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「フーテンのトラさん」07(故郷)
「みぃ物語」(みぃ出産編)で登場した『トラさん』の物語
前回はこちら
「トラさん、それでどうなったの?」
「おうちの人達は迎えに来てくれたの?」
「簡単には帰れない、とか何とか言ってたけど、どうしたの?」
「帰ったの?」
「帰らなかったの?」
「矢継ぎ早にうるさいなぁ。」
「ちょっと、落ち着けって。」
「今話してやるから。」
故郷
そうなんだよな。
俺も迷ったんだよ。
おばちゃんたちがまた戻ってきて、
「一緒に帰ろう」
って言われたらどうしようかってな。
それでよ、困った時の『タキさんだのみ』よ。
どうしたらいいか分かんなくなっちまったから、タキさんに相談しに行ったんだよ。
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「タキさん。」
「俺が神社で生まれたって話、前にしたよな。」
「今日な、そこのおばちゃんとお嬢さんがここへ来たんだ。」
「それでな、お嬢さんが俺を連れて帰るって言うんだ。」
「タキさん、どう思う?」
「どう思うって?」
「そうじゃのう・・・」
「最終的に決めるのはトラ、お前の考え方次第じゃがな、」
「一度帰って懐かしい故郷を見てきてもいいかもしれんな。」
「それに、そのお嬢さんたちにはお世話になったんだろ?」
「特にお嬢さんは心配してくださったっていうんだから、お前を連れて帰りたいって気持ちも汲んであげてもいいんじゃないのかい?」
「どうせお前はフラフラしてるんだし。」
「お嬢さんたちが連れて帰るって決めたんだったら、一度帰ってみたらどうだ?」
「それでな、そこがお前の居場所じゃないと思えばまた出てくればいいんだからよ。」
「タキさんもそう思うかい?」
「俺も一度は帰ってもいいかな、とは思ってたんだけどな。」
「妹のサクラのことも気になるしな。」
「よし、決めた!」
「もしお嬢さんたちがまた来たら、お嬢さんたちが決めたことに従ってみることにするわ。」
「ただしトラよ、これだけは言っておくぞ。」
「お前さんの話を聞く限りでは、先方さんにも何人か猫がいるんだろ?」
「そこの猫達と折り合いが付かなさそうだったら、決して意地を張ったりしたらいけないよ。」
「そん時は、お前がスッと引くんだぞ。」
「くれぐれも先方さんに迷惑をかけるようなことだけはしちゃいけないよ。」
「分かってるよ、タキさん。」
「その辺は良くわきまえてるよ。」
こんなやり取りをして俺は決めたんだ。
お嬢さんが決めたことに従ってみるって事に。
それから俺はな、お嬢さんが戻って来た時に会えるように、一日に何度かその桟橋に行くようにしたんだ。
一週間後の週末
いつものように桟橋の方へ歩いていくと、遠くにあの赤い車が停まってたんだ。
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「トラちゃーん。」
「トラちゃーん、どこにいるのー?」
お嬢さんの声だ。
おばちゃんも一緒に俺を探してくれている。
「ここにいるよー。」
そう返事をして、お嬢さんとおばちゃんの所へ向かった。
「お母さん、トラちゃんよ!」
「もう、またどこかに行っちゃったかと思ったじゃないの。」
「良かった、見つかって。」
「一緒に帰りましょ。」
お嬢さんは一緒に帰ろうと言ってくれている。
「分かった、一度一緒に帰るよ。」
俺はそう言って、お嬢さんとおばちゃんの後をついて赤い車の方へ歩いて行った。
車に着くとお嬢さんは車からカバンみたいなのを取り出して、
「トラちゃん、ごめんね。」
「おうちに帰るまでここに入っててくれる?」
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何だこれ?
って思ったけど、大人しく言われる通りにしたよ。
そしたらよ、その入れ物ごと赤い車に乗っけられたんだ。
神社までは十分もかからなかったんじゃないかな。
前話しただろ、『小さなお寺』の話。
あの小さなお寺の裏山を超えた所に生まれ故郷の神社があったんだよ。
山ん中を超えて行ったら俺でも20分位で着く距離じゃねぇかな。
・・・懐かしい鳥居が見えてきた。
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車は鳥居の横の駐車場へ入って行った。
お嬢さんが俺のために車の窓を開けておいてくれたんだ。
そうしたらよ、神社の敷地に入った途端に爽やかな風が入って来たんだ。
いやぁ~、何とも言えねぇ懐かしいにおいがしたねぇ~。
二度と踏むことができないと思っていた故郷の土。
トラさんは帰って来たのだ。
二度と帰れない、いや、帰らないと心に決めていた場所へ。
つづく
それにしてもタキさんって頼りになるだろ?
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フオッ、フォッ、フォッ、それ程でもないがのう