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「フーテンのトラさん」18(キューピット)
「みぃ物語」(みぃ出産編)で登場した『トラさん』の物語
前回はこちら
「ねぇ、トラさん。」
「この前は何だか様子が変だったわね。」
「私に何か隠し事でもしてるんじゃない?」
「な、何言ってるんだよ、タマ。」
「そんな事あるはずねぇじゃねえか。」
なんだ、なんだ?
『女の勘』ってヤツか?
怖ェ~、なんであいつらはそんなに鋭いんだ?
「いや、あの~、恋っていうか・・・」
ヤベッ、焦って俺は何を口走ってんだ?
「恋?」
「えっ?」
「トラさんが!?」
「どういう事?」
「違げぇよ。」
「違うって。」
「俺の事じゃねぇよ。」
「ひょんなことから恋の橋渡しをすることになった話を思い出したんだよ。」
危っぶねぇ~!
良かったー、この話を思い出して。
「・・・いやな、あれからは俺も度々神社へ行くようになったんだけどな、そん時の話なんだ。」
キューピット
この話はユキと出会った後、トラがフワフワした足取りで神社へ行った時の話である。
浮つきながら神社へと進むトラ。
神社に行って昼寝でもして落ち着くとするか。
ベンチの上はなかなか快適だしな。
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おじいさんは温泉の帰りかな?
それとも今から浸かりに行くのかな?
それにしても、俺は何してんだか・・・
神社もほど近くなった頃になって、ようやくトラは少し冷静さを取り戻してきた。
鳥居をくぐろうとした時、神社から出て行く男子高校生とすれ違った。
ふもとの高校の生徒だろう。
さてと、神社のベンチで昼寝でもするか。
おやっ、先客がいるようだな。
さっきすれ違った男子と同じ高校の制服を着ている。
「あっ、ニャンちゃんだ!」
おっ、おい!
何で俺の名前を知ってるんだ?
お嬢ちゃんと会うのは初めてだぜ。
「かっわいい~!」
「私もニャンちゃん飼いたいなぁ。」
なんだ、俺の事を知っていて『ニャンちゃん』って言ったんじゃねぇのか。
ネコの事を『ニャンちゃん』って呼ぶ奴が多いだけなのか?
女将さんが『ニャンちゃん』って呼ぶのもひょとして『ニャン吉』とは関係ないのかもしれねぇな。
それにしても、名前の付け方がいい加減だな、源さんもおかみさんも。
「ニャンちゃんは幸せそうでいいわね。」
いっ、いきなり何なんだ?
『いやぁ、そんなに幸せって事もねぇけどよ。』
『そこそこにはな、へへっ。』
「ハァ~・・・」
どうしたんだ?
若い女の子がため息なんかついて。
「ねぇ、ニャンちゃん。」
「ニャンちゃんって、恋したこと、ある?」
えっ、なんでそんな話になるんだ?
これも『女の勘』ってやつか?
それとも、俺の顔に何か書いてあるのか?
いやいや、そんなことはないか・・・
「キャー!」
いきなりびっくりするじゃねぇか!
「ニャンちゃんに言っちゃった。」
「やだ、もう、内緒よ!」
内緒よ、って何を一人でペラペラしゃべってるんだ?、この子は。
そう思っていると、その女の子はまた一人でしゃべり始めた。
「たけし君って言うんだけどね。」
「たけし君は美術部の部長さんなの。」
「とーっても絵がうまいのよ。」
「私はね、絵を描くのは苦手だからすごいなぁ~って、ずっと思ってたの。」
「そうしたらね、私に『絵のモデルになってくれないか』って言ってくれたの。」
「キャーーーッって感じよね。」
「すごいでしょ!、ニャンちゃん」
だめだ、これは完全に自分の世界に入り込んでしまっている。
「実はね、さっき一緒にここへ来たんだけど、用事があるって先に帰っちゃったの。」
「ひどくない?」
「だって本当はね、今日こそは告白するんだ、って決めてたのに。」
その時、トラはふっと人の気配に気が付いた。
げっ、
おい、後ろ!
後ろにいるぞ!
さっき鳥居のところですれ違った男子高校生がすぐ近くに立っていた。
こいつがたけしに違いない。
お嬢ちゃんは相変らずっ自分の世界に入り込んでいて、たけしには全く気付く気配すらない。
「どうしたらいいと思う?」
「明日また誘ってみようかな。」
「どう思う?ニャンちゃん。」
・
・
・
まだ話し続けている。
自分の事になるとからっきしダメなトラさんなのだが、変におせっかいな所があるというか、放っておけない性格というか・・・。
「仕方ない、乗り掛かった舟だ。何とかしてやるか」
トラさんは、そーっとたけしの背後に回って、背中に飛びついてやった。
「ワッ!」
ビックリしてたけしは前のめりになった。
おっとっと・・・
彼女も彼の驚いた声に気づいて振り返った。
そんな彼女に向かってたけしは倒れ込んだ。
「キャッ!」
たけしはかろうじてベンチに手をつき、彼女をなぎ倒すことはなかった。
「ご、ごめん」
「おどろかせちゃった?」
「何かが背中に飛びついてきて、ビックリしてこけそうになっちゃって・・・」
バツが悪そうに、言い分けしてやがる。
ふ~っ、全く世話が焼ける奴らだぜ。
「うまくいくか行かないかはお前達次第だ。」
「後のことは知らないぜ。」
トラはそのまま神社を後にするのであった。
おわり
「トラさん、それから二人はどうなったの?」
「タマよ、野暮なことを聞くんじゃないよ。」
「後は若い二人に任せりゃいいんだよ。」
「俺はすぐ宿に戻ったから詳しい事は分からねぇんだがな。」
「その後しばらくしてから、仲良く二人で宿の前を通って帰って行ったよ。」
そん時思い出しちまったんだ、俺の師匠の言葉を。
『若者よ、燃えるような恋をしろ』
(by「男はつらいよ第47作 拝啓寅次郎様」)
それで急に何だかおせっかいを焼きたくなったんだな。
アイ・ラブ・ユー。
できるか、青年。
「男はつらいよ第20作 寅次郎頑張れ」
「男はつらいよ」名言集より
今回も山吹さんの絵をお借りしました。
いつもありがとうございます!