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ドキュメント体調不良
37.4という数字から、この話は始まる。2024年12月15日の朝、自宅で計測した体温の値である。人生の九分九厘を健康体で過ごしてきた私にとって、微熱と倦怠感のみでも慣れずに戸惑ってしまう。
(この数字は何かの間違いだ)
心を落ち着かせる為に体温計を疑う。職場でもう一度測ろう。体温計を鞄に入れ、通常出勤するつもりで電車に乗り込む。この日は2店舗勤務。まず8-11C店ヘルプ、その後は自店のM店に移動し12-17と22-24をこなさねばならない。
7時45分、C店に到着。着替えの後、持参した体温計で再度測定。結果は37.2℃と僅かに下がっただけ。急遽コンビニで購入したゼリー飲料と栄養ドリンクを摂取し、ジキニン(市販の風邪薬)を水で流し込む。まずはこの店舗での3時間を乗り切ることだけ考えろ。
しかし、8時の勤務開始と共に、新たな異変が身体に襲い掛かる。吐き気である。幸いにも客数の少ない時間帯で、仕事自体は何とかこなしていく。このまま3時間が過ぎれば良いのに、と思った。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
8時半、やってしまった。耐えきれず嘔吐である。ここまでの全てが原因不明、思い当たる節も無し。ただ身体が悲鳴を上げているということだけは理解した。現在私とアルバイトスタッフの二人しか居ないC店は11時まで乗り切るしか無いが、M店での12-17のシフトを消化する自信は完全に失っていた。
私も弱くなったものだ。10年前に風邪を引き、立って歩くこともままならない時ですら仕事に穴を開けることは1秒も無かったのに、今これからM店に電話を入れシフト交渉をしようとしている。
「すみません……朝から微熱と吐き気がして、念のためお休みをいただきたいのですが、Nさんに少しでも延びてもらえないか聞いてもらえますか?」
学生スタッフのNは15時までなら残業可能との事で、そこまでは代わってもらう事に。これで12-17は15-17に短縮された。2時間なら多分いけるし、それまで数時間の休息を取れるのは大きい。本当にありがとうございます。
11時、C店での勤務は終了。体温は37.0℃まで下がり、吐き気も無くなった。それでも私の不安が消えることは無く、ジキニンを飲み、休日診療を行っている総合病院に電話をかける。だが繋がらない為、断念。微熱ごときで何故ここまで慎重なのか。こういう時、私の脳内にはいつも4つの記憶が蘇るのだ。昨年4月の長引いた風邪、8月のコロナ感染、9月のインフルエンザ感染、そして今年7月の2度目のコロナ感染である。インフルは先月予防接種を受けたばかりで、コロナも過去2回感染時の体温は37.5℃を超えていたので考えすぎだとは思うが。
とにもかくにも病院を諦めた以上、M店近くの漫画喫茶へ行き、フラットルームで少しでも仮眠をとる。14時半に目を覚ますと、C店店長の“理想女子”(仮名)からの不在着信とLINEの通知に気付く。
『もしかして◎◎の作業やっていない?』
やらかした。自身の体調不良にばかり気を取られ、C店での極めて大事な作業を行わないまま退勤してしまったのだ。よりにもよって理想女子に尻拭いをさせることになるとは汚点も汚点。ちょっと心配し過ぎなのではないか。微熱程度で過剰に心配し、仕事に抜けが出てしまい他者に迷惑をかけるのは良くない。まずは大丈夫だと自分に言い聞かせろ。
気を取り直し、15時よりM店での勤務。最初は身体の異変を感じずいつも通り居られたが、16時を過ぎると再び倦怠感に襲われ辛くなる。しかも、17時までの予定が急遽18時まで残ることになり、その後も休憩室のPCで事務作業をせねばならなかった。ただこれは座っていることもあり楽ではあった。19時半に一旦退勤、また漫画喫茶へ行き、サービスのカレーと炒飯を食し、3度目のジキニンも。治ってきている実感は確かにあった。
M店に戻る。あとは22-24の2時間を乗り越えるだけ……のはずが、ここにきて吐き気が復活、あろうことか2度目の嘔吐をしてしまう。漫画喫茶の炒飯がそれほど美味しくないのに無理してかき込んだのが原因か。温かい蕎麦など、胃に優しそうなものを食べれば良かった。体調不良に慣れていないとこういう初歩的なミスを平気で犯してしまう。終電に間に合い、普通に帰宅できたのが不幸中の幸いだった。
***
翌朝、体温は36.0℃。前日が嘘のように平熱に戻っていた。結果だけで言えば前日の全てが杞憂であり、その影響でC店でやらかし理想女子に迷惑をかけたのは蛇足も蛇足。とりあえずKPT法で反省した。
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私は運良く一日限りの体調不良で済んだが、病状こそ違えど体調不良が毎日、長期間続いている人も居る。例えば蓄膿症(友人)、慢性的な胃弱(昔の中川翔子さん)、アレルギーや精神的なものもあるだろう。そんな人たちだって普通に毎日仕事をしないと生きていけないのは激しく同情する。体調不良でも事務作業が楽に出来るのは良い経験だった。事務職など座るのがメインの仕事も、慢性的な体調不良者のために必要であると身をもって感じた。色々な気付きを得た、そんな日曜。