鵺と鎮魂

先日、能を観に行った。
演目の一つは、「鵺」(ぬえ)。
源頼政に退治される怪獣で、平家物語にも出てくる。

帝を悩ませていた鵺を頼政が射落とし、淀川に流す。
頼政は鵺退治の功績で、帝から剣をいただく。平家物語で描かれているのは、そんな頼政の活躍のひとこまで、称賛に対して当意即妙の歌で返す、歌人としての素晴らしさも紹介される。

他方、能の「鵺」は、世阿弥の作。
旅の僧が鵺の亡霊に出会い、殺された顛末を語られ、供養を頼まれるという物語。
退治された側から描いているのが、面白い。

ふと、福井の東尋坊のことを思い出した。
行ったのは数年前。思わず足がすくむ、切り立った崖だ。
東尋坊というのは僧侶の名前だと、船頭さんが教えてくれた。
悪事を繰り返す東尋坊に周囲が困り果て、崖から突き落とす。その後、海は荒れ狂う。
ある僧が、東尋坊の魂を鎮めるために歌を詠むと、やがて海は静まる(諸説あります。)。

鵺のお話も、悪いやつをやっつけて、めでたしめでたし、ではなく、退治された者の魂を慰めるところが、いい。

世阿弥の時代から、2022年まで、そしてこれからも語り継がれる鵺の悲しみ。
こちらの魂も、鎮められたような気がする。

今日も仕事だ。

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