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「動物のお医者さん」04(吹き矢)

「動物のお医者さん」

大学時代にこのマンガに出会い、マンガの連載中に獣医学部の学生だったこともあり、親近感を感じていました。
当時の獣医学部の大学生活についても織り交ぜながら、「動物のお医者さん」の思い出を振り返ってみたいと思います。


前回はこちら


大学と同じ市内には動物園、
となり街には日本海に面して水族館、
少し離れますが、太平洋側に出来たばかりの水族館(マリンパークニクス)がありました。

大学の附属病院はこれらの施設から動物たちの治療も依頼されていました。

イルカ
オタリア
カンガルー
ニホンザル

などなど。

ほとんどの場合は、大学に連れてきていただく事ができないので往診に行きます。

びっくりしたのは、「オタリア」が海水の入ったトラックで大学の病院まで連れて来られたんです。
往診だと出来る検査が限られますからね。

とは言っても、すごいですよね。

オタリア
アシカさん達の仲間です


オタリア達は水の中でも体温を保つために、分厚い脂肪に覆われています。
冬は大丈夫なのですが、暖かい季節は陸に上がると体温が上昇しすぎるらしいんです。
体温の上昇を防ぐために、治療中はずっと水をかけ続けて体を冷やしてあげていたのだけは覚えてます。
その他の詳しいことは、ちょっと・・・💦

今回は動物園から治療を依頼されて往診に行った時のお話しです。

今回治療を依頼されたのは、

何と!


ライオン


そう、百獣の王です。

大学に連れてきてね、なんて軽々しく言えないですよね。

以前カンガルーの往診に行った時は、
「蹴られないように気を付けてね。」
と言われたのですが・・・

ライオンとなると、
「噛まれないように注意してね。」
では済まされませんよねぇー。

どうするのでしょう?

麻酔をかけて眠ってもらいましょう。
そうしないと、近寄れもしません。

でも、どうやって麻酔をかけるのでしょうか?

麻酔銃?

いやいや、そんな物騒なものは大学にはありません。

ここで登場するのが、動物のお医者さん3巻で登場する

『吹き矢』

私達の時は青色のフサを付けていたような・・・
運動会の応援に使うポンポンの小型版
平べったい荷物テープを束ねて、細かく裂いて作るやつです


注射器を自分たちで加工して、吹き矢を作るのです!
とっても原始的な方法ですね。

動物のお医者さん3巻より


吹き矢の注射器を発射するためには、中が空洞の細長い筒が必要です。
それも、ほうきの柄などを切って作っていたような気がします。

あっ、そうそう
注射針も加工しないといけません。


* * *

いざ動物園へ!

私達下っ端は初めての経験。

少しワクワクドキドキしながら動物園について行きました。
動物園の営業に支障が出ないように、夕方ライオンたちがバックヤードの部屋に帰った頃を見計らって。

動物園の裏口から入れてもらい、いよいよ猛獣エリアへ。

そこには、

チーター
ユキヒョウ
トラ

などの猛獣たちがそれぞれの檻に入っていて、その中の一つにライオンがいました。

イメージ図


その檻の間を通ってライオンのところまでいかなければならないのです。

檻に入っているので、襲ってくることはないと分かってはいるのですが、
トラの檻のそばを通る時は、威圧感が強く背中がゾクゾクするような恐怖を感じました。

イメージ図


何というか、『凄み』が他の猛獣たちと違いました。

ようやくライオン君の檻に到着。
ここで、いよいよ吹き矢の麻酔の登場です!

これを筒の中にセット!
動物のお医者さん3巻より

助教授の先生が吹き矢を構えます!

筒の端に口を当てて、

「プッ!」

と息を吐くと注射器が勢いよく飛び出しました!

やりました!!

見事にライオンの腰辺りに注射器が刺さりました!

ライオンは一瞬ビクッと動きましたが、そんなに暴れる様子もなく横になっています。

・・・10分経過・・・

何となくボーッしてきたような。

・・・15分経過・・・

頭を地面につけて横になりました。

麻酔は効いたのか?

飼育員の方が檻の外からデッキブラシの柄でライオン君をツンツンしました。

すると、
「何するんじゃ!」
と、少し顔を上げましたがすぐポテッと頭を床に付けました。

飼育員さん
「もうちょっと待った方が良いですね。」

・・・さらに5分経過・・・

デッキブラシの柄でツンツンしても反応無し。
デッキブラシのブラシの方で、強めにギュウギュウ押しても反応無し。

「大丈夫ですね。」
オッケーが出ました!

いざ出陣!

手早く済ませるために、シミュレーションを完璧にしていた私たちは、

採血部隊
レントゲン部隊
聴診などの一般状態を観察する部隊

などに分かれて一斉に動き始めました。

私は、レントゲン部隊

持ち運べるポータブルのレントゲン撮影装置を持ち込みます。
これがまた重いんです。


レントゲンのフィルムが入った板をライオンの体の下に潜り込ませます。
  ↓
ライオンの上からフィルムめがけてレントゲンが当たるようにレントゲン装置を待ちます。
  ↓
大体1メートル離さないといけないので、一人が1メートルの距離を測ります。
  ↓
セット完了
  ↓
「バシャ」
レントゲン撮影終了


こうして、無事すべての部隊の検査が終了。


急いで撤収!!

麻酔から早く覚めてもらうために、最後にライオン君には麻酔から覚める注射をうちます。

全ての機材を檻の外に出して、注射をする先生だけを檻の中に残して全員退避。

注射した途端に麻酔から覚めて、突然

「ガブッ」

「ギャァーーーーッ!」

という事は無いのですが、やっぱり注射する人は怖いですよねぇ。

プスッ、チュー(注射の音)

「急げー!」
走って檻の外へ。

さて、ライオン君。
しっかり麻酔から覚めてくれるか?

私にお任せあれ!


デッキブラシの柄でまたまたツンツン。
5分も経たないうちにライオン君はもぞもぞ動き始めました。
10分程で頭を持ち上げることができたライオン君。
これで一安心。

飼育員さん、お役目ご苦労様でした!

こうして動物園を後にした御一行様でした。

* * *

卒業後数年間、動物園の獣医師として勤務した友人が、

「今でも、たまに吹き矢使うよー」

って言ってました。

おわり

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