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高山一実著『トラペジウム』原作感想……遠回りしながらアイドルを目指す展開の面白さ

 上手い小説を書ける人には読書家が多い。故に、私が創作小説の腕を上げる為に必要なのは読書である。それを理解していながらあまり読まない。読んでも大体は途中でリタイアしてしまう。

 例えば昨年、とある有名な小説を読んだ。登場人物が次々に増えていき、すぐに関係性の理解が難しくなった。そこでWordで相関図を作り、それを見ながら何とか100ページ以上は読み進めたが、今度は主人公の父親が母親がどうこう言いだしたので「これ以上増やすな!」と限界が来てしまった。

実際に作った相関図。序盤でこの人数……

 この小説をつまらないと言いたいわけではない。最後まで読めば面白いのかもしれない。しかし、大事なのは展開の面白さよりも読者を最後まで読ませる工夫だとも私は思う。ほぼ創作初心者と言って良い私なんて特に、執筆する際は「まず最後まで読んでくれるのか」を最も心配する。

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 その点“芸能人作家”は、読者を飽きさせない一点においては強いのかもしれない。何せファンを魅了する為にあらゆる手段でセルフプロデュースをしてきた猛者たちだ。元乃木坂46の高山一実さんもその一人であり、やはり読書家でもある。処女作『トラペジウム』はなんと25万部以上も売れ、アニメ映画まで制作され本日封切られたばかりだ。私自身もアイドルを取り扱う小説を執筆中ということもあり、気分転換に読んでみた。

「仲間を集めてアイドルグループを結成する話」なのは何となく想像がつく。それだけなら『ラブライブ!』シリーズなどで散々やってきたテンプレに過ぎない。しかし、この作品は序盤から期待を感じた。“アイドル”の4文字がなかなか作中に登場しないのである。確かに主人公のあずまゆうは南や西にある高校へ行きスカウトを図るのだが、理由はあくまでも「友達が欲しい」で通す。何も知らない読者としては、序盤の時点ではまだアイドルを目指してすらいない可能性も残しており、どのタイミングでアイドルが絡んでくるのかという期待に胸を膨らませつつ読み進めた。ほら、読者を飽きさせない工夫があるじゃん。

 13%(Kindle版P.49)の時点で東がアイドル好きであることは明かされるのだが、実は最初からアイドルグループの結成を目論んでいた事実が発覚するのは18%(同P.59)まで読み進めた時だった。東は自身の夢をシンジにのみ打ち明け、肝心の蘭子やくるみ、美嘉にはずっと隠し通したまま。何故なのか。

 その理由が不明なままアイドルとは程遠い展開が続く。好感度の上がる写真を撮る為だけに美嘉の登山ボランティアにメンバー全員で付き添い、城案内のボランティアでテレビ番組の取材を受け、その際に知り合ったAD古賀が4人を深夜番組のロケレギュラーに導く。既に第八章、80%まで読了しようとしていた。

 東は3人(特にくるみ)をどう説得するのか? 否それ以前にアイドルの話どこいった? そう思っていた矢先、東が古賀に「事務所に入りたい」と相談することで流れが変わる。なんとドッキリ形式で「番組のエンディング曲を歌ってもらう」と4人に伝え、強制的にアイドルデビューをさせてしまうのだった。この展開は流石に読めなかった。もちろん東も最初からこんな遠回りしてアイドルになりたかったわけではなく、その前に普通にアイドルオーディションを受けては落ち続けた過去があったからこその苦肉の策であることも説明されている。とにもかくにも、読者に期待を抱かせたまま8割も読ませた時点で作者の勝利である。

 残りの20%については特段語ることは無い。途中で東以外の3人が脱退、東だけは再びアイドルを目指し、数年後に夢を叶え4人(5人)で再会のエピローグである。

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 最初から最後まで全部面白かった。強いて言うなら城案内ボランティアのくだりが少々長かったかな……くらいである。登場人物も少なく、キャラ付けもシンプルで分かりやすかった。何より、長年アイドルとして活躍を続けてきた高山さんだからこそ書けた話なのだろう。誰もが自分にしか書けない話を持っている。芸能人なら尚更だ。そんな芸能人作家の作品をこの先も色々読んでいきたい。

 時間とお金に余裕があれば劇場版も観に行きたいのだが、今は創作大賞の執筆にリソースを割かねばならないので難しそうだ。

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