きまぐれリフレイン

「夕方には帰るね、じゃ、行ってきます」
 ミクは、十三歳の春休み。
 とくに目的地を決めず、散歩にでることにした。学校の赤いジャージで、デニムのワイドパンツは明るいインディゴ。
 快晴、雲一つ。
 白いリュックサックを背負いなおして、家を後にした。台地にあるので、長くやや急な坂を下っていく。自慢のロングヘアが風にそよぐ。
「雲、ひとりぼっちだ」
 青空にくっきり、真っ白な。ミクは気になりがらも、橋を渡る。赤い欄干の真ん中で川の穏やかさを確認し、遠くの森林の葉の揺れに目を凝らす。
 頭上に、雲一つ。流石に見上げるミク。
 
 白いリュックサックを背負いなおして、家を後にした。台地にあるので、長くやや急な坂を下っていく。自慢のロングヘアが風にそよぐ。
「雲、ひとりぼっちだ」
 青空にくっきり、真っ白な。ミクは気になりがらも、橋を渡る。赤い欄干の真ん中で川の穏やかさを確認し、遠くの森林の葉の揺れに目を凝らす。
 頭上の、雲一つ。流石に見上げるミク。
「あれ? うん? うーん、、ま、いっか」
 ミクは再び歩きだし、橋を渡りきり、横断歩道をしっかり信号を守って青で渡って、いつもの公園に辿りついた。
 砂場と、滑り台と、若草色のベンチが二基。簡素で素朴。
 ミクはベンチに座り、リュックを置いて中から手作りのサンドイッチと、ペットボトルのアイスティーをだした。
 ハムとタマゴ。大きく口をあけて、大きな一口。アイスティーで流し込む。さて、もう一口と思って、ふと見上げると、
「あ、また。あの雲だ」
 青空に雲一つ。
 ややあって、ミクは急いでリュックサックを背負って、走り出した。授業で習った走り方で。首を引いて膝を伸ばし、胴体を動かさず腕だけ振るイメージで、疾走する。
 コンビニ、歯科医院、古い雑居ビルをぬけて、横断歩道で足踏み、足踏み。頭上に雲。なんだか、ぞわぞわするような感覚。
 信号が、青。正しいフォームを意識して、走る、走る。
 気がつけば、山道に入っていた。背の高いモミの木が鬱蒼と茂り、ややうす暗い木洩れ日のなかを行く。 
 なんとかあの雲をまいたようで、ミクは息を整えて神社を目指す。
「願い事して帰ろう、なんか、疲れちゃったな」
 近道の獣道、傾斜のきつさをものともせず、父親譲りの足腰の強さを発揮し登りきると。
 視界は明るくひらけて、古ぼけた、既に打ち捨てられ管理されていない神社があった。
 小走りで神前に進み姿勢を正すミク。
 背中を平らに、腰を90度に折り、拝を二回。胸の高さで両手を合わせ、右指先を少し下にずらす。肩幅程度に両手を開いて、二回打った。指先を揃えて、最後にもう一回拝をした。
 と、頭上の気配に反応して見上げるとやはり雲がひとつ、いた。
 白い雲の隙間から、銀色が見えた。太陽光が反射して、目が眩むミク。

 気が付くと、そこは自宅の玄関だった。
「夕方には帰るね、じゃ、行ってきます」
 ミクは家を出て鍵を閉めたところで、口を真一文字にしめて首を捻る。
「わたし、繰り返してる?」
 ミクは鍵を開けて、家に戻った。掃除機をかけていた母親と目が合った。
「どうしたの。散歩に行くんじゃなかったの?」
「いいの。なんか疲れちゃった」
 靴を脱いで、さっさと二階の自室に向かい、リュックサックを放り出してベッドに体を預けた。それからすぐに寝息をたてて、眠りにおちるミク。
 窓。
 外に、銀色の宇宙船が、いた。
 それは、すぐに急上昇して、ぐんぐん大気圏を抜けて、そこはもう宇宙空間。無音の世界を遊弋する宇宙船。
 乗組員が言った。
『変な女の子でしたね。頭の中は空想ばかりで』
 船長が返した。
『地球人は変わっている。研究が必要だ』
 宇宙船から見下ろす地球はあまりに青く美しく、
 ミクは天気予報を見ながら、昼食の炒飯を大きな口で頬張っていた。
 

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