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「フーテンのトラさん」02(漁師さんとの出会い)
「みぃ物語」(みぃ出産編)で登場した『トラさん』の物語
前回はこちら
「ねぇ、トラさん。」
「神社を出てからいろんなところを放浪してたんでしょ?」
「その時の話を聞かせてよ。」
「タマよ。」
「なんで俺の話なんか聞きたがるんだ?」
「だって、私は生まれてすぐにこのうちに来たから、外のことは知らないのよ。」
「だから色々知りたいの!」
「分かったよ。」
「だけどよ、お前が思ってる程面白くないかもしれないぜ。」
漁師さんとの出会い
神社の境内を後にしてからのトラさんは方々を渡り歩き、久しぶりに生まれ故郷にほど近い町へやって来た。
そこは海沿いの町で、そこそこ大きな漁港があった。
漁港の近くには多くの猫が集まっていた。
そこに住んでいる猫達はお互いにあまり干渉はせず、自由気ままに生活していた。
* * *
漁港はそこそこ広くてよ、そこまで縄張りを気にしなくても良かったんだ。
だからって事は無いんだけど、そんな漁港の雰囲気が俺には居心地よく感じたんだなぁ。
こうして、トラさんはしばらくここに留まることにしたのであった。
漁を終えて漁師さんが帰ってくると、どこからともなく猫達が集まって来るんだよ。
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漁師さんたちも優しくってよ、
売り物にならない魚をみんなに分けてくれるんだ。
すばしっこい奴はすぐに魚にありつけるが、なかなか魚にありつけない奴もいたっけなぁ。
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漁師さんの中で、いつも赤い長靴を履いている漁師さんがいたんだけどな、
その漁師さんはな、そんな子達を見つけると、
「お前はいっつもどんくさいなぁ。」
「ほら、これでも食いな」
って、その子の前に魚を置いてくれるんだよ。
その漁師さんは港の猫達をほとんど把握しているみたいで、みんなに魚がゆき渡るようにしてくれるんだぜ。
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俺は初めてこの漁港に来た時に、そんな光景をぼんやり見てたんだ。
そうしたらよ、
赤い長靴の漁師さんがこっちへやって来たんだ。
俺がその漁師さんを見ているもんだから、目が合っちまったんだ。
そしたらよ、
「あれっ?見ない顔だね」
「どうした?」
「お前も腹減ってるのか?」
「これでも食いな」
と、魚を放り投げてくれたんだ。
ピッチピチの魚はうまかったねぇ~。
「ありがとう。」
って、お礼を言うと、
「お前、顔に似合わず可愛い声してんな。」
だってよ。
自分の声をそんな風に言ってもらったのは初めてだったけど、俺って可愛い声してんのかな?
その日から、赤い長靴をはいた漁師さんは俺にも魚をくれるようになったんだ。
だから俺は親しみを込めてその漁師さんを
『赤い長靴』
って呼ぶことにしたんだ。
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赤い長靴は根っからの猫好きらしく、家にも『モミジ』っていう名の猫を飼ってたんだ。
モミジはいっつも魚をたらふく食わせてもらってるんだろうなぁ、なんてちょっとうらやましく思ったりもしたもんだよ。
しばらくすると俺にも気の合う奴ができてな、楽しく暮らしていたんだ。
そんなある日、赤い長靴の家でモミジが仔猫を生んだらしいと、そいつに教えてもらったんだ。
赤い長靴が他の漁師さんに嬉しそうに話しているのを小耳にはさんだんだってよ。
それを聞いて、俺も赤い長靴の家まで見に行ったりしてよ。
窓越しにちらっと見ただけだけど、可愛かったぜ。
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その仔猫はすくすくと育っていって、乳離れをしてから3ヶ月が過ぎた頃だったかなぁ。
赤い長靴が慌てた様子で軽トラを走らせて行ったんだ。
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いつもは出かけねぇ時間なのに、おかしいなと思ったんだ。
後から聞いたらよ、モミジの子を動物病院ってとこに連れて行ったらしいんだ。
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漁港の猫たちの間では、赤い長靴は「超」が付くほど有名人だったからよ、
「赤い長靴の家で飼われてる、モミジって子がいるだろ?」
「そのモミジが少し前に子供を産んだんだけどよ。」
「その子がよ、具合が悪くなっちまったらしいんだ。」
「赤い長靴は優しいからよ、モミジの子を動物病院に連れて行ったらしいぜ。」
そんな噂が瞬く間に漁港中の猫の間で広がった。
俺はその子をちっちぇ時にちらっと見たきりだったんだけどよ、
赤い長靴はたいそう可愛がっていたらしいんだ。
その時の俺にはその子の容態は良く分かんなかったんだけどな、
助かってくれるといいなぁと祈ってたよ。
赤い長靴が悲しむ顔も見たくねぇしな。
ところがよ、
その日の夜に赤い長靴の軽トラが戻って来た時にはな、赤い長靴一人だったんだよ。
モミジの子を連れてねぇんだよ。
「えっ、モミジの子はどうなったんだ??」
って聞きたかったんだけどよ、
赤い長靴は浮かない顔をして家ん中に入っていっちまったんだ・・・
* * *
「トラさん!」
「そのモミジちゃんの仔猫さんはどうなったの?」
「タマも心配かい?」
「俺もその日はとにかく心配だったなぁ・・・」
「おっと、メシの時間だな。」
「続きはまた今度な。」
つづく