【優】蛇は食べられる。それを知っているから、私は人を傷付けたくない。
ウバといいます。
訪ねていただきありがとうございます。
どうせなら、優しい人でありたい。そう思いながら生きてきて、恐らくその通りになっている。よく、優しい人だといわれる。
私の経験則ではあるが、自分で自分を優しいと言う奴は信用ならない。私は優しい人ではなかった。だからこそ、優しい人に成った。
優しい人には誰でもなれる。そんな記事にした。
職場にヘビが出たらしい。
都会で働く人は驚愕するかもしれない書き出しだが、田舎の山奥で働く私にとっては意外と日常だったりする。
ホウキやら長い棒を持った女性職員の姿が見えた。どうやら追い払ったようだ。ヘビは神の使いなんていわれるが、ホウキや棒で突付いて良いのだろうか?なんて考えながら眺めていた。
私にとってのヘビは神の使いでもなんでもなく、ただのクネクネした爬虫類だ。毒なんか持ってて噛み付いたり巻き付きたりするヤバイ奴。たまに芸能人が罰ゲームとかで首に巻いたりもする。
その程度の存在でしかない。
あ、
それともう一つ。ヘビは食材でもある。ヘビは食べられるのだ。栄養もそれなりに豊富らしい。食べたことは、まだない。
ヘビは食べられる。そのことを知ったのは、私が小学生のときだった。
私が小学生の時、ヤン君という男の子がいた。中国からの転校生で、小柄で元気な男の子。まあ、小学生は誰もが小柄なのだが。
1年ほどでまた転校していったのだが、記憶とは曖昧なもので、私はそれが4年生の頃の話だと記憶していた。
先日、同級生に確認したところ、どうやら2年生の頃の話らしい。私の記憶はアテにならないな、と少し落胆したのだった。
ヤン君とは特別仲良しというわけでもなく、かといって仲が悪いわけでもない。一緒にいたら一緒に遊ぶ程度の仲。
カタコトではあるが日本語も喋れて、意思疎通は問題なくできていた。身近に外国人がいる生活ではなかった私にとって、はじめての身近な外国人がヤン君だった。
ヤン君が転校してきて暫くして、ひとつの噂が私の耳に入ってきた。
「ヤン君の家はヘビを食べてるらしい」
幼い私にとって、この噂は衝撃だった。ヘビってあのヘビ?ニョロニョロの?毒とかあって噛んだりもするヤバイあいつ?
「うえぇ、気持ち悪るう。ヤン君の家、マジヤバイやん」と、私達は盛り上がった。ベビを食べるなんて、マジヤバイ。キモい。
当時「マジヤバイ」やら「キモい」という台詞が存在していたかは不明だが、どうせ私の記憶はアテにならない。
だからといって、私達はヤン君と距離を取ったりはしなかった。ヘビを食べるのは気持ち悪いが、ヤン君はヤン君だった。
そもそもヘビを食べるは、噂でしかないのだ。そのうち噂も忘れてしまっていた。友達数人とヤン君の家に遊びに行ったのは、そんなある日。
ヤン君の家はアパートの一室。玄関を開けてカタコトの日本語で「ただいまあ」とヤン君。「おじゃましまーす」と私達。
迎えてくれたお母さんは、料理の途中だった。台所に立つお母さんと、まな板の上のお肉。そのお肉がなんなのか、そんなのは知らないし覚えてもいない。
しかし、私達はそれをヘビのお肉だと勝手に決めつけた。「うわ、本当にヘビ食べてるやん」と私達はヒソヒソと言い合った。
それでも、その日は楽しく遊んだ。帰りに私達は、ヤン君のお母さんから手作りのクッキーをもらった。ちゃんと包装された美味しそうなクッキー。
帰り道。私達はそのクッキーを、捨てた。
理由は忘れた。「なんとなく汚い」とかだったと思う。ヘビが入ってるんじゃない?とか言い合って笑いながら、捨てた。
帰り道の草むらに、隠すこともせずそのまま捨てた。当時の私に少しの配慮があれば、せめて隠すくらいはしたはずだ。
その道をヤン君家族が歩くのは、少し考えればわかる。そもそも捨てること自体が間違っているのだが、せめて家に帰って捨てるべきだった。
そのクッキーにヤン君が気づいたかは知らない。次の日には美味しかったと伝えた。ヤン君とは、変わらずに遊んだ。
そこから長くせず、ヤン君の転校を知る。
学校最後の日、ヤン君のお母さんも学校に呼んでお別れ会をすることになった。出し物を少しする程度のお別れ会だ。
出し物は、頭の上に見えないようにフリップを持って、そこに描かれている絵について質問するゲームだった。
ヒマワリが描かれたフリップを持った人に「あなたはそれを食べたことありますか?」と聞く。「はい」と答えた後にみんなで笑う。
「ヒマワリ食べたのかよーマジヤバイってー」や「キモいー」なんて言って笑う。小学生とは、そんなゲームで大盛り上がりできるのだ。
当時「マジヤバイ」やら「キモい」という台詞が存在していたかは不明だが、どうせ私の記憶はアテにならない。
ヤン君のお母さんの番だった。フリップにはヘビの絵。偶然なのか、仕組まれたのかは分からない。しかし、私達の質問は決まっていた。
「あなたはソレを食べたことありますか?」だ。
お母さんは「はい、食べたことあります」と答えて絵を見る。私達は大笑いだった。「やっぱり食べてるじゃん!」と笑ったのだ。
「え?ヘビ食べますよ?とても美味しいですよ?」と、キョトンとしたお母さんの顔を、私は今も覚えている。
私達はその後も「ヘビ食べるとかマジヤバイってー」「マジキモイってー」と笑ったのだった。
当時「マジヤバイ」やら「キモい」という台詞が存在し……(以下略)
ヤン君もお母さんも笑顔でお別れ会は終わった。お母さんのキョトンとした顔が、私の中には残っていた。きっと不快な思いをさせたことにも、私はどこか気付いていたのだと思う。
この出来事がキッカケというわけではない。様々な出来事を経て今、私は、優しい人に成ったのだ。
あらためて。私の経験則ではあるが、自分で自分を優しいと言う奴は信用ならない。私は優しい人間ではない。
初めて会う人でも、相手を不快にさせる言葉くらい一瞬で10個は思い付く。毎日のように顔を合わせる職場の人なら100個は余裕だ。
100個なんて少し大袈裟に書いてしまったが、相手を不快にさせることなど簡単だ。傷つけるのも容易にできる。
相手を傷つけないのは、それが良いことだと思わないからだ。不快にさせることも傷つけることも、できればしたくない。
私の職場では、毎日のように人が人を傷つけている。職員を馬鹿にする言葉や利用者に対する怒鳴り声。右から左から、誰かが誰かを傷つけている。
優しい人には、誰だって成れる。ヘビが食べれることを知れば良い。クッキーは捨てずに持ち帰ればいい。ただ、それだけだ。
知識と配慮
それだけで優しい人に成れる。私は優しい人ではない。誰だって簡単に傷つけることがてきる。不快にもできる。それが嫌だから、私は、私を優しい人にした。
私は、優しい人でありたい。
今、私は伝えたい。ヘビは食べれることを。クッキーの持ち帰り方を。
誰だって優しい人に成れる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
自分がされて嫌なことは、他人にはしないってだけです。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。