信州新町美術館(長野・信州新町)
◼️長野の山村にあるミュゼ
レンタカーを降りると、長野の冬の山間部の空気がありました。遥か高くに「北アルプス」が雪風に煙っていますが、素朴で厳しそうな佇まいは「飛騨山脈」の方がしっくりくるようでした。
長野駅から車で40分。
「俺はなぜ、雪の残る見知らぬ山道を、借りた車で危なっかしく走っているんだ…」と、臆病な私は何度か引き返そうとしました。慣れない信号待ちで、後ろからクラクションを鳴らされたり。引き返して、大人しく長野県立美術館を訪おうと、Uターンのためにコメリの駐車場に入ったり。
しかし結局、私の運転するホンダのフィットは、右手を流れる犀川の深い翠色の美しさに導かれるように、おそるおそる、山奥へと向かう国道19号を進んでいったのでした。
(帰りの電車の時間を、絶えず気にしながら…)
◼️芸術と自然との対話
美術館の、レンガ造りの建物。
近くにも山。遠くにも山。そして、犀川の流れ。
「芸術と自然との対話」。
運転中に心の中で何度も反芻した、この美術館のモットーが、あらためて思い出されました。
受付への薄暗い廊下。靴音も心地よく響きます。
チケットを買い、いざ、展示室へ。
◼️企画展「所蔵作品展―秋から冬への風景」
小島真佐吉『釧路・霧・牛』
巨大なキャンバスの上半分に大胆に、夢幻的に配された、可愛らしく立つ牛たち。
下半分は、おそらく釧路の街。その街の縮尺からすれば、牛たちは途方もなく巨大な存在です。それは、夢の牛たち。
おそらくはこの画家が、愛してやまなかった牛たち。
パステル調のファンシーな色彩で、ドリーミーな迫力に満ちた一枚。
向井潤吉『岳への径』、不破章『南牧』ほか、自然の美しさ、自然の中にある人の営みの素朴な美しさが描写された良品が目白押しでした。
◼️企画展「当館ゆかりの作家たち展」
栗原信『TAORMINA』
イタリアのシチリア島にあるタオルミナの遺跡を描いた一枚。
赤城泰舒『ギター』、栗原信『水路のある風景』ほか、味わいある作品に出会えました。
◼️再訪を心より願って
帰り際、年配のスタッフの方に声をかけられました。新年の、仕事始めも間もない平日の昼間に、新町住民でもない人間が、こちらの美術館を訪ねることは珍しかったのかもしれません。
私は、出張で長野を訪れ、長野駅からレンタカーでやってきたこと、自分は一介の美術ファンであり、こちらの美術館のホームページを見てとても気になったこと、そして所蔵作品のすばらしさ、初めて知った小島真佐吉の絵を見ての感動を伝えました。
「当館の所蔵品は、買い上げのものは一点もないんですよ。全て、寄贈された作品です」
そして、玄関まで送ってくださり、
「あれが、槍ヶ岳」
雪風に霞む水色の空の一点を指さしてお教えくださいました。
浅ましく時間を気にして、慌ただしく帰り道についてしまったことを悔やんでいます。2階のソファに座り、じっくりと、美術館の眼下にあって、私を導いてくれた琅鶴湖(ろうかくこ)のビリジアンを、心ゆくまで眺めたかった…。
恋い焦がれるように再訪したいと望みながら、ついに立秋も過ぎてしまいました…。
思い出深い、私にとって大切なミュゼです。
(2023年1月訪問)
◼️信州新町美術館・情報
〒381-2404
長野県長野市信州新町上条88-3
電話 026-262-3500
Fax 026-262-5181
入館料 大人500円
高校生300円
小中生200円(土曜日は小中生無料)
開館時間 9:00~16:30
休館日 月曜日・休祝日の翌日・その他
アクセス 長野駅より車かバスで40分(バス運賃は片道1200円)
画家・有島生馬(小説家・有島武郎の弟)の記念館が併設されており、生馬翁の洋画や書・生い立ちなどについて触れられます。建物は、生馬翁が生前に暮らした鎌倉の洋館を移築したもの。いかにも大正ロマン、といった情緒が感じられます。
また、「信州新町化石博物館」も併設されています。(が、私は急いでいて、こちらは訪問できませんでした。)
館内に喫茶コーナーもあるそうですが、こちらも時間がなく…。
新町は、ジンギスカンが有名らしいので、こちらも次回、ぜひとも…。