが大切です。日常の習慣として手洗いや適切な保存方法を徹底し、こども達の健康を守りましょう。もし、食中毒の症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してくださいね。
ここまでのお話で、「テレビで夏は食中毒に注意!と注意喚起をするニュースを見ました。何に注意したら良いのでしょうか?」の回答が「夏は高温多湿な環境が細菌の繁殖を助長し、食中毒が多発します。適切な温度での食材の管理、調理時の加熱、手洗いなどに注意しましょう。」となった理由をご理解いただけたでしょうか。
これからも我々は「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに「すくナビ」を通じて皆さんのお役に立つ情報を発信していきます。ご質問やご意見があれば、コメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になりますので、どうぞよろしくお願いします。
竹村 豊
参考資料:
⚫️ 厚生労働省「2022年 食中毒発生状況」
⚫️ 政府広報オンライン「食中毒予防の原則と6つのポイント」
⚫️ 農林水産省「食中毒をおこす細菌・ウイルス・寄生虫図鑑」