山田金一物語:第6章:税務課勤務
地方公務員は、一定時期に
転属しなければならない。
それでも、やはり適正と考えられる部署である。
税務課は、税務の帳簿計算に算盤の名手が必要とされた。
算盤の腕前は、失業対策事務所や観光課でも、金一の腕前は知れ渡っていた。
金一の転属先は、税務課と決まった。
金一にとって、事務計算は
得意中の得意である。
最初は何も問題はなかった。
下関市は公営ギャンブル場
下関競艇場があった。
競艇場はギャンブラーの
溜り場となった。
ギャンブルで儲ける客は
ほんのひと握りしか存在しない。
胴元である下関市が、ほとんど搾取するからである。
どこの自治体でも同じであるが、公営ギャンブル場はこうして、その自治体に利益をもたらすので、ギャンブルで破産する者が続出しても、自治体はやめることは出来ないのである。
ギャンブルにのめり込んだ客のかなりの数は、破産した。
破産すれば、当然、税金は払えない。
そこに待ち受けているのが、家財の差し押さえである。
差し押さえ業務は税務課の仕事である。
金一は、その差し押さえ業務を担当した。
大きなトラックの荷台にリアカーを積み、そのリアカーで
破産した家庭に赴く。
家財道具に「差し押さえの札」を貼り、その家の人がいる眼の前で、家財をリアカーに積み、トラックまで運ぶのが金一の役割である。
住人が、「お願いだから持っていかないでくれ。」と
金一の足にすがりつく。
金一も業務命令だから、住人を足から離す。
住人は叫ぶ。
「この鬼め〜!」
心優しき金一は、精神的に参ってしまい、今でいうところの「重度の鬱病」となった。
まだ、精神医学が発達していない時代、「ノイローゼ」と
呼ばれ、キチガイ扱いされた。
しかし、公務員の利点は
首になることは無い。
閑職にまわされるだけである。
そして、比較的緩い環境の
「港湾課」に転属した。
そこは、不審船の見張りと
入港した漁船の給水係と
給水帳簿計算だけの閑職であった。
続く