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彼を思い出すと狩野英孝さんが頭に浮かぶ話

工場勤めしていた頃の思い出をひとつ。


当時、
周囲は既婚女性のパートさんが多く、
わたしみたいな独身女が入ってきた事で
親会社の独身男性に幾度か
お声をかけていただく機会に恵まれたのに、
K-POPに夢中だったため、
それを無碍に扱ってしまったのは、
痛恨の極みだ。
ブーメランみたいに
自分に返ってきてしまった。



ある日、
あまり見かけない背の高い男性が
食堂にいるのが目に入った。

女性上司に聞くと、
「別部署から最近異動で来たみたいよ。」
とのこと。

彼は何だかもの憂げで
明るい色の前髪をサラリとさせ、
少し面長で目つきはキリリと切れ長。
『バチコーーーン!!』
とハマったわたし。
まるで当時のK-POPアイドルの
ひとりに似てみえたのだ。


同僚に
「あの人かっこよくない?」と
浮かれ調子で言うと
「え、あの人???」
という反応。
あれれ?
この子のタイプではないのかな?

別の同僚も同じ反応をした。
「みーみは好きな感じなのかもね。」
「狩野英孝さんに似てるね。」
???
んお?


狩野英孝さん…。
おもしろいよね。
めっちゃ笑わせてもらってるけど、
見た目はタイプかは考えたことがなかった。
「ボク、イケメン!オケーイ!!」
て言ってるもんね。


そんなこんなしてると
なぜか男性上司の耳に入り、
「メール交換しといてあげたから。」
と突然言われた。
「ええっ!!」
となった。
それ、わたしに聞いてからしない?

一方的にキャッキャ言って
ただ楽しかったはずの
『見てるだけお気に入りな彼』
に向かって
強制的に一歩前進されてしまったのだ。



しばらくすると、
本当に彼からメールが届いた。
『○○といいます。よろしくお願いします。
今度直接お話ししましょう。』
というような内容だった。
嬉しかったので、
即お返事をした。
『よろしくお願いします。』
わたしは浮かれていた。


その会社の駐車場は
少しはなれた所にあって
車を停めてから10分ほど歩いて
やっと職場に着いた。
わたしも彼も車通勤だった。

10分歩く通勤時間が
わたしたちが話をする時間となった。

最初は話すだけでも緊張した。
昨日どれくらい残業あったとか、
通勤の道混んでたとか、
休みの日なにしてるのとか、
ほんとに何気ない会話を
重ねて重ねて
やっと緊張が解けた。

緊張しなくなってきた頃、
彼が尋ねてきた。


「そういえばきいてなかったけど、何歳?」
「31だよ。」
「…。」


空気が凍りついたのを感じた。

え?
わたしなにかいけないこと言った?

「けっこう… (歳)いってんスね。」
彼は複雑そうな表情になり、
突然敬語になった。
ぐさりと言葉が刺さった音がした。


彼はそれっきり
メールをくれなくなった。
朝一緒に歩く事もなくなった。


あからさまに途切れたので、
戸惑ったわたしは
『食事にいきませんか?』
とメールを送ったが、
返信はいっこうに来ず、
ずいぶん経ってから
『スノボシーズンは土日全く空いてませんから。』
と苦し紛れな断りメールが届いた。


後日、
いらんことに勝手に加担した
男性上司が
「もうあのこ諦めとき。」
と言った。

なんか知らない間に
わたしはフラレたらしい。

わたしが
『若者にしつこく言い寄ったオバサン』
という感じに
誰かにより言いふらされ周知されていた。
会社に行くのがイヤになった。
心底心外だった。


あとになって分かったのは、
彼は9歳年下だったこと。
わたしを若く勘違いしていたらしく、
本当の年齢をきいて怖気づいたようだ。
わたしも大人っぽく見えた彼を
もう少し近い年齢だと思っていたけれど、
歳が離れていたら
そんなにいけなかったのかな?

まぁ、
年齢だけで人を判別する人との
未来なんかないので
これで良かったのだけれど。




あれからずいぶん経つ。

あんなにかっこいいと思っていたはずの
彼の顔を思い出だそうとしても
全く思い出せない。

そのかわりに
パッと思い浮かぶのは
狩野英孝さん。

残念な思い出のはずなのに
思わずフフッと笑えてきてしまう。

おもしろいってすてきな事ね。
笑い飛ばしてしまおう。
「ボク、イケメン!オケーイ!!」



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