![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144353359/rectangle_large_type_2_e30f81dca7c78b68c76ed562f8686189.jpeg?width=1200)
「フーテンのトラさん」15(温泉効果)
「みぃ物語」(みぃ出産編)で登場した『トラさん』の物語
前回はこちら
「何だか源さんって面白そうな人ね。」
「面白れぇっていうか、おしゃべり好きの爺さんだったよ。」
「俺の顔を見るたんびにずっと一人でしゃべってたぜ。」
「『女はおしゃべり』って言うだろ。」
「だがな、『おっさん』も大概おしゃべりだぜ。」
(3話連続シリーズの3話目です)
温泉効果
次の日の朝
『ハーックション!』
自分のくしゃみで目が覚めた。
暖かい寝床で寝ているはずなのに、何だか寒気がするような。
鼻水も出てきたし・・・
あの爺さん猫 の風邪がうつったか?
コムギは大丈夫だろうか?
まあ、お嬢ちゃんはあの爺さんに近寄ってなかったから大丈夫だろう。
うちの人に猫可愛がりされてるみたいだから、何かあってもきっと動物病院へ連れて行ってもらっている事だろうしな。
それに、『ワクチン』ってのをうってるって言ってたからな。
これはタキさんの受け売りだけどな。
このネコ風邪っていうのはな、
『猫伝染性鼻気管炎』(FVR)
ってややこしい名前が付いているらしいんだ。
ヘルペスウイルスによる猫ウイルス性鼻気管炎や、ネコカリシウイルス感染症が原因。
クシャミなどの呼吸器症状と、結膜炎で目がウルウルになったりする。
口の中に潰瘍ができる場合もあってな、そうすると口が痛てぇから物が食えなくなっちまうんだ。
重症になると、肺炎を引き起こしたりもするんだぜ。
ハーックション!
![](https://assets.st-note.com/img/1718932481238-AwU2VZUKCF.jpg?width=1200)
何だ、タキさんのくしゃみか・・・🙂
「ハックション」(こちらはトラさんのクシャミ)
ダメだ、くしゃみも止まらない。
そこへ源さんがやって来た。
「どうした?ニャン吉」
「何べんもくしゃみなんかして。」
「もしかして、風邪でもひいたか?」
「冬場には、ここいらの猫の間でも風邪が流行るからな。」
「おかみさーん、ニャン吉が風邪をひいたみたいなんだわ。」
「何べんもくしゃみをしてるんだよ。」
源さんは宿の中にいるおかみさんに話しかけた。
何だかお客というより親戚のおっちゃんって感じだな。
長年、湯治で通ってると身内みたいになっちまうんだろうな。
「あら、大変ね。」
「大丈夫かしら。」
奥の方からおかみさんの声が聞こえてきた。
しばらくしたら、おかみさんが器を持って出てきてくれた。
器に牛乳を入れてきてくれたんだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1719300224688-faBCEytNTE.jpg)
「ニャンちゃん、これでも飲んで精を付けるのよ。」
クンクン
おかしい、ほとんど匂いがしない。
ペロペロ
味もあんまり感じない。
でもこれだったら何とか飲めるな。
俺はありがたく牛乳を頂戴した。
すると、今度は源さん。
「ここの温泉飲んだら早く治るぞ。」
「なんせ、万病に効くからな!」
「俺なんか毎日飲んでるから、ここでは風邪なんて引いたことが無いんだ。」
「お前の風邪もあっという間に治っちまうぞ。」
相変らず一方的に話している。
源さんは器に温泉を入れて持ってきてくれた。
本当に風邪に効くのか?
ペロペロ
まずいのかまずくないのかよく分からないな。
・・・と言っても今はあんまり味を感じないんだがな。
その日は一日段ボール箱の寝床でじーっとして過ごした。
その次の日も一日メシが食えなかった、と言うか食う気が全く起こらなかった。
鼻も全く利かなかったしな。
ハーックション、ハーックション、ハーックション、・・・
![](https://assets.st-note.com/img/1727680032-Yh80VFoW9UQOepiwGPyCZlRx.jpg?width=1200)
すげぇ、人生初の5連発くしゃみをしてしまったぜ。
鼻水も飛びまくってるじゃねぇか・・・
そんな感じだったんで、固形物は全く食べられずじまいだったよ。
温泉の水と牛乳だけははかろうじて飲めたんだがな。
「ニャンちゃん、大丈夫かしら。」
おかみさんはえらく心配してくれている。
「なぁに、大丈夫さ。」
「温泉の水は飲んでるみたいだし、直(じき)に良くなるさ。」
源さんはえらくお気楽だな。
それにしても、源さんはこの温泉に絶大なる信頼を置いているらしい・・・
さて、温泉の効果や如何に・・・
* * *
翌日
鼻の詰まりがかなり治まってきて、匂いも戻ってきた。
すげぇ、これが『温泉効果』か!
源さんの言ってたことはあながちウソではないかもしれない。
「おっ、ニャン吉、少し良くなってきたみたいだな。」
「どうだ?、ここの温泉はよく効くだろ。」
「ちょっくら買い出しに行ってくるから待ってな。」
源さんは車に乗って出かけて行った。
『待ってな。』
って何を待つのだろう、と思ってたんだが・・・
![](https://assets.st-note.com/img/1728287284-SOuxg2I3DwRpBVtiyfv8Po7Y.jpg?width=1200)
源さんはわざわざ猫用の缶詰を買ってきてくれたんだ。
「ほら、奮発して上等なヤツを買ってきてやったからな。」
「これを食って、栄養をつけて早く良くなるんだぞ。」
源さんが缶詰を器に入れてくれた。
おお、いい匂いだ。
匂いがするっていうのは良いもんだな。
モグモグ
んっ!?
何だこの旨い飯は!!
ここ二日間何にも食べられなかったのもあって、ガッツいてしまった。
「おい、そんなに急いで食わなくったって缶詰は逃げやしないよ。」
そうなんだけどよ、こんなうめぇもんが世の中にはあるんだなぁ。
源さん、ありがとよ!
温泉に来て良かった。
ここは暖かいし、俺も温泉の効果にあやかっちまったぜ。
寒空だったら風邪をこじらせてたかもしれねぇからな。
![](https://assets.st-note.com/img/1719219169120-xbcHOOHRaG.jpg?width=1200)
こうして温泉の効果を実感したトラさんは、暫くこの温泉場でお世話になるのであった。
おわり