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ブルシットジョブ(デヴィッド・グレーバー)

ソクラテス:さて、本日は「ブルシット・ジョブ」について論じてみたいと思います。対話の相手は、現代の人類学者であり、社会評論家でもあるデヴィッド・グレーバーさんです。彼はその著書『ブルシット・ジョブ』で、現代社会の労働構造について鋭い批判を展開していますね。特に、無意味で生産性のない仕事がいかに多いかを問題にし、その影響を考察しています。まずは、その根幹にあるアイデアについて詳しく聞かせてください。

デヴィッド・グレーバー:ソクラテスさん、お招きいただきありがとうございます。私の議論の核心は、現代社会における労働の矛盾です。多くの人が、自分の仕事が社会に貢献していない、あるいは無意味だと感じています。これを私は「ブルシット・ジョブ」と呼びました。具体的には、秘書、コンサルタント、カスタマーサービス担当者、さらには無駄な報告書を作成するだけの仕事などが挙げられます。これらは、一見必要そうに見えるものの、実際には社会にほとんど、あるいは全く価値をもたらしていない場合が多いのです。

ソクラテス:非常に興味深いですね。ただ、一つ疑問に思うのは、どのような基準で「価値がない」と判断するのかという点です。たとえば、ある人が「この仕事は無意味だ」と感じても、他の人には重要に思えるかもしれません。つまり、価値判断は主観的ではないでしょうか?

デヴィッド・グレーバー:それは確かにそうなのですが、私は多くのアンケート調査や事例研究を通じて、ブルシット・ジョブに共通する特徴を見出しました。それは、仕事そのものが「存在しなくても何の問題もない」と当人に感じられているということです。実際、現代社会では多くの人が「この仕事をしていても何の達成感も得られない」と感じています。この主観的感覚が、広範な社会的な無駄の指標となるのです。

ソクラテス:なるほど。しかし、そういうものの中にも、社会全体のシステムを維持するために不可欠だと思われる仕事はあるのではないでしょうか?  たとえば、行政や大規模な組織では、一見無意味に見える仕事も、その全体の歯車として機能しているかもしれません。そうした仕事をブルシットと断じるのは、システムの複雑さを過小評価しているとは考えませんか?

デヴィッド・グレーバー:その点については、むしろシステムの複雑性がしばしばブルシット・ジョブを生む背景になっていると考えています。確かに、組織運営には一定の「余剰」や「調整役」が必要です。しかし、現代の企業や行政機構では、その「余剰」が過剰に膨れ上がり、本来の目的から逸脱している場合が多いのです。ある企業で同じ情報を3度も4度も別々の部門で報告するシステムがあったとしましょう。これは非効率的であり、労働者にとって無意味な作業です。

ソクラテス:その例は理解できます。ただ、無意味な仕事が増える背景には、システムの複雑化だけでなく、社会全体の価値観の変化も関与しているのではないでしょうか。労働が自己実現の手段とされるか、あるいは単なる生計の手段と捉えられるかによって、その評価は異なりますよね。この点、あなたの主張は労働の本質についてどのような見解を示しているのでしょうか?

デヴィッド・グレーバー:その問いは重要です。私は、労働は本来、自己実現や社会的貢献の場であるべきだと考えています。しかし、現代の資本主義社会では、労働が「他人の利益を最大化する手段」として捉えられることが多くなっています。その結果、多くの人が自分の仕事に意義を見いだせなくなり、無気力やストレスに陥っています。特に、経済的な利益や効率性が過剰に重視される中で、人間的な価値がないがしろにされているのです。

ソクラテス:それでは、ブルシット・ジョブを減らし、意義のある労働を増やすためには、どのような改革が必要だとお考えですか?

デヴィッド・グレーバー:第一に、ベーシックインカム制の導入を提唱します。これにより、人々は経済的な圧力から解放され、自分が本当に意義を感じる活動に従事できるようになります。また、組織の構造を見直し、本当に必要な仕事に焦点を当てることも重要です。さらに、労働の目的について社会的な再評価を行い、「何が価値ある労働なのか」を議論する場を設けるべきです。

ソクラテス:その提案は魅力的ですが、ベーシックインカムが導入された場合、誰もが「意義のある労働」に向かうとは限らないのではありませんか?  人間には怠惰な性質もあるため、むしろ何もしない選択をする人もいるかもしれません。それは社会全体にとってどのような影響を及ぼすでしょう?

デヴィッド・グレーバー:確かにその可能性はありますが、私の経験では、多くの人々は基本的に生産的で、創造的でありたいという欲求を持っています。怠惰の問題は、むしろ現在の無意味な労働構造が人々のエネルギーを奪っている結果ではないでしょうか?  ベーシックインカムによって自由が保障されれば、人々は自然と社会に貢献したいと思うようになるはずです。

ソクラテス:あなたの考えには多くの示唆がありますが、完全に納得するには時間が必要です。ブルシット・ジョブという概念が注目する現代の労働の問題は明らかですが、それを解決するための手段については、さらなる議論が必要でしょう。特に、社会全体で「価値」をどう定義するのか、その基準をどう共有するのかが問われます。本日はありがとうございました。今後もこのテーマについて深く考え続けることをお約束します。

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