三甲美術館(岐阜市)
■昭和の路地の坂を上って
岐阜市の市街地を抜け、頂に岐阜城を載せた金華山のダイナミックな景観を左手に見ながら、片側3車線の国道156号線をなめらかに走行していくと、道はハイウェイとなり、岩肌も見えるような人を寄せ付けない山が急に立ち現れてきます。長いトンネルを抜ければ、四方八方を緑に囲まれた未開発の山中。つい1分前までの都市性とのギャップに、少し驚いてしまいます。さらに行くと、いかにも一昔前の地方都市といった感じの、交通量が激しく、風雪を感じる道路に様変わりします。ナビが指し示す地点よりもかなり手前の、近道になりそうな交差点で右折し、昭和の名残を感じる狭い路地へ。地元住民の方たちをよけつつ、はらはらしながら徐行し、急な坂を上っていくと、丘の上に建つ、ひっそりとしたたたずまいの美術館に辿り着きました。(ナビ通りに行けばもっと楽だったことが、帰りに判明しました。)
■実業家のコレクションとしての美術館
前庭に近代日本の芸術家の銅像が並び、いい雰囲気です。
入ると、上品な空気。窓口というのはなく(もとは保養施設だったそうです)、受付の女性がひとり、手提げ金庫を置いたデスクに座っています。入館料は、抹茶とお菓子のもてなし付きで1200円。JAFの割引が効いて1000円。
スリッパに履きかえて、展示室へ。
と、その手前に、この美術館の開設者であり、株式会社三甲を興した実業家、丹羽治助翁の銅像が、その遺訓である「三法」(仏法…おかげさまでと感謝せよ/商法…損して得を取れ/剣法…肉を斬らせて骨を断て)とともに出迎えてくれます。さらに、二代目会長の後藤甲子男氏の銅像も、「闘魂…断固としてやり抜く根性を養え/体力…強健な肉体を保持せよ/能力…勉強で能力を涵養せよ」という三箇条とともに。美術に浸る前に、商家から発展した骨太の企業倫理でウォーミングアップ。思わず次の銅像も探してしまいましたが、この二人分だけでした。休暇をもらって平日の昼間に足を運んでいる私にとって、刺激的な喝になりました。
■企画展「フォーヴィスム ~野獣派と呼ばれた画家たち~」
出かける前は、ブラマンクが一番の目当てでしたが、今回、一番感動した絵は野口彌太郎『サンタマリア・デラ・サルーテ』でした。ヴェネチアにあるサンタマリア・デッラ・サルーテ大聖堂と、その上に広がる夕焼け空、それらを映す海とが後期印象派的に描出された一枚。野口画伯一流の水彩的な色彩感覚が、味わいのある太筆の線で、見事に実を結んでいます。
寸法は小さめですが、色が多重に響き会うような祝祭的表現。空のオレンジ、そしてイエローが印象的なのに加え、画伯の得意技である刷毛を引いたようなライトパープルが、ここでも効果的に使われています。
◼️その他、感動したものから順番に。(たくさんありました)
熊谷守一『裸婦』…エモーショナルにうねるモザイクの、すばらしい抽象性。虫や亀ばかりでなく、女性も描いていたのですね。そして、情熱がある。枯れてばかりではない。(企画展)
原精一『緑衣少女』…濃い目の色彩の妙。(企画展)
ドガ『三人の踊子』…シンプルな画面構成。余白の美。(常設)
児島善三郎『箱根風景』…円形を用いてシンプルに描かれた木々の面白さ。(企画展)
野間仁根『瀬戸内海仲渡島付近』…迫力あり! の風景画。初めて知った画家でしたので、名前を検索すると、可愛らしい船の浮かぶ瀬戸内海が、絵本のような無邪気な色遣いで描かれた、同じモチーフの絵がたくさん出てきました。この画家の必殺技なのかな……。(常設)
熊谷守一『亀』…達人。(常設)
中川紀元『雪旦 駒ヶ岳』(企画展)
ヴラマンク『積み藁のある風景』…この画家の必殺技が、しっかりと炸裂していました。(企画展・タイトル画像)
梅原龍三郎『ルノワールのブロンズとばら』…構図と色彩の、面白味たっぷりの調和。(企画展)
カリエール『人物(愛)』…ロマンティック。(常設)
以上、見所満載の美術館で、おもてなしの抹茶を飲み干した後、深い満足のため息を漏らしていました。時間をかけて堪能したあまり、昼に「丸デブ総本店」の中華そばを食べるはずが、すでに長蛇の列をなしており、諦めました。
常設展示には、立派なルノワールとシャガールも掛かっていましたよ。
■三甲美術館・情報
〒502-0071 岐阜県岐阜市長良福土山3535
TEL:058-295-3535 / FAX:058-232-5130
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料:1200円/高・大生800円/小・中生600円 ※飲み物付き
休館日:毎週火曜日(火曜祝日の場合は翌日)、年末年始
私は洋画ばかり見ていましたが、日本美術も展示されています。