「動物病院四方山話」04(注射器を振り回すリスザル)
私の名前は「みぃ」
動物病院で暮らしている猫
私が経験した動物病院での四方山話を紹介しています
前回の動物病院四方山話はこちら
リスザルさんが男の先生に抱っこされて処置室に入って来たわ。
女の子で名前はもも子ちゃん。
あら、この子おむつをしているのね。そういえば、日光猿軍団(おさるランド)のお猿さんたちもおむつをしていたわね。
もも子ちゃん、男の先生に抱っこされてとてもおとなしくしてるわ。
「里塚先生おられます?」
とその獣医さんが看護師さんに尋ねていた。
「里塚先生は今診察に入られていて、手が離せないと思います。」
と看護師さんが答えていた。
「そうですか。それじゃあ鈴木先生、この子の採血をお願いできますか?」
と、女性の獣医さんにお願いしていた。
女性の獣医さん(鈴木先生)は、
「はーい。分かりました。高橋先生、でも私で大丈夫ですかね。」
と言っていた。
「私が抱っこしていたら多分大丈夫だと思うんですけど・・・。」
と、高橋先生も何故か少し歯切れが悪そうだった。
「そしたら、採血してみますね。」
と、鈴木先生が採血の準備をし始めた。
実はもも子ちゃん、糖尿病なんだって。お猿さんもかかる病気は人間と同じなのね。
だから、定期的に血糖値の検査をしてるんだって。
高橋先生がリスザルさんの腕を保定していた。もも子ちゃんは穏やかな顔をして、安心しきってるわね。完全に高橋先生に体をゆだねていたわ。
鈴木先生が採血をするために、もも子ちゃんの右手を持って注射器を近づけた瞬間、
「キャァー!」
と、鈴木先生が悲鳴を上げた。
えっ。どうしたの?
見ると、もも子ちゃんの左手には鈴木先生が持っていた注射器が握られているではありませんか!
しかも振り回しているわ。
もも子ちゃんは鼻にしわを寄せてすごく怖い顔になってる。
どうしたの、あんなに穏やかな顔をしていたのに。
騒動を聞きつけて、診察が終わった里塚先生が飛んできた。
もも子ちゃんの様子を見て、
「鈴木先生、もも子ちゃんから離れてください。後は僕がしますので。」
と言って里塚先生はゆっくりもも子ちゃんに近づいて行った。なんだか里塚先生、全然焦っていないように見えるわ。
先生がそっと手を出すと、なんと、もも子ちゃんが持っていた注射器を里塚先生に渡したの。
なんで・・・?、えっ、なんで?
里塚先生、すっごーい!
・・・実は、里塚先生(男性)がすごいのでもなく、鈴木先生(女性)が悪いのでもないらしいの・・・。
高橋生先生(男性)が抱っこしていた時はもも子ちゃん(女の子)は身をゆだねてたでしょ・・・。
そうなんです、どうして今まで男性の先生とか、女性の先生とか、わざわざ説明していたかというと、もも子ちゃんは男性の獣医さんに対しては何をされても怒らないの。でも、女性の獣医さんや看護師さんが処置をしようとしたらすっごく怒るらしいの。
今回は高橋先生(男性)が抱っこしているから、鈴木先生(女性)が採血をしても大丈夫なのでは・・・、と思ったらしいんだけど、やっぱりだめだったみたい。
・・・やだ、ウソみたい。
今度は、里塚先生(男性)が代わって採血しているんだけど、何の抵抗もしていないわ。
どちらかというと、
「はい、どうぞ」
って感じでもも子ちゃんは高橋先生と里塚先生に身をゆだねているわ。
もも子ちゃんは、女性にライバル心を抱いているのかもしれないわね。お猿さんってみんなそうなのかしら・・・。
お猿さんはめったに動物病院に来ないから、本当のところはどうだか分からないんだけどね。
・・・もも子ちゃんの女心なのかしら。
・・・不思議ね。
でも、なんだか可愛いわね。
おわり