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【詩】夜の名曲

暗く長いトンネルの
数十 数百メートル先に
僅か射し込む光が見えた  

もしかすると

遙か昔に同じ道筋を歩いた誰かが
苦しくないように
挫折しないように
小さな窓を付けたのかもしれない

小さな窓には
ドビュッシーが奏でる
"月の光"がそっと溢れ
その静かな煌きが
ひとときの暗闇を包むだろう

或いは

ショパンの
"夜想曲 第2番 変ホ長調"が示す
星が辿る軌跡が 幾千もの知恵を授け
その僅かな煌きが
今ひとたび眠ることを許すだろう

私の遙か先を歩いた人よ
教えてはくれないか
ただひっそりと冷たく硬い道を
歩き続けることに意味はあるのだろうか
脆い足を砕いてまで
一つしかない心を壊してまでも。

このトンネルの壁に手をあてても
ただ聞こえるのは
私がする微かな呼吸、息の音。

今宵は この辺りで休もうか
限りある蠟燭に火を灯し
そして このトンネルを抜けた
先の未来について暫く独り語らい
白の蠟が全て溶ける頃に
瞼を閉じて夢に墜ちよう

眠れぬのならば
白黒の鍵盤を優しく弾く その指先や
窓に映える月明かりを想像して。

ここから何が見えるか
これから何が見たいか。

それは未だ
ずっと先の未来の話。
長い長い人生の話。

ならば月夜は
目を閉じて
ただ目を閉じて
ペール・ギュントの"朝"を
待ちぼうけてみないか。
晴れやかに吹き渡る
フルートの似合う朝を信じて
待ちぼうけてみないか。

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