【存在意義】夜の風は冷たくて、私は歩き出す。
ウバといいます。
訪ねていただきありがとうございます。
12月手前。夜の風は冷たかった。いよいよ本格的に冬がはじまるなと感じる。もう少し厚着してくるべきだったと後悔している。
某UNIQLOのヒートテックに薄手のジャンパー。下に至っては短パンである。筋肉が落ちて細くなった足が震えていた。
38歳のオッサンは、車の鍵とスマートフォンだけ持って家を飛び出していた。家出とよぶべきだろうか、それともただの外出なのか。
嫁さんが不機嫌だ。原因はもちろん私にある。病気の身体から腫瘍を取り除くように、私は家を出た。にしても寒い。
鍵を持って出たのがよかった。家から少し遠くに停めた愛車に乗り込み冷たい風から身を守る。
酔うほどにお酒を飲んでいたが、寒さのせいで酔いも醒めた。エンジンをかけて暖房を入れるという選択肢が思い浮かばなかったあたり、完全に酔いが醒めたとは言えないのだろうが。
もう少しで今年が終わる。39歳になる年がくる。そんな夜になにやってんだ俺は。なんて少し寂しくなる。そして考える。ほんと、なにやってんだと。
トレッドミルの上に立っている気分だ。歩いてはいる。努力もしているつもり。なのに私は前に進んでいない。いつまでたっても同じ場所で足踏みしているような気分だ。
疲れはする。歩いているんだから。しかし前には進まない。横を見ても誰もいない。みんな前に進んでいる。みんなの背中だけが遠くに見える。
みんなって誰やねん!とツッコんでみたが、その答えも私は知らない。勝手に取り残された気分になっていた。
心が風邪気味なのは気付いている。それを言い訳にお酒に逃げているのも知っている。しっかりしないといけないな。と、まだ少し酔いが残った頭で考えた。
しっかりする。それがどういうことなのかも知らない。それでも私はもう少し、しっかりするべきだと思った。
1時間ほど車内にいた。すっかり身体は冷えてしまっている。早く家に帰ろう。この寒さは老体には鞭過ぎる。
家出をした少年は意外と家の近くにいる。探してほしいのだそうだ。家出とはそういうものらしい。気付いてほしいのだろう。
家出をしたオッサンも近くにいる。探してほしいのだ。もちろん誰も探しになんかこなかった。自分の足で家に向かう。ほんとなにやってんだ、とため息が出る。
ため息は白くて、すぐに消えた。
トレッドミルから降りてみよう。大丈夫、進まなかっただけで歩いていたんだ。歩きかたは知っている。それより嫁さんに謝ろう。そう思って玄関を開けた。
そんな夜。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
キレた嫁さんは鬼よりも怖い。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。