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アニメのモンタージュ。映画『ルックバック』感想(ネタバレなし)

巧みなモンタージュ技法


映画『ロッキー』のトレーニングシーンが好きだ。
無名のボクサーだったロッキーが幸運にも世界チャンピオンと対戦することになり、猛特訓をするのだが、映画では練習風景を短いシーンを重ねながら描写していく。その一連のシーンではかの有名な「ロッキーのテーマ」が流れ、映画を観ている我々はひたむきに練習するロッキーに夢中になる。

こうしたシーンの積み重ねを映画の手法でモンタージュと呼ぶが、先日アマプラで配信されたアニメ映画『ルックバック』でも多用されている。というか原作の藤本タツキさんの漫画がその手法を大々的に取り入れたと言ってもよい。

例えば、小学校内で4コマ漫画を連載していた藤野が不登校で引きこもりだった京本の絵を見て、自分との画力の差に愕然とし、絵の勉強を始めるシークエンスでモンタージュが使われている。移り行く季節の中、デッサン本がどんどん増えていく部屋の中で黙々と絵を描く藤野の後ろ姿から我々は藤野に感情移入していく。映画を観た人によってはかつて打ち込んだ部活だったり、受験勉強だったり、自分の趣味だったりと様々だろう。

このシークエンス以外にも、藤野と京本が出会ってからの数年間の出来事を走馬灯のようにフラッシュバックする演出など、この映画ではモンタージュが巧みに使われている。この手法だけ見ても『ルックバック』は傑作であると断言できる。

努力が報われるとは限らない


なるべくネタバレなしで『ルックバック』の良かったところを一つだけ挙げてみる。さきほど紹介したように小学校時代の大半を漫画に捧げた藤野だったが、画力は少し良くなった程度で京本には遠く及ばない。いくら努力しても追いつけない天才がいることに気づいた藤野は漫画を、絵を描くのをやめてしまう。ここがこの映画の一つの肝である。我々一般人はどんなに好きなことであってもそれを生業にしていくことはできない。上を見上げれば自分より上手い人は5万といる。誰でも一度は挫折したことがあるだろう。だからこそ、漫画を諦める藤野に共感するとともに、あっさり諦めないでほしいという我々の願望がないまぜに押し寄せてくる。

最後に


二人のクリエイターの半生を描いた『ルックバック』は60分という短い映画ではあるが、公開当時映画館で観ていたら僕は間違いなくスキップして帰路していただろう。雨の中不格好なスキップをしていた藤野と同じように。

『ルックバック』の内容を知らない人はネタバレをできるだけ避けて鑑賞することをお勧めします。原作読んだ方もアニメ映画としての表現を味わえるでしょう。

おわり。

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