「フーテンのトラさん」10(名探偵)
「みぃ物語」(みぃ出産編)で登場した『トラさん』の物語
前回はこちら
「コムギちゃん、可愛そう。」
「それでどうなったの?」
「コムギちゃんのおうちは見つかったの?」
「トラさんが見つけてあげたの?」
「タマよ、俺にそんなの分かると思うか?」
「そんな時はどうするか・・・」
「分かるだろ?」
「・・・もしかして、あの人の所に相談に行ったの?」
(4話連続シリーズの2話目です)
名探偵
ふっ、ふっ、ふ。
そうだよな、こういう時はやっぱり、
『タキさん』
だよな。
よし、
タキさんに相談しに行こう!
「タキさん。」
「おぉ、トラか。」
「どうした?」
「おや?、そのお嬢さんは?」
「この子はコムギっていうんだ。」
「可哀そうに、家から出てしまった時にドラ猫共に追いかけられちまってよ。」
「逃げ回っているうちに自分のうちが分からなくなっちまったらしいんだ。」
「そうだったのか、怖い思いをしたねぇ。」
「もう大丈夫だよ。」
「ここいらにはそんな野蛮な奴はいないからね。」
「トラよ、それでその子をどうするつもりだ?」
「お前の事だから、まさかとは思うが・・・」
「俺が家まで送り届けてやろうと思って。」
「やっぱりな、お前だったらそう言うと思ったよ。」
「ところでトラよ、お嬢さんの家に関して何か心当たりでもあるのか?」
「そこなんだよ、タキさん。」
「実はな、どこへ行けばいいか皆目見当がつかないんだよ。」
「タキさん、知恵を貸してくれねぇか?」
「そうじゃのう・・・」
「知恵を貸せと言われてものぉ」
「・・・そうじゃなぁ」
「お嬢さんや、住んでいた家の周りの様子を話してくれないか?」
「そうしたら、どのあたりか分かるかもしれんからな。」
コムギは覚えていることを話し始めた。
周りには畑や田んぼが多く、裏には山。
こことは違う独特の匂いがしたらしい。
「独特の匂いか・・・」
「・・・んっ!」
「温泉か?」
タキさんは何か心当たりがありそうだった。
「そういえば、昔住んでいたところにも裏の山に温泉があったな。」
「これまでいろんな町をうろついてきたが、そこだけは他の町には無い独特の匂いがしたんじゃ。」
「田んぼや畑も多かったしな・・・。」
「そうだ、お嬢さん。」
「少し離れたところに小学校は無かったかい?」
「小学校?」
「小学校かどうかは分からないんだけど、子供がいっぱい集まっていく場所はありました。」
「私、その近くにある『動物病院』って所に何回か連れて行かれたことがあったわ。」
「秋には大人達もみーんな集まって、賑やかな声が聞こえてくることもあったし。」
「・・・それは小学校の運動会だな。」
「田舎では運動会は町を挙げての一大イベントだからな。」
「おそらく間違いないじゃろう。」
タキさん曰く、
この港から街を挟んで向こうの山には温泉があるらしい。
その温泉のすぐ近くに集落があり、畑や田んぼもある。
昔、タキさんはその近くでしばらくの間暮らしていたらしいんだ。
「この近くの温泉って言ったら、そこしかないはずだからな。」
「おおっ、タキさんはやっぱり物知りだな。」
「よしっ、俺が連れてってやるよ。」
「その集落まで行けばお嬢ちゃんのうちも分かるはずだからな。」
「トラよ、そう焦るな。」
「今日はもう遅いから、ゆっくり休んで明日出発すればいいだろ。」
「おぉ、それもそうだな。」
「それじゃあ、今晩はあの寺で休むとするか。」
「そこの住職とは顔見知りだから、たまに晩飯の残り物を分けてくれる事があるんだ。」
「うまくいけば、晩飯にありつけるかもしれねぇぞ。」
俺達は小さな寺に戻って来た。
「おおっ、焼き魚の皮とかまぼこの切れ端も入れてくれてるぜ。」
「銀シャリもあるじゃねぇか、ごちそうだな。」
「あっ、俺はさっき『赤い長靴』に魚をもらったから腹は減ってないんだ。」
「お嬢ちゃん、遠慮しないで食いな。」
「しばらく何にも食ってないだろ?」
「ありがとう、トラさん。」
「ゆっくりおあがり。」
「食ったら寺の縁の下で休むといいよ。そこにいたら安全だからな。」
「俺はちょっくら『ミケ』に挨拶してくるからよ。」
「んっ?」
「心配しなくていいよ、遠くに行きゃあしないさ。」
「今晩は俺も寺の敷地の中にいてやるから、安心してお休み。」
「明日の朝に迎えに来るからよ。」
「ありがとう、トラさん。」
「おやすみなさい。」
暫く何にも食ってなかったんだろうな。
コムギはうまそうにその飯を食ってたよ。
こうしてその夜は俺も寺の中で眠ることにしたんだ。
つづく