『Cloud・クラウド・雲』

 朝六時。
 起きて直ぐに動く。
 庭の草木を刈るために。この時点で焦りがある。
 品川で映画を十時から観るからだ。最速でも自宅から五十分程度かかる。草木を刈るのに一時間以上はかかる。
 つまり、洗髪や準備をしたら直ぐに出発しなくてはいけない。普段なら、午後一時あたりからの上映を選ぶので、やはり、普段と違う。時が迫る。非常に忙しない日曜日の朝だ。
 バスに乗っても、空は雲〈クラウド〉が広がっている。雨が降りそうで降らないどっちつかずの空だ。
 しかし傘はもたない。
 直感で雨はないと決めて、私の身体は電車で品川に運ばれていく。焦りから最短時間で出てきたからこそ、意外に早い時間で到着した。
 チケット発券期限の約一時間前の八時五十分に映画館に私はいた。パンフレットを買う。表紙が半透明に出来ていて、『Cloud』のタイトルと雲が漂い、菅田将暉が物憂げな表情をしている。めくると、視線を下に落とす彼の顔。
 なんとも洒落たパンフレットである。裏表紙は、ドアのすりガラス越しに何かを被った人間が、透けてみえる。
 中身は黒地に銀色の文字と写真でスタイリッシュ、後半、カラー写真という構成。こういった「ブツ」として素晴らしいモノに出会うと嬉しくなる。その感覚を保持したまま、パンフレットをパラパラめくってみたり、愛用しているリングノートにメモを書いたりして時間を過ごす。
 上映開始。午前十時であるから、観客は疎ら、それがいい。
 ここで公式サイトから引用する。

世間から忌み嫌われる”転売ヤー”として真面目に働く主人公・吉井。彼が知らず知らずのうちにバラまいた増悪の粒はネット社会の闇を吸って成長し、どす黒い”集団狂気”へとエスカレートしてゆく。誹謗中傷、フェイクニュース――悪意のスパイラルによって拡がった憎悪は、実体をもった不特定多数の集団へと姿を変え、暴走をはじめる。やがて彼らがはじめた”狩りゲーム”の標的となった吉井の「日常」は、急速に破壊されていく‥‥‥。
 
主人公・吉井を務めるのは、日本映画界を牽引する俳優・菅田将暉。吉井の周囲に集う人物を古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝ら豪華俳優陣が演じている。監督は『スパイの妻』で第77回ベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した黒沢清。生き物のように蠢く風や揺らぐ照明、ぞくりと刺さるセリフ、雰囲気抜群の廃工場――前半はひたひたと冷徹なサスペンス、後半はソリッドで乾いたガンアクションと、劇中でジャンルが転換する斬新な構成で観客を呑み込んでゆく。インターネットを経由する”実体のない”サービスの名を冠した映画『Cloudクラウド』。

”誰もが標的になりうる”見えない悪意と隣り合わせの”ここにある恐さを描く本作が、現代社会の混沌を撃ち抜く。

 上映終了。気分がうっすらどんよりしている。
 主人公の吉井はクリーニング工場に勤めているが、転売で大きな案件で成功したことを切っ掛けに、会社を辞めて田舎の湖畔の豪邸に移り住む。
 現状に満足しておらず、「普通の人生ではなく、もっと稼ぎたい」「少々悪いことをしても稼げればいい」と悪質な転売を続ける。ここから抜け出す手段として、人も雇い、投資もして本格的に走り出す。
 その姿に自分を重ねて、妙にリンクして、心の置き所に困る、不穏な浮遊感が「うっすらどんより」を生んだ。
 灰色の雲が心に広がった本作。
 菅田将暉をはじめとする「演技派アベンジャーズ」が皆さん絶品で、黒沢清監督独特のソリッドな雰囲気が最高でした。
 映画館をでると、
 空には〈クラウド〉が広がっている。
 私は足早に品川駅へ向かい、山手線に乗り込み新宿へ向かう。
 無論、書店に訪れるためだ。
 新宿駅に着くと、西口方面へ向かうが、途中、店名は忘れたがセルフサービスの店で「三元豚のカツカレー」を注文した。
 揚げおきだったのか、直ぐに呼ばれ、普通に美味しく、書店へ向かうことができた。
 救われた思いをもちながら、新宿の目を通り過ぎて、
『ブックファースト新宿店』に到着。
 ここでの購入品は『住みにごり 6巻』のみ。今回、初の本格的な買い物となる。1000坪の広さに蔵書数90万冊以上という、日本有数の大型書店です(東口には紀伊国屋書店・新宿本店がある)。
 2フロアに分かれ、各エリアごとに出入口があり、スタイリッシュで複雑で迷路のような店内。
 とはいえ、目的は明確。
「国書刊行会」「岩波文庫の詩集」「国内文学」「SF」を探す。
 しかし、あれやこれやと目移りし、予算を考えながら品定めしていたら一時間半が過ぎていた。買った内容は明日の『週刊 我がヂレンマ』で紹介するとして、総武線に乗り込み、一路地元を目指す。
 かくして休日はあらかた終了する。
 いくらか疲労感のある一日だった。
 朝6時から走りっぱなし。
 明日は仕事。
 頭に〈Cloudクラウド〉がたちこめて、色々あって憂鬱な気分もあるが、自己責任と気持ちを切り替え、仕事に臨もうと決める。
 映画の主人公・吉井は意識的、無意識的に人を傷つける人間だ。自分も似たところがあると自覚し、「確認・相談・積極性」を意識し、責任を全うするため頑張ろうと思う。
 そう、意識することが出来ただけでも、映画を観た価値はあった。
 現在時刻【19:01】
 いい加減腹が減った。
 昨日の残りのソーセージで白米を喰らう。
 腕白な夕食とともに、日曜日の夜が更けていく。ひとり静かに。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?