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柿、柿、「ずくし」

近所の柿の実が、とてもいい色になってきた。
日を浴びて輝いている姿も、ぽうっと闇に浮かんでいる姿も、いい。
青果売場には、こぼれそうなほどの柿が並ぶ。

昔から、柿が好きだった。
我が家で柿が好きなのは父と私で、母と姉は苦手。2対2だけれど、食に関する発言権において、父も私も劣勢だったから、柿を買ってもらえることは少なかった。

その反動なのか、大人になってからは、やたらと買ってしまう。
かたい柿をむくときの、ザリザリした音が好き。ほのかな香りと甘み。
うっとりするような華やかな香りや、とろけるような甘さの果物が台頭しているけれど、柿は相変わらず地味なまま。そこがいい。

柿といえば、谷崎潤一郎「吉野葛」の「ずくし」。

円錐形の、尻の尖った大きな柹であるが、真っ赤に熟し切って半透明になった果実は、あたかもゴムの袋のごとく膨らんでぶくぶくしながら、日に透かすと琅玕(ろうかん)の珠のように美しい。
…私がもし誰かから、吉野の秋の色を問われたら、この柹の実を大切に持ち帰って示すであろう。

ちくま日本文学「谷崎潤一郎」吉野葛


最近スーパーでは、柿がみかんに侵食されつつある。季節は変わりつつあるのだ。
今のうちに、柿を買おう。


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